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真の「パーパス経営」とは何か? ガバナンス目的を超えた意義【小西圭介対談3/3】

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2023年4月7日に、株式会社ニュースケイプ代表の小西圭介(こにし・けいすけ)さんをお招きして、弊社代表取締役会長(CVO)・小林弘人との対談を実施いたしました。

ブランディングの第一人者として知られ、現在は株式会社電通から独立し、ブランドアクティビストとして活動されている小西さんは、それまでの「商業ベース」「手段ベース」の仕事から、「目的ベース」の仕事へと事業の軸が変わったことで、そのマインドセットまで変わったと語ります。

この十数年で「パーパス経営」という言葉が浸透しながらも、どこか空回りしている様子も多々感じられる「パーパス」というものについて、その本質と真の重要性について、あらためて語り合いました(第3回/全3回、第1回はこちら、第2回はこちら)。

※読みやすさを考慮し、発言の内容を編集しております。

社会課題解決とビジネスが交わるヨーロッパのスタートアップ

小林:専門のブランディングと絡めて、パーパス経営についてもうかがいたいです。

小西:株式会社ニュースケイプの立ち上げにあたって、私もパーパスを最初に考えまして、「社会を変える100のブランドを育てる」と掲げました。自分なりにかなり背伸びしてつくったんですけど、それから何か迷ったときに振り返って、自分はこういうことをやっていくんだという指針になっているので、やっぱり自分の会社のビジョンやパーパスをつくるのは大事なことだなと実感しましたね。

そもそも今の日本で、本当に自分で何かをやっていこうとする人がまだまだ少ないんじゃないかと感じていて、独立したのは自分から何か目的をつくって、そこに対して取り組んでいけるチャンスを与えられたのかなと思いまして、取り組んでいる次第でございます。

小林:そもそも独立して、ニュースケイプを立ち上げるきっかけとしては、具体的に何かあったんですか?

小西:一番大きなきっかけが、小林さんにお誘いいただいたベルリンの「TOA(Tech Open Air)」です。ちょっと小林さん相手に、予定調和的な展開かもしれませんが、本当です(笑)。初めてうかがってから、非常に気に入って3年連続、毎年参加いたしました。

△2019年のTOA参加を含むベルリン視察プログラムの様子(撮影:インフォバーン)

小林:皆勤賞でしたよね。TOAというのは、我々が日本のパートナーを務めている、ベルリンのすごく人気のテック・カンファレンスです。小西さんにはその視察プログラムに毎年参加していただいていたんですけど、コロナ中は中止になっていました。また今年から復活します

小西:そこで得たものは、もちろんいろんなイノベーションの情報もあるんですが、ベルリンのカルチャーを感じたことですね。特に何らかの社会課題に対して、それを自分事化して仲間を集めて、「バンドをつくろう」というくらいのカジュアルさで起業して取り組む姿勢。そういうカルチャーに非常に衝撃を受けまして、「自分もやっていいんだ」と背中を押されました。そこで学んだ価値観というのが、今に繋がっていると思いますね。

小林:ベルリンのスタートアップがそうなんですけど、ビジネスと社会課題解決が密接というか、それを目的としてどういうイノベーションを起こしていくかという視点が強くて、それに衝撃を受けられる日本人の方を、僕もたくさん見てきました。

掲げるだけのパーパスからの脱却を

小西:実は私自身が初めて目的ベースのプロジェクトや仕事をしてみて気づいたんですけど、そこではブランディングとかマーケティングとかの手段はどうでもいいんですよね。目的に共感してくれる人がいることが大事で、そうすると自然といろんな支援が来る。
漁業を支援したいという目的があると、いろんな人が面白いじゃないかと協力してくれることが実際にあります。パーパスって、まさにこういうことなんだと気づくようなことが、たくさんあります。

漁業ブの活動のほかに、この3年でニュースケイプ自体の事業としては両手の数くらいの大企業のパーパスづくりのお手伝いをさせていただいているんですけど、そのなかで組織が大きすぎると、パーパス・コングロマリット・ディスカウントが起きていることをひしひしと感じています。目的が一般化しすぎちゃうんですよね。それは大企業にとって、これからデメリットになってくると思います。

小林:これからはいわば、パーパスの選択と集中が必要になってくるわけですね。

小西:パーパス・ベースの事業を再編していくぐらいのことをしないと、なかなか機能しないなという実感があります。いつも企業さんのお手伝いをするなかで、「会社のパーパスはいいから、社員のみなさんそれぞれのパーパスを持つことが大事ですよ」という話をさせていただくんですが、よくあるのが「今までそんなことを考えたこともなかった」という反応です。「会社でずっと働いていて、そもそも自分のパーパスなんて考えたことがなかった」と言うんですよ。

小林:「次の売り上げどうするんだ」みたいなことが、現実にはパーパスになってしまったりしますからね。

小西:会社という組織の中で与えられる目的があるのは当然なんですけど、でも私は、パーパスはガバナンスのためにあるわけじゃないと思うんですよ。

小林:そうですね。

小西:事業創造とか新しい価値を生み出していこうと、目的をつくって実現していくためには、まず自分事化をしなきゃいけない。つまり、自分なりのパーパスを持たないといけないいはずなんです。

それと、会社のパーパスは乗り越えなきゃいけないものだと思うんですよね。そこに初めて新しい価値が生まれてくる。「会社の掲げたパーパスをみんなで覚えて、一丸となって実行しましょう」ということではなくて、そこを個人がいかにして乗り越えていくか、そのときにどう会社を利用しながら新しい価値を生み出していけるのか、というときに初めて機能するのがパーパスなんじゃないかなと思いますね。

小林:パーパス的な言葉がHPに掲載されているけど、そのお題目が他人事のように感じられてコミットメントできないという社員の方の声を、以前はよく聞きました。だからこそ、先ほどお話に出たベルリン視察プログラムに一緒に来られた方は、「うちの会社って何がやりたいんだっけ?」と振り返ったりされます。

本当に社員の方がやりたいことが出てきたときに、会社から「それはできないよ」「それじゃ儲からないよ」と言われてしまう。この齟齬をどうするんだ、という悩みは尽きませんね。自分探しならぬ「会社のパーパス探し」みたいなことは、本当に今、みんなが陥っている悩みで、そこが固まらないと人材も採れないし、他社とのコラボもできない時代になってきていますからね。

△対談中の小林弘人

小西:自分探しと言うと、ちょっと語弊があるかもしれませんが、私はパーパスというのは‟外”にあるものだと思っていて、自分がどうなりたいとか、企業がどう成長したいとか、売上がどうとか、そういうことではなくて、世の中、社会、人にとって、どう必要とされるかという視点が大事なのではないでしょうか。

私はその一つとして漁業というものを見つけたわけですけど、その視点から入っていくと、あらゆるパーパスが転がっていって、みんな内向きに悩まずに、外に目を向ければいいのにとすごく思います。

社員一人ひとりのパーパスこそが企業の価値になる

小西:結局、トップダウンによるパーパス経営なんかできないと思っています。たとえば、損保ホールディングスさんは、パーパス経営をちゃんとやられているんですが、その社長がおっしゃるのは、「会社のパーパスなんかどうでもいいからは、まず自分のパーパスを考えることから始めましょう」ということなんです。実際に、ワークショップを開いて、社員の方に自分自身のパーパスを考えてもらって、そこから会社でできることはないかを探したり、四半期ごとにデータを取ったりと、完全に働く人が主体となったボトムアップ型の取り組みを進めていらっしゃるんですよ。

小林:面白いですね。

小西:それは今、盛んに言われている「人的資本経営」の方向性と完全に一致していて、個人個人のパーパスも踏まえてモチベーションを上げていくことが、最終的に人的資本価値を上げること、ひいては企業価値をあげることにつながるんだと、明確に企業戦略として設計されています。
そこが明確なほど、企業にとってメリットがあるし、個人にとっても働きがいが増したり、会社との関係が変わっていくことによる価値が生まれたりすると思います。やっぱりパーパス経営をトップダウン型で押し通すのは、なかなか難しいんじゃないかと。

小林:そうですね。これは、まあトップダウン型の話になっちゃうかもしれませんが、パーパスを本当に実践してるかどうかの監査を受けることで、つまり生業で儲かってる側面と、本当はこういう社会にしたいという理念の側面とが乖離しないようにするのも大事じゃないかと思います。

目的がちゃんと実行されているかを監査する、PBC=パブリック・ベネフィット・コーポレーションという制度が、もうアメリカのいくつかの州では、実際に行われているんです。日本版PBCみたいなのがあると、それに賛同できるかどうかという観点が生まれやすくなるので、会社が掲げているパーパスが本当に達成できているかがわかることで、社員もコミットしやすくなることも起こりえるかと。

小西:そうですね。そうした新しい経営体や経営モデルとしても、どんどん新しい世代の姿がつくられてきていると思います。資本主義のあり方自体も大きく変わっていく世の中で、制度自体の変更も、それこそこのコロナ禍の間にも、知らないうちにだいぶ進んできているんじゃないでしょうか。

小林:ここに来て、Chat CPTを筆頭とするジェネレイティブAIの普及で、さらなる変化も起きていますよね。もうメディア業界やマーケティング業界は最近、その話題ばかりなんですけど、もう人間にしかできないことを人間はやって、楽しくやろうよ、というムードですね。それこそ魚を獲りに行こうとか、農業をやろうよっていう。

ここに新しい未来の種というか、イノベーティブなことをして楽しい人生にどうやってしていこうか、どういうより良い世界にしていこうか、ということを考えようと。AIには、志は持てないですからね

小西:アクティビストの役割は、まさにそこなんです。AIにできることはあっても、これをやろうと考えることはできないし、それを考えて実行できる人は少ないので、企業も個人も本当の意味でパーパスを考えることが、ますます求められていくようになると思いますね。

△対談中の小西圭介氏

〈おわり〉
水産ビジネスは世界的な成長産業! 知られざる漁業の課題と可能性【小西圭介対談1/3】
ブランディングで漁業にイノベーションを! 地方に広がるブルーオーシャン【小西圭介対談2/3】

小西圭介(こにし・けいすけ)
株式会社ニュースケイプ 代表取締役
東京大学教養学部卒業後、1993年に株式会社電通に入社。20年以上にわたって同社のブランディング・サービスをリードし、業界リーダー企業から、D2C・スタートアップなど100社を超えるクライアント、地域や自治体との取り組みでビジネス成長を加速するブランドづくりの経験を積む。
デービッド・A・アーカー(UC Berkeley Haas School名誉教授)が副会長を務める米国プロフェット社(SF)に出向した際には、数多くのグローバルブランド企業の戦略コンサルティングに従事。日本唯一の直弟子として、同氏とともに日本企業に経営戦略課題としての「ブランド」を浸透させてきた。
近年はブランド・アクティビストとして、ビジネスが環境や地域・人やコミュニティの社会変化の主導的な役割を果たす、新しい共創型のブランド戦略モデルを提唱・実践している。著書に『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)などがある。

小林弘人(こばやし・ひろと)
株式会社インフォバーン代表取締役会長(CVO)
1965年長野県生まれ。『WIRED(日本版)』を1994年に創刊し、編集長を務める。1998年より企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業。「ギズモード・ジャパン」など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊するとともに、コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として活動。
2012年より、日本におけるオープン・イノベーションの啓蒙を行い、現在は企業や自治体のDXやイノベーション推進支援を行う。2016年には、ベルリンのテック・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」の日本公式パートナーとなり、企業内起業家をネットワークし、ベルリンの視察プログラムを企画、実施している。
著書に『AFTER GAFA 分散化する世界の未来地図』(KADOKAWA)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)など多数。

※株式会社ライトパブリシティ社長・杉山恒太郎さんとの対談記事はこちら
※一般社団法人みつめる旅代表理事・鈴木円香さんとの対談記事はこちら

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。