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攻めたイベントは「未知」を求めるエンターテイナーから生まれる!【BACKSTAGEレポート】

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2023年2月9日に開催されたイベント『BACKSTAGE』内のセッション「これが令和のエンターテインメントだ! – 時代を先取る体験設計の考え方 –」に、インフォバーン代表取締役社長・田中準也が、川崎フロンターレ・プロモーション部長の天野春果さん、グレートワークス取締役COO/貝印執行役員の鈴木曜さんとともに登壇いたしました。そのセッションの模様をお届けします。

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「ガンプラを宇宙に」「引退セレモニーに神輿」

まるでプロレスラーが入場するように、煌びやかなライトを受けながらステージに登壇した3名。田中準也をモデレーターに、鼎談がスタートしました。

▲BACKSTAGE実行委員会より提供(登場シーンのXR演出は株式会社ロボットと株式会社フォトロンによるもの)

天野春果さんは、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会にも携わった、川崎フロンターレのプロモーション部部長。鈴木曜さんは、北欧のクリエイティブ企業であるグレートワークス日本法人の取締役COO(最高クリエイティブ責任者)にして、刃物や調理用品を製造・販売する会社、貝印の執行役員。
ともに数々のイベントも手がけられるクリエイティブディレクターです。

まずセッションの初めで、田中は「モノ消費からコト消費へ」と言われていた流れから、さらに時代が進み、令和は非再現性や参加性、貢献性がポイントになってきていると言います。
たとえば、聖地巡礼をしたり、ハロウィンやファンミーティングといったイベントに参加したりする「トキ消費」。災害地域の材料を使用することに価値を見出すような「イミ消費」。アイドルの誕生日を祝う女子会を狙ってカラオケ店がパックを組むほどに活況を呈している、推し活などの「エモ消費」。

社会環境としても、音楽ライブなどでイベントの人数制限が解かれつつあるいま、天野さん、鈴木さんは近年、どのようなエンターテインメント・イベントを仕掛けてきたのでしょうか。

天野さんは、2021年の東京オリンピック・パラリンピックの際、東京2020参画プログラム「ONE TEAM PROJECT」の一環として、ガンプラを搭載した小型衛星を宇宙に飛ばす「G-SATELITE 宇宙へ」という企画を立てられました。

▲©Tokyo2020 ©創通・サンライズ

「実際に宇宙には行ったんですよ。ただ、宇宙に放出した3日後にはぶっ壊れました(笑)。けっこう『どうなったんだ?』という声が来るんですが、実はいまはオリンピックに関するエンタメ系の話題を表に出しづらくなっていて……。発信を控えるしかなくて、Googleの検索窓で入力すると『G-satelite どうなった』と検索候補が出てきます(笑)。中途半端にはなってしまいましたが、実際に宇宙には行きましたし、そうしたプロジェクトの進め方もわかりました!」(天野春果さん)

所属されている川崎フロンターレが2020年に開催した、中村憲剛選手の引退セレモニーも、天野さんの企画です。

▲「[2003-2020 中村憲剛選手 引退]特設サイト KAWASAKI  FRONTALE」より(©川崎フロンターレ/photo by O.Suguru)

「神輿を出したんですよ。1986年のメキシコ大会で、マラドーナが担がれてスタジアムを一周したことが僕の記憶に強く残っていて、傍目にはだいぶ遠く感じると思いますけど、そこからヒントを得たんです(笑)。僕の中ではイメージは一緒で、それを令和風にアレンジしたつもりです」(天野春果さん)

開催当時はコロナ禍による自粛の真っただ中。サッカーの試合観戦ですら1万人までという入場制限があったなかで、このセレモニーには、試合があるわけでもなく、しかも有料にもかかわらず、1万3000人のサポーターが集まったそうです。

「中村憲剛は川崎フロンターレのレジェンドなんで、その引退セレモニーを『コロナ禍だから』と大人しくしちゃいけない。『1万人以上が参加した』という伝説を残したかったんです。その後、神輿はレジェンドの証として、大久保嘉人の引退セレモニーでも使いました。いま現役で活躍するフロンターレの選手にとって、神輿に乗ることが一つの憧れになればいいですね」(天野春果さん)

とはいえ当初、大々的な開催については、やはり賛否両論があったそうです。おまけに準備期間が2ヶ月というなかで、「オレの自由にさせてくれ」とスタッフを説き伏せての開催でした。「よくついてきましたね、スタッフが?」と田中も驚きます。

「詳しい話はしないというのが大事じゃないですか。大人数で話し合うと、いろいろな意見が出てエッジが削られてしまうじゃないですか。もちろん、安全性については自分の中で考えていて、クリアすべきハードルは設定していました」(天野春果さん)

同じ川崎フロンターレのイベントで、最近注目を集めたのは新体制発表会見です。なんとその場で、天野さんは選手の紹介はそこそこに、3時間以上にわたるエンターテインメントショーとして、サッカーとは関係のない川崎のソウルフード「ニュータンタンメン」をPRするようなイベントを企画されたのです。

▲天野春果氏より提供

その企画の発端は、川崎市副市長である藤倉茂起さんから、熱く「ニュータンタンメン」について語られたことがきっかけだったそう。「オールニュータンワールド」と題して開催したところ、多くの記事として取り上げられるほどの反響が生まれました。

「Club」と「Crub」のダジャレ発想がオシャレなDJイベントに

続いて、鈴木曜さんが企画されたイベントの話題です。ちょうど田中は、鈴木曜さんがパーソナリティを務められるFM TOKYOのラジオ番組「Kiss our humanity 心に触れて“整える”時間」に出演したばかりです(※詳細はこちらの記事をご覧ください)。

▲鈴木曜氏より提供

そんな多彩な鈴木さんは昨年、夏木マリさんのイベント「NATSUKI MARI FESTIVAL in KYOTO 2022」『PLAY × PRAY』を企画されました。「鬼退治」をテーマにすることで夏木さんと意気投合したそうで、清水寺を舞台にプロジェクションマッピングを用いて開催されたイベントです。

また、2019年には、貝印が製造するカニ用のハサミを販促するために、「Crab( =カニ)」と「Club(=クラブ)」をかけたカニと音楽を楽しむナイトクラブ・イベントを六本木で開催されています。

▲鈴木曜氏より提供

「ハサミを売るためにはまずカニを売ろうということで、イベント名を「SHUT UP & EAT」と題して開催しました。みんな大喜びでカニに群がってましたし、すごく良いイベントでしたね」(鈴木曜さん)

距離のある二つを結びつけるそのダジャレは思いつけても、「それを実現するところがすごい」と天野さん。その「実現する」というポイントの重要性について、田中も大きくうなずきます。

「お二人のエンターテイメントの作り方って、どこかにすごく労力をかけすぎていますよね(笑)。クオリティに異常にこだわっている」(田中準也)

そのことについて、天野さんは例として「山頂で食べるカップラーメン」を挙げます。価値はシチュエーションや心持ちで変わる。だから、たとえ物自体に価値がなくても、見せ方や組み合わせで価値はつくれる。

「何と何を掛け合わせたら、価値が生まれるのか。『山頂でカップラーメンを食べているような形になれるかな』とずっと考えていますね」(天野春果さん)

「僕も細部のクオリティまで高くすることで、体験価値が強くなるので、出だしはすごくくだらなかったとしても、ちゃんと真面目にやります。イベントには、企業イベントだから格式が求められるとか、チームの意向があるとか、困難もあると思いますけど、それでも『妥協しない』というのが大事かなと思いますね」(鈴木曜さん)

鈴木さんに賛同する天野さんは、そうしたくだらないことを徹底的にやりきる姿勢を「Cheap Cool」と表現されました。

二人のぶっ飛んだアイデアは、どこから生まれるのか?

▲BACKSTAGE実行委員会より提供

そんなお二人の思考と行動はどうなっているのか。それは、「普段」と「いざ」というときで変わるのか。

「僕は基本的に、クリエーションは組み合わせだと思っているので、異なるものをどう組み合わせたら楽しいかを考えていますね。異なるものを入れたら、もう片方の普通のものも変わって見えるので、ハレーションやシナジーを起こせる。一つでも良いから未体験や未実施の「未」をパッケージに入れるようにしています。普段と『いざ』については、あまり違いはないですね。何を見ていても、そういう視点で見ちゃっていますから」(鈴木曜さん)

「僕の場合は企画するときに、ビジョンがハッキリ、クッキリ見えていますね。こういう話し方、こういう空気観でイベントをやったら、お客さんはこういう顔になるだろうというイメージが湧いています」(天野春果さん)

天野さんは昔から、『欽ちゃんの仮装大賞』を見たら「自分ならどうすればよいかな」と、お風呂に入りながら妄想しているような子だったそうです。一方、鈴木さんは、『キン肉マン』の新キャラクター投稿企画に、「こんなキャラクターが出たらよいな」と妄想しながら画を描いて投稿したり、「こうしたらこのプラモデルはもっと格好よくなるな」と妄想するような少年だったそう。イベントにオリジナリティを出すのも、その延長線上にあると言います。

「アイデアが浮かぶには、同じ業種の人で集まるとよくないですよね。サッカー業界で言うと、三苫薫とか、田中碧とかの話ばっかりするので。もちろん、それが悪いわけじゃないんですけど、そうした環境にいると、サッカーとサッカー以外を組み合わせた企画を考えようとしても、何も出てこなくなりますよね。それこそこの『BACKSTAGE』で話しているような会話のほうが、アイデアが浮かびます。僕はサッカー界には知り合いがいないですからね(笑)」(天野春果さん)

クリエイティブにおける他者との関わりという点では、鈴木さんは誰のアイデアでも優れていれば取り上げて、自分のアイデアには固執しないそうです。天野さんは自分の能力の長短を自覚しているので、いろんな人とつながっておいて、自分に欠けている能力を持っている人を積極的に巻き込むと話されました。

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「『失敗』という二文字が嫌いで、「失敗した」と思ったことはないです」と言う天野さんと、「そもそも『失敗して怒られる」ってなんでしょうね。『怒られそうだから』とか考えたことがないです」と言う鈴木さん。モデレーターを務めた田中も含め、このセッション自体が、3人のエンターテイナーぶりを見せてくれるものでした。

「宇宙への打ち上げはリスクが高くて、なかなかみんな手が出せないけど、失敗しても結局は回収できないから原因もわからないし、そういうところも面白いんですよね」と再び宇宙という「未知」の話をし合いながら、「次回は3人であの探検隊さながらに、探検しましょう!」という田中の言葉で、セッションは終了しました。

▲登壇終了後にも話が尽きず、別会場でフリートークを繰り広げる3人

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。