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※ 本記事は、特別企画「コンテンツディレクター9人が綴る、それぞれの『戦略的コンテンツマーケティング』」で紹介された、9編の書評記事の1本です。リンク先では、残り8編も紹介しておりますので、合わせてお楽しみください。

ソーシャルメディアおよびスマートフォンの普及によって、オーディエンスのWebへのアクセスがより一般的になり、Webは単なるコミュニケーションツールではなく、企業においても重要な広告ツールとなっていることは言うまでもない。

ただし、それによって、コミュニケーションの主導権は企業から消費者に移り、企業に求められているオーディエンスとの関係性は大きく変化した。以前までは出会うことのなかった消費者同士(あるいは出会っていたとしても、公共の場にさらされることのなかった交友関係)ができたことで、企業が関与できない情報共有によって消費行動が大きく影響されるようになった。従来の「関心をつくる」ためのペイドメディアによる一方的なメッセージは、無視あるいはバッシングへとつながる恐れをはらむものとなっていった。

ソーシャルメディアにおける情報の拡散スピードがあまりに早く、コントロールができない状況に翻弄される企業。これまで以上に消費者の声およびトレンドを意識し、情報発信においては自社のコントロール下でできるオウンドメディアが重視されつつある。そのうえ、ファンの育成へ向けた継続的なコミュニケーションや購買欲求を後押しするユーザーエクスペリエンスといった、生活者のニーズに沿ったコンテンツの提供が求められている。

的確な相手に対して、的確なコンテンツを送り出す手段として、コンテンツマーケティングの重要性が高まってきているのである。本書は、コンテンツマーケティングの指南書ではなく、コンテンツマーケティングを導入予定のマーケ担当者へ向けた戦略論をまとめた一冊になっている。

 

眠っているコンテンツの身なりを整える

友人同士のリアルな感動や共有体験が行き交うソーシャルメディア上では、これまで以上に、商品やサービスが作り上げられた背景を、オーディエンスは意識している。企業が注意するべきは、主に以下の4点だ。

  • 情報を誇張しすぎてはいけない
  • リリースのタイミングを見極める
  • ターゲットを意識しアピールする
  • リリース後の拡散や長期的な運用サイクルも視野に入れる

 

以上を踏まえ、コンテンツを組み立てていく必要がある。本書では、その組み立て方以前のコンテンツマーケティングの考え方と、実際に作り上げていくうえでの手順を紹介している。

一見、複雑で手間がかかる上に直接の営業利益にはつながりにくく(あるいは利益が可視化しにくく)厄介に感じられがちだが、企業がおこなうべきことは至ってシンプルである。もともとその商品やサービスのプロフェッショナルなのだから、すでに自分自身が知っていることの表現方法を変えていくのだ。自分たちがこれまでのペイドメディアで培った情報、ストーリー、戦略を活かすため、たとえば商品開発者から営業部門までの人材や情報を取りまとめ、「よそいき」の姿にカスタマイズする必要がある。

 

最新のマーケティングに最新のメソッドはいらない

そこで求められるのが、キュレーター(編集)の役割である。編集者が情報を取捨選択し、ストーリーを組み立て、運用フローを見極め、SEO対策を行い、作成したペルソナに向けて物語を投げかけていく。あるいは、キュレーターの確保が難しいという場合、以下の方法も挙げられる。

・インフルエンサーへの強力をあおぐ
しかし知名度のないメディアや企業が、インフルエンサーをアサインしても断られる可能性が高く、メディアの認知度が高まってきた際にレバレッジを掛けるために有効である。

・ソーシャルメディアの利用
コンテンツマーケティングにおいてもっとも理想的なトラフィックサイクルは、ソーシャルメディアで話題になり(バズる)結果的にSEOでも上位になる、という流れ。しかし、コンテンツマーケティングのチャネルのひとつであるソーシャルメディア、たとえばFacebookなどは、アルゴリズムが日々変容し昨日まで有効だった手段が今日からは通用しなくなるといった自体も日常的に起こりえるため、日々監視が欠かせない。

編集の役割に話が戻るが、信用されるコンテンツ作りには、信用に足るべき背景、物語を作ることと、興味・関心を引くためのアイデアを織り交ぜることが必要だ。コンテンツの拡散と拡散先を想定し、ストーリーを考えて組み直し、流入手段とチャネルを考え、そして結果を解析しPDCAを回していく。幅広い能力が求められていると思われがちだが、常に四方八方に気を配り、トレンドをつかみ、素早く行動し、アイデアを形にして共有しあう姿勢は、自然と必要となることであり、また、古くから行われてきたコンテキスト作りと何ら変わらないやり方だと考えられる。

そもそも、アドボカシーマーケティングの延長線上にあるコンテンツマーケティングは、オーディエンスを助ける、オーディエンスの未来像を描く、という点で真新しい手法ではなく、ブランドのロイヤルティを高めていく自然なサイクルである。

 

肩の力を抜いて、仲間とサービスと、顧客を愛すること

コンテンツマーケティングとは、もともと企業が持っているメソッドや知見を再整理し、魅力やアドバンテージを自ら見直すものでもある。そのため、組織内の教育が最も重要な課題のひとつだ。

コンテンツマーケティングを持続させ、成功へと導くために必要なのは、関係者への啓蒙および無理のないゴール設定である。コンテンツマーケティングが威力を発揮するのは、消費者同士での話題作りであり、目標となるのは利益以外の点で得る消費者とのエンゲージメントだ。

ともすると、コンテンツマーケティングにおいて重要な役割である編集(外部リソース)の確保も不要かもしれず、必要に迫られたとしても初期段階のストーリーの整理やアイデア出し、オーディエンス解析の部分のみで十分に終わることもある。つまり、社内のスタッフが消費者と商品を愛し、その延長でコンテンツが制作されていくようなムードが作られることが大きなゴールであるといえるだろう。

こうしてまとめていくと、コンテンツマーケティングは、大きなリソースや莫大な予算を必要とする手法ではないことが分かる。

必要となるのは、従来のマーケティングに加え、オーディエンスの交友関係に足を踏み入れて声を傾聴したうえで商品を見直すこと、コンテンツマーケティングの概念そのものを社内に浸透させること、そして何より旧態依然とした商品やサービス、あるいはマーケティングに、他にない自分だけのアイデアを加えることが求められているということである。

 

伊藤七ゑ