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現代編集者の存在意義は、マーケターになることなのか?【Next EditorShip 「Q&A」編】

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2023年9月14日に、Henge Inc.代表の廣田周作さんをお招きし、『Next EditorShip:編集者がビジネスリーダーになる時代』と題して、弊社代表取締役会長(CVO)・小林弘人との対談イベントを実施いたしました。

メディア環境、デジタル環境が激変していくなか、ビジネスや社会課題に対してリーダーシップを発揮する次世代編集者の「EditorShip」とは何かを探った本イベント。トークセッションのあとには、参加されたみなさまからのQ&Aタイムを設け、活発な質疑応答がなされました。この記事では、その模様をお届けします(第3回/全3回、#1#2)。

質問1――仕事でPR施策として、いろいろと企画を立てているのですが、構成やアイデアをふくらませる方法として、普段されていることをおうかがいしたいです。

廣田:質問に対する答えから少し外れるかもしれませんが、PRとして記事などを出す際には、開発者のカタルシスのような面も掘り下げて伝えるようにしています。「こういう技術を開発しました」というだけではなく、研究のなかでどんな苦労があったのか、開発にいたる難所がどこにあったのかがわかると、そこ乗り越えた物語が出たり、開発者の人となりが出て、共感を呼ぶポイントが生まれると思うんですよね。

だから、固有名詞にいつも僕はこだわっています。たとえば、ひと口にサステナビリティーと言っても、小林さんが関わられた「GREEN WORK HAKUBA」で提唱されるサステナビリティーと、北欧で推進されているサステナビリティーとでは、成り立ちから違うので、共感ポイントも変わると思うんです。

最終的には、その背景にいる一人ひとりの「人の話」がないと、人は共感できないと思うので、そもそものアイデアとしても、パーソナルなところは考えるようにはしていますね。

質問2――現象に対してコンテクストを読み解く重要性について、お話をうかがいましたが、世の中にあるカテゴリーが細分化していくなかで、自分の中に深い知識があると、その解釈に寄ってしまって、多様な人や価値観の存在がむしろ見えづらくなってしまうことがあると思うんです。その問題を解決するために、お二人がされていることはありますか。

廣田:一つ僕が心がけているのは、すごくベタですけど、難解でも重厚な本を頑張って読む修行を続けることですね。

Web記事で過ぎ去っていく情報を追いかけるだけでは、そのあたりはどうしても偏ってしまうと思います。ハードカバーでできているようなややこしい本を読み切ると、そこでいろいろな意見を知ることができたり、矛盾を感じる部分も出てきたりして、簡単に割り切れないような何かを体得できます。

やっぱりそういう本は一冊編むのに考えられている量が半端ではないので、率先してそのややこしい文脈を通ってみるという修行をしています。

小林:特に英語圏には多いんですけれど、学際的で、多領域の知が一堂に集まるようなカンファレンスがあります。TOA(Tech Open Air)もそうですし、SXSW(サウスバイ・サウスウエスト)もそうなんですが、そうしたごった煮の場に出向くことは重要だと思っていまして、そこで触発されたことが、別のチャネルでも活きてきます。

今回のTOAに、学者の方も来られていたんですが、「学会ではこういう体験は得られない」とすごく新鮮に感じられていました。やっぱりニッチの罠にとらわれないほうがいいとは思います。

廣田:いろいろな角度から照らしてみることは、面倒くさくてもやるべきですね。そうしたカンファレンスに行くと一気にそれが体感できて、多様な視点をもらえることは実体験としてあります。

▲当日の会場の様子

質問3――クライアント企業とお仕事をしているWeb編集者なのですが、この10年くらい仕事上で悩んでいることがあります。メディアが多様化して数値が可視化されやすくなったことで、クライアントが即効性の高いメディア施策を求めがちなんです。編集者の側も、文脈を編んでいくという価値、中長期的な価値よりも、「どうリーチさせるか」「どうバズを生むか」というマーケター的な手法の話に陥りやすい。

編集者として、このままでいいのかという問題意識があるんですけど、お二人が現代の編集者に期待することや、どういう編集者がこういう状況を打開できると考えられているか、何かお考えがあればうかがいたいです。

廣田:これは難しい課題ですね。

小林:難しい。

廣田:そうですね……。僕はまさに、いわゆる「SNSマーケティング」とかが嫌で独立したところがあります。本をあまり読まずに、フォロワーが何人かばかり気にする時代に入っているなかで、シニカルな気持ちになったりもします。

でも逆に、今は「ちゃんと考える」ことをする人が減っているぶん、ブルーオーシャンも生まれているのではないか、ますます編集者的な価値が高まっているんじゃないか、という反動的な視点でも見ています。現実としては、そういうことを考えてると、企業や研究所にいるちゃんと考えたい人たちがお客さんになってくるところはあるので、「そこに共感をしてくれる人を探す」という気持ちを持って仕事をしています。

おっしゃる通りで、本当に危険だと思うんですよ。何も考えずにTikTokとかをダーッと見ている人ばかりになってしまうのは。ただ、TikTokでも、「#BookTok」みたいに本を読もうというムーブメントが起きたりしていますし、もちろんSNSが全部ダメだとは思っていなくて、そこで何か面白い現象があったら掘ってみたりと、丁寧に見ていこうと思ってます。

小林:これには、チャネルの違いというものがあると思います。デジタルは情報のフロー性が高すぎて、どうしても即効性重視になっちゃうんですよね。だから、それを止めようとしたって無理だと思います。

むしろAIに情報収集してきてもらったり、最先端の生成AIに文章や記事を書いてもらったりしても、もうそれはそれでいいじゃんみたいな気持ちすらあります(笑)。広告も勝手に落札できるような仕組みが普及して、自動化されていくんじゃないかと。そういうオートマチックな世界の一方で、『KINFOLK』のようにじっくりつくることも、求められ続けると思います。

僕は「もし新たにメディアをつくるなら、何をつくりますか?」と言われたら、紙のコンテンツをつくりつつ、ユーザーに印刷工場に行ってガシャンと結束してもらって、コーヒー飲みながらサロンで語り合うようなサロンを、ベルリンで立ち上げたいなと思っています。それで、そうしたメディアの形を全世界中の都市で売りたいなって。

もう情報を提供するメディアではなくて、完全に体験価値とか、AIには生成できない意味を提供するメディアですね。まずその意味をどうやって提供するかを考えてから、それに応じてチャネルをそれぞれ使い分けていく感じかななんて思っちゃいますね。まあ、PVはPVで追う楽しさはあるんですよね。なんか、あれは妙にハマっちゃうんですよ。

廣田:シューティングゲームみたいなところがありますね。

小林:ある日突然、「これが受けるんだ!」と思った瞬間、「じゃあ、ここを狙おう」ってデータドリブンでやったら、本当にその通りになったときなんかは、ちょっと嬉しいですよね(笑)。まあ、近視眼的なので、短命、短期的ですけどね。

廣田:確かにおっしゃる通り、「メディア」と括ってあらゆる媒体やサービスを同列に扱うこと自体に無理があるなと思います。競合として見なすこと自体が変ですよね。違うゲームをしているようなものですから。

小林:「ディープメディア」って言ってるんですけど、一度入ったら離脱しないでどんどん深くなっていくメディアを開発したらどうかなとも思っています。

昔、『STUDIO VOICE」という雑誌があったじゃないですか。たとえば、ロックの歴史を解説して、このバンドが解散したらここの流派になってみたいな図表が載ってたりとか、「現代アートの今」みたいな形で、そこにいたる流れを追ったりとか、ヒストリカルに理解できるものがあったんですよね。

その点、今のWebメディアは読んでいても、ヒストリカルに理解できなくて、分裂してるんですよ。要するに、コンテキストがわからない。インターネットが出てきてから、その断絶があって、そこを何かつなげるようなメディアをつくれないかなとも思っています。

廣田:消費や購買をゴールにしないことも大事かなと思いますね。昔の音楽雑誌には、ギターの広告と一緒に、楽譜も載っていたりしたんですよね。それは、「ギターを買え」というだけじゃなくて、「ギターを練習してみよう」と伝えているわけで、消費がゴールではないんです。

今の広告的なメディアは、全部が買わせるとか、ブランド認知を上げるとかを目的にしてしまうんですけど、楽譜を一生懸命に読んで練習する時間という体験には、お金で買えない豊かさがあるはずなんですよ。そうした、消費させるでもなく、クリックさせるでもない、何かを促すようなメディアこそが面白いと思います。

〈本編記事(前):ビジネスに活きる「編集者」の視点とは?
〈本編記事(後):AI時代にこそ必要な「編集思考」とは何か?

廣田周作(ひろた・しゅうさく)
Henge Inc.代表取締役

1980年生まれ。NHKでのディレクター、株式会社電通でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業Stylus Media Groupのチーフ・コンサルタントと、Vogue Business(コンデナスト・インターナショナル)の日本市場におけるディレクターも兼任する。独自のブランド開発やリサーチの手法をもち、多くの企業のブランド戦略立案やイノベーション・プロジェクトに携わる。
主な著書:
・『SHARED VISION』2013年6月/宣伝会議
・『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』2021年11月/クロスメディア・パブリッシング

小林弘人(こばやし・ひろと)
株式会社インフォバーン代表取締役会長(CVO)
1965年長野県生まれ。1994年に『WIRED(日本版)』を創刊し、編集長を務める。1998年より企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業。「ギズモード・ジャパン」「ビジネス インサイダー ジャパン」など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊するとともに、コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として活動。2012年より日本におけるオープン・イノベーションの啓蒙を行い、現在は企業や自治体のDXやイノベーション推進支援を行う。2016年にはベルリンのテック・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」の日本公式パートナーとなり、企業内起業家をネットワークし、ベルリンの視察プログラムを企画、実施している。
主な著書:
・『新世紀メディア論』2009年4月/バジリコ
・『メディア化する企業はなぜ強いのか?』2011年11月/技術評論社
・『After GAFA 分散化する世界の未来地図』2020年2月/KADOKAWA

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ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。