Generative AI時代に求められる能力とは?【ad:tech tokyo 2023 セッションレポート】
2023年10月19日、20日の2日間で開催されたアジア最大級のマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo 2023」。本記事では、初日に当社社長である田中準也がパネリストとして登壇したセッション〈Generative AI時代に求められる能力〉の内容をお届けいたします。
株式会社ELYZA取締役CMOの野口竜司氏をモデレーターに、アドビ株式会社常務執行役員 兼 CMOの里村明洋氏、株式会社サイバーエージェントでAIクリエイティブプランナーを務める洞ノ上茉亜子氏、ウェアラブルエージェントクリエイターのきゅんくん氏とともに、田中はパネルディスカッションに参加しました。
ビジネスの最前線でAIに向き合われている方々は、どのように生成AIを活用されているのか。これからのAI時代に求められる能力とは何か。事例を交えながらトークが繰り広げられました。
生成だけでなく、コンテンツマネジメントもAIで
野口竜司(以下、野口):今日のモデレーターを務める野口竜司と申します。大規模言語AIを開発しているELYZAという会社でCMOをしながら、最近は三井住友カードでHead of AI Innovationを務めたり、カウネット社の社外取締役もしています。みなさんも自己紹介をお願いします。
里村明洋(以下、里村):アドビ株式会社でCMOをしている里村明洋と申します。私は実家が魚屋をしておりまして、キャリアを話すと長いので、「関西の魚屋のお兄さん」というふうに覚えて帰ってください(笑)。最近サウナにはまっているので、「サウナ好きの関西の魚屋の兄ちゃん」ですね。
田中準也(以下、田中):株式会社インフォバーンの社長で、マーケターキャリア協会の代表理事もしている田中準也と申します。ニックネームはジュンカムです。ガンダムが好きで本も共著で出していまして、「ガンダム好きのジュンカム」と覚えていただければと(笑)。
洞ノ上茉亜子(以下、洞ノ上):株式会社サイバーエージェントで入社5年目になります、洞ノ上茉亜子と申します。新卒入社時からAIクリエイティブ部門というところにいまして、「極予測AI」という効果予測ツールを活用したクリエイティブ開発をしたり、今だと生成AIを活用した広告のクリエイティブ企画をしたりしております。
きゅんくん:きゅんくんです。この中では異色かもしれませんが、人とインタラクションするウェアラブルロボットをつくっています。あと、実家は七味唐辛子屋です(笑)。
野口:そうだったんですか。実家シリーズですね(笑)。では、本題に入っていきます。Generative AIに対するみなさんの認識を合わせるために、最初に私が少しだけお話をしたいと思います。今は「第四次AIブーム」とも言われていますが、もはや「ブーム」と表するのは不適切なくらいの状況かと思います。
AIのしていること自体は人間と一緒です。見たり、予測したり、話したり、動いたり、つくったりという人間がする活動を模倣して、人工的に出力することをAIは担っています。私は長くAIの専門家として活動してきましたが、ちょっと前までは自動運転車に入るカメラのような「見る力」や、異常予測や需要予測のような「予測する力」に対して期待されていた時期が長かったんです。それがGPTの登場によって一気に「話す力」、さらには文章生成や画像生成などの「創造する力」を持ったAIが注目の的になっています。これが今回のテーマであるGenerative AIですね。
前振りはこれくらいにして、ご登壇いただいているみなさんからその事例をおうかがいしていきます。まずは里村さんからお願いいたします。
里村:私は、所属している会社であるアドビの事例をご紹介しますが、その前段として、デジタルコンテンツの量がすさまじく増えてきていることについてお話しさせてください。画像も、動画も、3Dも、デジタルコンテンツの数がものすごく増えてきていることはみなさんご承知だと思いますが、1つのプロダクトを要素ごと、ロゴ、キービジュアル、キャラクターといったふうに分けると、平均して25のアセットがあるんです。クリエイティブが変わってくると、そのアセットは1000倍の2万5000にもなってきます。さらにグローバルに展開するとなれば、各国ごとにローカライズしていくので、もう何千、何万、何百万倍という話になってきます。
それをどう管理していくのかは、ものすごく重要な問題なんですけど、実は日本はその点で遅れているんですよ。その背景には、「コンテンツ」というものに対する考え方の違いがあると思います。たとえば、ディズニーランドやUSJにはすごい数のキャラクターがいますよね。その膨大なキャラクターについて、欧米だと管理することまでしっかりと考えてつくられているんですけど、そこが日本では課題がある。そもそもあまり課題という認識もないから「エージェンシーにお任せ」とアウトソースしていて、自社での管理の意識がまだ芽生えていない会社が多いんです。
これを何とかしなくちゃいけないというのが、弊社の取り組みの出発点です。プロデュースから何から、フローすべてに統一感を持って管理していけるようにするのが、弊社のコンテンツマネジメントなんです。
そこにどうAIが関係するのかというと、トレーニングさせてブランドのトーンに合わせたものをつくれるようにすることに、まず生成AIが関わってきます。そうしてつくられたものをマーケットに出して、一定の評価を得られたものをさらにパーソナライズ、つまりクリエイティブを対象者にもっと合わせるための特徴などが、予測AIで理解されます。そこから、ブランドのアセットを活用したうえで、生成AIでそれに合わせたクリエイティブがつくられます。この一連のプロセスを繰り返し、PDCAを回しているのが、今の弊社でやってることなんです。
たとえば、同じサイトでも、出てくる広告コンテンツが人によって変わりますよね。それをコンテンツ制作から何からすべて自動化できるようにしていっているイメージです。ある意味では、今までみなさんもやってきたことの延長かもしれませんが、量がものすごく増えて対応できなかったものを、AIを使ってすべて対応し始めていっているわけです。
野口:御社のサイトにおいても、実際にもうすでに実験をされているところだそうですね。
里村:はい。コンテンツマネジメントをAIでしている感じです。
きゅんくん:確かに、Twitterとかでよく漫画が流れてきますけど、あれは毎日流れてくるから面白いところがありますよね。その漫画を毎日つくっていくのは大変だけど、AIで生成できたら、たくさんのコンテンツをつくれて、ブランドイメージも上げていけるということですね。
里村:まさにそうです。今は毎日コンテンツを変えていかなければユーザーに飽きられるようになってきちゃっていますが、それに対応することがなかなかできていなくて、特に日本は遅れていますね。
田中:お話をうかがっていてお聞きしたいのですが、プロセスを可視化して、Generative AIをどう活用するのかポイントを決めていくなかで、人やチームはどういう役割を担っているのでしょうか。
里村:クリエイターでなくても、クリエイティブをつくれなきゃいけないというのがこのフローの肝です。たとえば、マーケターが自分でバナーをつくれるようにならないといけないわけです。要は、バナーをつくるところから、メディアに掲載して結果を見て、「この人にはこういうバナーが合うから、次はこういうバナーをつくろう」という予測を立てるまで、一人のマーケターが一気にできるようになるということです。そうなると、エージェンシーにアウトソースしなくてもよくなります。もちろん、まだ完全ではないですけど、そういう可能性が生まれ始めているところですね。
きゅんくん:「生成AIを使う人間がつくるクリエイティブよりも、レベルの低いものは生成AIからは生まれない」みたいな話があるじゃないですか。結局、生成AIによってつくられた画像の中から、どれにするか選ぶ作業は残りますよね。そのどれを選ぶかというところが、クリエイターではないマーケターの方にできるのか気になりました。
里村:そこはまだできないとは思います。ただ、ブランド自体をラーニングさせていくなかで、そのブランドの要素を抽出して、トーンやテンプレートを出すようなことはできるんですよね。だから、ラーニングするデータ次第というところではあります。
洞ノ上:どれを選ぶのかについては、広告だと、効果予測して成果の出そうなものを抜き出すことに、すでにAIが活用されています。だから、そうした能力がない人でも選べるようになって、効果のいいものが自動的に回っていくことはありえるかなと思いますね。
きゅんくん:確かに広告だと、効果に対するわかりやすい指標があるから、やりやすそうですね。
野口:職種の定義自体を変えるようなものに、すでになってきていますね。
里村:そうなってきていますね。誰が判断するかについては、今後すごく重要になっていくと思います。要するに、「誰がその能力を持つべきか」という話になっていくかなと。あと、生成AIからつくられた一枚画だけでクリエイティブが完結するパターンって、ほとんどないんですよ。遊び程度ならそれでよくても、本格的に商用利用しようと思うと、「この部分を変えようかな」「ここに文字を入れようかな」と絶対なるんです。だからこそ、フローが重要で、フローの中でどうAIを使うかという話になるわけです。
絵コンテ不要、AI予測×即興演出で量産する動画制作
野口:ありがとうございます。では、続いて洞ノ上さん、お願いします。
洞ノ上:私の会社は「極予測AI」という、広告効果を予測するツールを4年前ぐらいに開始しています。ちょうど本年度からは、生成AIを活用した広告についても手がけ始めました。生成AIをどういうふうに使うかでいうと、私たちはアーティストではないので、広告企画に対して、クリエイターに何ができるのかを日々模索していますね。
インターネット広告自体はターゲティングができるので、「誰に何を当てたいか」を考えてセグメントを切っていったときに、やっぱりテレビCMのように1本つくるだけでは難しいんですね。きちんと個々に最適化するには、今の撮影などの制作体制では素材数が足りないという事実があります。そこに対して生成AIを活用することで、最適化したものを生み出せるんじゃないかという考え方をしています。
10月に弊社は、動画広告の効果を予測するためにつくられた、予測撮影に特化したスタジオをオープンしました。LEDボードにいろいろなシーンを投影しながら、それをAI予測と連動することによって、どのシーンが効果的かをその場で考えられます。今まで描いていた絵コンテも一切描かずに、その場でどんどん演技を変えていくような、そういうスタジオです。
きゅんくん:どんどん生成して、どんどん演技も変わっていくとなると、それをその場でクライアントはジャッジしなきゃいけないので、大変さもありますね。
洞ノ上:そうなんですよね。そのジャッジはしなきゃいけない。かつ、今のクリエイターがこれを使いこなせるようになるのかという課題もあります。
きゅんくん:映像監督にも、演出意図がありますからね。
田中:僕はクライアントも、監督も、ある程度の作業は「AIに任せる」という判断をするんじゃないかと思うんですよね。一生懸命に絵コンテを描いて、プレゼンして、場合によっては映像コンテまでつくっていたことが一切必要なくなったら、その短縮した時間の分を判断のレベルを上げることに費やせる気がします。
洞ノ上:そうですね。人間には、「どう判断していくか」がより問われるようになるかなと思っています。ターゲティングする相手ごとにつくることで、クリエイティブは膨大になるので、それぞれに対するジャッジも必要ですし、もっと人間が進化しないといけないこともありそうです。
田中:先ほど里村さんからも、生成AIで「一枚画をつくる」のはゴールではなくて、「プロセスの中でどう生成AIを使いながら回していくか」が重要だという話がありましたが、「アートじゃないぞ、もうビジネスだぞ」という感じですね。
里村:まさにそうですね。今まではクライアントが言うことに対して、反応していくのに1週間、2週間、ヘタしたら1ヶ月とかかっていましたが、それがすぐにできてしまうようになると、クライアント側も考えて物を言わないと、ものすごい量のクリエイティブができあがってしまう。
田中:でも、こういう仕組みができていけば、エージェンシーとクリエイターと広告主による本当の共創が生まれてきそうですよね。
洞ノ上:AIがあると何でもブラックボックスになっちゃう面もあるので、それを透明化する意味でも、ここで撮影をしてお客さんと議論できるようになればと思っています。
里村:うちのフローの話の中でも、「コラボレーション」はキーワードなんですよ。もちろんクラウド上でコメントし合うなんて当たり前で、動画の中でコメントするとか、3Dの中でコメントするというふうになってきています。いかに一緒に共創し合えるかというのは、一つの能力かもしれないですね。それができなきゃいけない。
田中:任せたらいいと思うんですよ、本当に。僕の場合、今はプランニングをほぼしていなくて、社員に任せています。偉いからじゃないですよ(笑)、若い人がやったほうが良いものをつくるからです。僕は骨子だけ考えて、あとは任せて、企画へのダメ出しとかも滅多にしません。
それと同じように、AIも自分の想像を超えたものを出してくれるんだったら、「それに任せればいいじゃん」と単純に思っています。ちょっと話が逸れるかもしれませんけど、どちらかというとマーケターやクリエイターには今後、もっと知性や教養、幅広い知識が求められるんじゃないかと思うんですよね。
野口:確かに。任せたうえで、俯瞰して物事を見る力を持つことが大事になってくるかもしれませんね。
洞ノ上:そうですね。まだやっぱり「この人のこと何か好きだな」とか、感覚的に好むものについては、AIには完全に判断できないと思っていますし、いちばん難しいところだと思うので、それらをうまく噛み合わせてつくっていくのがいいかなと思います。
子どももAIツールを使えば、大人と同じレベルの制作ができる
野口:それでは続いて、きゅんくんさんにお話しいただければと思います。
きゅんくん:最初に自己紹介で、ウェアラブルロボットの話をしましたが、私はVTuberやキャラクター向けのAIエージェントサービス、「YAD-OS」というものもつくっているんです。VTuberには魂(※中の人)がいますが、その魂の稼働がもう限界らしくて、稼働なしでリスナーを楽しませられるようなものをつくろうというのが基本的な構想です。
デスクトップにAIエージェントが常駐していて、おしゃべりしたり、配信したりできる。外にちょっとお出かけするときにも、家で交わした会話の続きを自然にLINEなどで行える。そういうものをつくっています。AIとしてはChatGPTを使ってるんですけど、ChatGPTとユーザーの間にひとつちょっと噛ませることで、ユーザーの好みとか、名前とか、情報をそこで覚えて、それをChatGPTに調整して投げて、返ってくるというふうにしているので、ユーザーは一対一で会話をしてるような感覚になれます。
それと、落合陽一さんが毎年開催されているサマースクールに、私は先生として参加しているんですけど、今年は小2から高校生くらいまで集まって映像作品をつくったんです。「こういう作品をつくりたい」というものを書いてもらって、Runwayで動画生成したんですよ。当時は4秒しかつくれなかったので、ChatGPTでプロンプトを書いてもらってRunwayに入力して、4秒ずつできた大量の動画をChatGPTにもう一回投げて、一つの動画にしてもらう、という制作をしました。小2の子でも制作できましたよ。
野口:こういう経験をした小学生はどうなるんですかね。
きゅんくん:想像力というのは、子どもも大人もそんなに変わらないと私は思っていて、つくるための技術があるかないかだけだと思うんですよね。だから、そのときに思ったのは、技術が発展したことによって、大人にしかできなかったことを、子どももできるようになったのかなと。
野口:先ほどは、職種を越える話がありましたけど、世代も越えてできることが生まれているのかもしれませんね。
洞ノ上:若い人のほうがどんどんできるようになっちゃっているかもしれないですね。Discordでずっとつながっていたりとか。
田中:大人は構えるじゃないですか、「AIだ!」とか。僕には小5の息子と小2の娘がいるんですけど、iPadでScratchを使ってゲームをつくったり、ずーっとRobloxをしていたりしながら、一方で、手書きでパラパラ漫画を描いているんですよ。そういう世界観にいるので、触れることへのハードルがないんですよね。
きゅんくん:すべてがフラットな状態で、目の前にあるんでしょうね。
里村:AIも手描きも全部同じ中にあって、「今日はこれを使おうかな」「ここではあれを使おうかな」ってマネジメントしているわけですよね。
野口:それでは最後に、田中さんにいきましょうか。
田中:うちはコンテンツ制作を中心とした会社なので、僕は社内で生成AIの利用状況について質問して回答を募ってみました。全体的には「リサーチで使っている」という社員が多かったですね。他には、「アイデア発想のため」というのも多かったです。壁打ち相手として、アイデアを具体化していくなかで、自分の分身がいるような感じですね。それと、「生成AIに対して、どんな課題と希望を持ってますか」と聞いたら、課題としてはリアルタイム性に乏しいとか、著作権の話とかが出ていました。
野口:著作権はすごく重要なポイントですが、アドビさんはかなり配慮されていますよね。
里村:そうですね。学習データについては、著作権をクリアにしたものとパブリックデータしか使わないというのを基本にしていて、だからこそ前までのモデルは正直、性能が悪かったんですよ。ただ先日、弊社主催の「Adove Max」というカンファレンスで発表しましたが、新たなモデルについてはものすごくクオリティが上がりまして、本当に肌、手、髪まで、すごく微細につくれるようになりました。だから、著作権をクリアしたうえでも、精度の高いモデルができていっている状況はあります。
洞ノ上:著作権侵害がないものをつくるというのは、本当に難しい話だと思っていて、アドビさんがそこをクリアできたのは非常にすごいことだと思います。
生成AI時代に求められる3つの能力とは?
野口:最後に、今日のタイトルそのままに「Generative AI時代に求められる能力とは何か」について、それぞれ3つのキーワードでまとめていただいているので、それを発表していただきます。
里村:僕は「構想/発想力(Creativity)」「判断力(Leadership)」「マネジメント力(Management)」の3つですね。基本的に最初に何らかの形でイメージが湧かないと、AIを使ってもクリエイティブってつくれないんですよね。もちろん、そのヒントやインスピレーションをAIに求めることはできるでしょうけど、そこの構想する力は、やはりまだ人間じゃないとできない気がしています。
判断力、リーダーシップについては、たびたび出てきた話題ですけど、何が良いか悪いか、好きか嫌いかという判断は、やっぱり人間にしかできない力なのかなと。最後はマネジメント力なんですけど、これはプロセスのなかで、ここはAIに任せて、ここは人間がやるといった全体管理をしていかないと、会社や組織に合った使い方ができずに逆に効率が悪くなることがとあるんじゃないかと思っています。事例でご紹介した話もまさにそういう話ですね。
きゅんくん:私は「インタビュイー力」「ディレクション力」「根気」と書きました。「インタビュイー力」と書かれている方は他にいなかったので、ちょっと深く説明すると、ChatGPTや文字系の生成AIを使っているときに、AIに答えを聞いちゃう人がけっこう多いなと思っているんですよね。「これってどうなんですか」「これを調べてください」と聞く人が多いんですよ。
私が生成AIの使い方として、いちばんクリエイティブでいいなと思っているのは、自分の中にある言語化できないふわふわした考えを、Chat GPTにインタビューしてもらうことなんです。「私にインタビューしてください」と伝えれば、Chat GPTはインタビューしてくれるし、最後に「それをまとめてください」と言えば、自分の考えていることが言語化されて表れてきます。そうした言語化するのに上手に使うという意味で、インタビュイー力としました。
田中:これはすごくよくわかります。優秀なインタビュアーは、相手の「この辺まで出てきてるんだけど、言語化できていない」ということをうまく引き出してあげて、そのインタビューが終わったときに「いい言葉が生まれました」と感謝されたりするんですよね。だから、Generative AIをインタビュアーに見立てて引き出してもらうという意味で、インタビュイー力というのは面白いですね。
きゅんくん:「ディレクション力」はこれまでにみなさんがお話しされてきたことに近いですね。「根気」については、今の段階ではまだまだ一発で狙ったものを出すことはなかなか難しいので、根気強くプロンプトを変えたり試行錯誤する必要があるかなと思って入れました。
洞ノ上:私は二文字で収めてみて、「議論」と「創造」と「破壊」としました。最後に人が判断するものを私たちはつくっているので、アウトプットが適正かどうかについても含めて、基本的にはやっぱり「議論」は必要だなと思っています。
「破壊」というのは、既存のやり方の破壊ですね。私でいうと広告の制作ですが、当たり前のように監督がいて、1カ月ぐらい制作に時間がかかって、みたいなことをいかに躊躇なく破壊できるかは、私たち若い世代の大事な責任だと思っています。躊躇なく、しかもクリエイティビティ高く破壊することを、いちばん大事に思っています。
野口:田中さんは、「破壊」についてはどう感じますか。
田中:いいんじゃないですかね。破壊なくして創造はないし、創造なくして破壊はないですから。クリエイターもマーケターも、今までは自分の頭の中でつくったものを形にしていて、いわば一人プランナーだったわけですよね。それを相談できる相手がいる、自分を壊してくれる相手がいるというのは、さらに進化できていいと思います。
洞ノ上:よく「AIに仕事が奪われる」みたいな言い方もされますけど、そうではなくて、今の概念のままでは仕事が奪われるんだけど、違う概念に持っていったら奪われることにはならなくなると思うんです。そういう概念をつくることが大事だと思いますね。
田中:僕は、今までに出たお話とほぼ一緒なんですけど、「リーダーシップ」「プロデュース力」「言語化力(たとえる力)」と挙げました。
「言語化力」というのは、先ほどのインタビューの話にも通じるんですけど、AIの精度を上げるためにけっこう調教するじゃないですか。間違っていたら訂正してあげたり、たとえ話をしながら伝えたり。そこでも、知識とか知性とか教養とか、リベラルアーツがすごく重要になってくるんじゃないかなと考えて書いてみました。
きゅんくん:画像生成してて、自分の偏見に気づくことがありませんか。私の中にワールドワイドな考えがまだないから、「こういうキャラをつくってください」と入力したら、西洋的なイラストが出てきて、「あっ、アジアンガールと書かなきゃいけなかったのか」と反省したりします。そこでワールドワイドな視点が欠けているな、必要だな、と気づくことがありますね。
田中:わかります。たとえば広告コピーでも、自分たちにとっては自然だけど、他の国に出したら問題になる言葉があったりしますよね。
洞ノ上:結局は、知っている範囲でしか今はできないので、そこの知識を増やすというのはすごく大事ですよね。
野口:みなさんから出していただいたキーワードを聞いていると、技術には関係ない話が多いなというふうに感じました。技術側がどんどん発展しているからこそ、もともと人間が大事とするべきような本質が、むしろ際立ってきているなと思いますね。
田中:人間力の話をしていますよね。
里村:そうなんですよ。先ほどジュンカムさんがおっしゃったように、たとえばマーケターも、マーケティングだけじゃなくて、他のことも学ばない限り、それこそ構想も何もできないということになってくると思うんですよね。専門家よりもある種、ジェネラリストに近いような能力が求められ始めているのかなという気もしますね。専門家に頼んでいたようなことが、AIに任せられちゃうエリアがどんどん増えてきているというか。
野口:表層的なデジタルスキルみたいなものは、要らなくなりそうですね。
Generative AIがもたらす未来とは?
野口:最後に、「ぶっちゃけ質問大会」ということで、ご用意いただいた質問がありますので、それについて話し合いたいと思います。まずは田中さんの質問からお願いします。
田中:2020年に『子ども手に職図鑑』(誠文堂新光社)という本が出ていて、その中ではマーケターやクリエイターは「AIで職を奪われない」みたいな扱いなんですけど、それから3年ほど経って、もはやその勢力図も変わっているのではないかと。「マーケターやクリエイターって、大丈夫ですか?」という質問です。
里村:大丈夫だと思います。これが第四次か第五次かわからないですけど、やっぱり産業革命なんですよ。第二次産業革命のときは、手でやっていた作業が機械に置き換わったけど、手で作業していた人は機械を扱う人へと能力も考え方も変わっていったわけです。それと同じように変わっていけば大丈夫なので、マーケターもAIをどう使うかを考えていくようになるんじゃないでしょうか。だから、正確には条件付きで、そのままのことをやっていたら生き残れないかもしれませんね。自分の仕事の中で、AIを使ったプロセスを考えてみるとよいのではないでしょうか。
洞ノ上:生き残りというよりかは、新しいステージに行けるというポジティブな感覚で、下の世代には考えてほしいですね。
きゅんくん:これは私からの質問なんですけど、最近「マスピ顔」という言葉がちょっと興味深いなと思っています。これは、「マスターピース」とプロンプトに入れると出てくる顔のことで、つまりは傑作顔、みんなが好きな顔ですね。でも、それが最近、何か嫌われてるんですよ。みんなが傑作顔を生成してくるから、一緒で面白くないと。
洞ノ上:でも、それはアップデートで変わっていくのかなと思っています。マスピ顔というのは今時点のものだと思うんですけど、そこは多様化するし、今でさえもどんどん変わっているので、それを描くのが得意で生き残るというよりかは、あらゆる手段を自分でつくっていかないといけないかなと思います。
田中:「○○風」という形でアート作品をつくることはできるじゃないですか。でも、オリジナルを生み出す力というのは、まだ人間に残されていると思います。
洞ノ上:データから取ってくるので、オリジナルという点ではまだそこまでできていないかもしれないですね。
きゅんくん:自分でイラストレーターに発注するときも、絵柄が特徴的な人はAIには生成できないなと思って発注しますよね。
野口:そうですよね。最後に、「5年後にGenerative AIによって、どれくらい社会が変化するか?」という質問について議論したいんですが、いかがでしょうか。
里村:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな感じですかね。未来の世界でいろんなものがバッーと出てきて、AIだったり、ARだったり、もうデジタルコンテンツだらけになってるのが当たり前、という世界なんじゃないかというイメージはあります。
田中:もっと意識しないでAIが使われていると思いますね。
きゅんくん:意識しないでというのは、すごくわかります。ロボットもそうで、「家事ロボット」みたいに意識せずに、「ルンバが走っている」みたいな感覚になっていきましたよね。1個の機能しかなくて生活に馴染んでいる、というものがすごい増えてくるんじゃないかなと思います。
野口:ありがとうございました。では、お時間となりましたので、ここまでとさせていただきます。みなさんに盛大な拍手をお届けください。ありがとうございました。