【海外事例】企業やブランドのレジリエンスを情報発信に活かすには
企業のビジネスやブランドの成長を阻害する外部要因は多種多様に存在します。近年のパンデミックはもちろん、地政学的なリスク、人権問題、経済安全保障問題、IT関連ではサイバー攻撃も含まれます。これらの外部環境の変化に臨機応変に応えていき、困難をしなやかに乗り越え回復する力「レジリエンス」が、企業に求められています。ですが困難は裏返すと、突出した状況であればあるほど注目も集めやすいということです。それらの状況にあっても情報発信で困難をプラスに変えた好例をご紹介します。
泥だらけになったワインで生産者を救う|Ahr
白ワインの生産が多いドイツの中で、赤ワインの生産が8割を超えるアールヴァイラー郡は、「赤ワインの楽園」とも呼ばれる土地柄。しかし、2021年の夏に壊滅的な洪水の被災地となり、46以上のワイナリーが甚大な被害に見舞われました。
ですが20万本のワインは瓶が泥と土で汚れたものの中身は無事。そこで、生産者たちは「Ahr」というブランドを立ち上げ、通常は販売が不可能な見た目のワインを「FLUTWEIN(洪水ワイン)」と名付け、泥をそのままにブランドタグをつけることで、生産者の想いとともに自然への畏怖を表現することにしたのです。
このような商品が果たして本当に売れるのか? その懸念は杞憂に終わりました。クラウドファンディングで販売したところ、最初の1000本は1本500ユーロという通常価格の45倍の高値で完売。このFLUTWEINはコレクターアイテムになり、その後も賛同者が無料でアウトドア広告を提供したり、BBCなどの国際的なメディアも取り上げたり、さらには有名人やインフルエンサーもSNSで寄付を呼びかけるような一大ムーブメントになりました。
このような社会現象にまでなったのは、被災のありのままの姿を伝えるために、泥まみれのワインボトルを洗わずにそのまま販売し、その姿をありのままにプロモーションしたためだ、と言われています。
動画で洪水の様子や泥にまみれたワインの瓶などを写し、視覚的に訴えることで、当事者意識を持たせることに繋がったとされ、最終的には440万ユーロの寄付が集まる結果となりました。そしてワイナリーはこの売上で翌年も生産を継続。これらを購入した消費者は、アールヴァイラー郡の地元の人々に経済的援助を提供し、最も重要なワイン産地の一つとして復興を支える、というワインファンとしてとても誇れるストーリーを手に入れることができたということでしょう。
このキャンペーンは2022年のカンヌ広告祭のPR部門にてゴールド賞も受賞しました。
農業の危機を逆手に取りエンゲージメントの機会に|Anheuser-Busch Companies
アメリカの農業は危機に瀕しています。既存の農業ビジネスでは収入も伸び悩み、就業人口も減少しつつあります。さらに農薬などでの健康問題も報じられています。多くの農家はオーガニック農業に移行したいのです。また従来の健康志向の高まりからアメリカはオーガニック大国とも言われています。2022年のJETROの調査によると、近年5%程度ずつ市場が成長しており2020年には前年比12.8%増の564億ドルに拡大しているとのこと。このような現実がありながらも、畑の有機化には少なくとも3年かかるため、先行投資する余裕がない生産農家たちにとっては、オーガニック農業への移行はハードルが高すぎるということが、問題となっていました。
そこでアメリカの大手ビール製造会社「Anheuser-Busch Companies, Inc」の製品でオーガニックビールのリーダーブランドである「Michelob Ultra」はあるキャンペーンを立ち上げました。
着目したのは、ビール原料である大麦のオーガニック率は1%以下であるという現実。それを改善するために「Contract for Change」というキャンペーンを立ち上げ、全米の大麦生産農家に対して、有機化へ移行中の3年間の買取契約を結ぶと呼びかけました。
「Contract for Change」のプロモーション動画では、実際に農家の男性が契約書にサインする様子やタイムラインを図やグラフで説明しながら、エモーショナル(感情)の部分とファクト(情報)の部分のバランスが取れた情報をうまく盛り込むことで納得感、応援したくなる空気感を出しています。
このキャンペーンは、カンヌ広告祭のPR部門のグランプリや、イギリスのアワードD&ADを受賞しました。また、10万400エーカーの畑がオーガニックに移行中という大きな結果を残しました。2020年には、消費者が6本入りのMichelob Ultraピュアゴールドを購入するたびに、6スクエアフィート(約0.56㎡)分の有機栽培農地への転換をサポートするキャンペーンも実施。オーガニック大麦栽培への移行により、2023年には25%の売上増が見込まれるそうです。
最先端のテクノロジーで国のレジリエンスを支援|Polycam&ユネスコ
戦争は最も人類が避けるべき困難のひとつですが、すでに起きてしまった事象に対してどのように行動するかにも、企業やブランドの姿勢が試されています。2022年に始まったウクライナ侵攻でも、そんな企業の活動が報じられました。
それは「BACKUP UKRAINE」というキャンペーンで、アメリカに本社のある3Dスタートアップの「Polycam」(現Poly)とユネスコが提携して立ち上げたものです。ウクライナ侵攻が始まってから、ウクライナでは1カ月で191の文化財が破壊されました。国民の命を守ることが最優先のウクライナには、文化財を守るような余力は残されていませんでしたが、文化遺産の破壊はその国のアイデンティティを消滅させることにつながります。
クラウド上で文化財のデジタル・バックアップを取るプロジェクトとしてこの「BACKUP UKRAINE」が立ち上がったのです。ウクライナ国民や世界中の人にウクライナの建造物や残したい遺産の写真や映像を送ってもらい、3D Lidar(3D ライダー)スキャニング技術を使ってデジタル設計図として再現し保存、破壊されてもデータが永久に残るようにしたのです。
このプロジェクトは、2023年のClio Grand Awardのイノベーション部門やカンヌ広告際のデジタル・クラフト部門のグランプリも受賞しています。
このサービスはウクライナで50,000件がダウンロードされ、35,000件ほどキャプチャされました。それにより、ウクライナ国民が世界最大の美術館や美術コレクションよりもはるかに多くの彫刻をバックアップしていることになります。このプロジェクトは、ウクライナおよび海外の報道機関で 800 以上の記事になり、大きな反響を呼びました。
これは企業やブランドにおいて回復力を発揮した事例というよりも、国の回復力に貢献したことで、好感度を上げた事例と言えるでしょう。
VUCA時代を乗り切るレジリエンスを、コミュニケーションでも表現
VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語からなり、目まぐるしく変化する予測困難な状況という表現を用いて、現代を「VUCA時代」とも称します。予測し予防することはもちろん大事ですが、それよりも求められてくることは、その状況を乗り越えられるレジリエンス(回復力)です。
企業やブランドの持つパーパスやミッション・ビジョンを軸に、常に状況や時代の求めにあわせたストーリーテリングを行うことで、最適なコミュニケーションが生まれると私たちインフォバーンは考えていますが、その過程のなかで、企業ならではのレジリエンスを見出し表現していくことも求められていくと考えています。そんな課題をお持ちでしたら、ぜひ私たちにご相談くださいませ。
Illustration by Getty Images