ストーリーはだれのもの? ~コンテンツマーケティングに欠かせない、心が動くストーリー~
こんにちは。Production & Operating 部門長の成田幸久です。
自分が生まれたときのことを覚えていますか?
あるいは自分の最初のストーリーを覚えていますか?
わたし自身、生まれて最初の記憶を辿ってみると、たぶん2歳~3歳の頃でしょうか……お風呂で姉に湯船に突き落とされたとか、保育園に入る直前にきしめんで腕に大やけどをして登園拒否になったとか、粉ミルクで育ったゆえに母乳に憧れ、わがままを言って隣人のおばさんに母乳を吸わせてもらったとか……そんな記憶が脳裏に浮かんできます。こういった原体験が自分の人格形成に影響を与えたかどうかはわかりませんが、わたしのおっぱい好きはこのときの母乳トラウマにあるのかもしれません……なんて余談はさておき。
サスペンス映画の礎を築いたヒッチコック監督は、「映画とは、退屈な部分がカットされた人生である」と言いましたが、このような原体験の記憶は、まさに人生の退屈な部分をカットした「自分のストーリー」なのかもしれません。
「社会においてストーリーが力を失ったとき、その先に待っているのは退廃である」と記したのは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスですが、彼はギリシア悲劇において、ストーリー全体を3つに分けて構成する「三幕構成」を唱えたことでも知られます。この三幕構成は二千年以上を経た今日のハリウッド映画でも導入されている手法で、ストーリー作成の基本ともいわれます。
その三幕構成とは、
第一幕(状況設定)
問題の提示。主人公が悩み、あるいは窮地に追い込まれる。
第二幕(葛藤)
問題の解決へむけた行動。主人公は窮地から逃れようとするが、壁にぶち当たり、その結果さらなる窮地に追い込まれる。
第三幕(解決)
問題の解決。主人公が窮地を脱する。あるいは挫折する。
わたし自身の原体験を例にあてはめてみると……
第一幕(状況設定)
母乳を飲んでいるヨソの赤ちゃんの姿を見て、自分はなぜ母乳じゃないのか?と問題を提示。
第二幕(葛藤)
母乳が飲みたい!とわんわん泣いて母親に直訴ーー問題の解決へむけた行動をとる。
母親は母乳が出ないものはしょうがない……。さて困った。
第三幕(解決)
そこで母親は考えた。すでに母乳が出なくなっていた母親は、隣人のおばさんに頼んで母乳を吸わせてもらうことに。わたし(主人公)は、母親の母乳は望めなかったものの、他人の「母乳を飲む」という試みを終え、とりあえずの窮地を逃れる。
これが三幕構成です。
あなたも、試しにご自身の原体験を振り返ってみてはいかがでしょうか。きっとこの三幕構成「状況設定」「葛藤」「解決」がぴったり当てはまるはずです。
生まれる、生きる、死ぬ。
起きる、食べる、寝る。
恋する、結婚する、子どもを授かる。
怒る、闘う、勝つ。
モテない、自分を磨く、モテる。
そう、人生は三幕構成のストーリーそのものなのです。
「心が動くストーリー」と「退屈なストーリー」
では、三幕構成ができていればストーリーは必ず成立するのでしょうか? 答えはイエスであり、ノーです。ストーリー自体は作れるかもしれませんが、心を動かされない退屈なストーリーでは意味がありません。
「生まれる、生きる、死ぬ」は一生の過程でしかありませんが、これをたとえば太宰治風に言い換えると、「生まれる(状況設定)、生まれて、すみません(葛藤)、自殺(解決)」となって、三幕のプロセスにコントラスト(対比)が生じます。
人は「起きる、食べる、寝る」だけの退屈なルーティンの人生(ストーリー)を見せられても共感も感動もしませんが、「路頭で目覚める(状況設定)、空腹に苦しみ食べ物を乞う(葛藤)、老紳士にパンと寝床を提供される(解決)」となると、三幕のプロセスに変化が起き、心を動かされ、共感を促されます。
心を動かされるストーリーのツボは、この「変化」と「コントラスト」にあるといえます。
たとえばスポーツ。
スポーツは筋書きのないドラマともいわれますが、野球なら10対1の快勝より、シーソーゲームの果ての9回裏の逆転サヨナラ満塁ホームラン。サッカーならロスタイムでの勝ち越しゴール。ゴルフならホールインワン。スポーツ観戦において、どたんばの大逆転が感動を生むことは、だれもが体験で知るところです。
あるいは大ヒットした映画やドラマ。
キャラクターなら、「スター・ウォーズ」のハン・ソロとルーク・スカイウォーカー、「タイタニック」の貧乏な青年ジャックと富豪の娘ローズ、「ダークナイト」のバットマンとジョーカー、「24」のジャックとクロエ、「ローマの休日」の王妃と新聞記者……。構図なら、善と悪、失敗と成功、挫折と成長、貧乏と金持ち、男と女、生と死……。
このように心を動かされるストーリーでは、必ず「変化」と「コントラスト」が強く描かれています。問題提起から問題解決に至るプロセスにおいて、「変化」と「コントラスト」が強調されるほど、人は驚き、心を動かされ、共感します。
また、人は基本的に情報を記憶することが苦手です。100分の映画のあらすじを語ることは簡単にできても、出演者すべての名前を簡単に暗記できる人はいません。「184184819419410072」という記号としての数字を覚えることは苦手でも、「イヤよイヤよはイクよイクよと同じ」というストーリー(語呂合わせ)に置き換えればすぐ覚えられます。単なる名前や数字の羅列には「変化」と「コントラスト」がないため、心を動かされることもないし、記憶することも困難です。わたしたちは、幼い頃に聞いた童話のストーリーは忘れませんし、“退屈な部分がカットされたストーリー(人生)”は、幼児の頃のことですら鮮明に覚えているものなのです。
人は何も起こらない事実や無機質な情報にはすぐ退屈します。それが心を動かすストーリーであれば、たとえ悲劇であろうと恐怖であろうと興味を抱き、心に留めます。ストーリーはそれほどまでに人の心を動かし、記憶に残るものなのです。だから、人に何かを伝えるときにはストーリーが欠かせないのです。ストーリーは心を動かすスイッチであり、伝えたい情報を心に刻む記憶装置なのです。
とはいえ、ストーリーの主人公はあなたではない。
あなたはいま、ビジネスにおいてオーディエンス(潜在顧客/見込み客)に自社の魅力を伝え、商品やサービスを購入してもらいたいと考えているとします。
あなたのストーリーの主人公は、あなた自身です。しかし、あなたがオーディエンスに伝えたいと思うストーリーの主人公は、あなた自身ではありません。あなたは主人公であるオーディエンスを第一幕(状況設定)から第三幕(解決)へ導くメンター(助言者)なのです。オーディエンスが「バットマン」のブルース・ウェイン(主人公)なら、あなたは執事のアルフレッド・ペニーワース(メンター)であり、オーディエンスが「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカー(主人公)なら、あなたはヨーダ(メンター)なのです。
オーディエンスはおっぱいを欲しがる赤ちゃん(主人公)であり、あなたはおっぱいを与える母親(メンター)なのです。
オーディエンスがある問題を抱え、それを解決をしたいと思ったとき、もしあなたが下の写真の人のように一方的な主張をしたら、オーディエンスはあなたに心を動かされたり、共感を抱くでしょうか?
多くの企業は自社のアピールに躍起になるあまり、意外にもこういう一方的な主張をしがちです(表現方法はもう少し遠慮がちだとしても、プッシュ型のペイドメディアはこれに近いアプローチといえます)。オーディエンスが自分の求める情報を好きなように取捨選択できる時代、やみくもに一方的な自己主張だけをしても、オーディエンスの耳には届きません。もちろん心も動かされないし、共感もしません。仮に瞬発的に興味を引いたとしても、一過性で終わるのがオチでしょう。
つまり、あなたがビジネスにおいてオーディエンスに認知され、商品やサービスを購入してもらいたいと思ったら、まず相手の立場になって「心が動くストーリー」を用意しなければなりません。あなたの成功は、オーディエンスが描くストーリーに、あなたが描くストーリーを重ね合わせられるかどうかにかかってきます。
同じ悩み、同じ葛藤、同じ怒り、同じ苦しみ、同じ喜び、同じ幸せ、同じ楽しみーーオーディエンスのストーリーとあなたのストーリーが同期したとき、そこに共感が生まれ、オーディエンスはあなたに心を許し、ファンになるのです。
次回は、あなたが描くストーリーとオーディエンスのストーリーを同期し、いかにしてオーディエンスの態度変容を促すか。その手法についてご紹介したいと思います。