【Web担連載記事①】ユーザー理解の調査手法を正しく理解するために、押さえておくべき2つの軸
あなたにとって、重要なユーザーは誰ですか?
あなたの重要なユーザーがどんな人か。どんな価値観を持っているか。
語ることができますか?あなたの重要なユーザーはどのような経験を求めているか言えますか?
これらの3つの質問に、すらすらと胸を張ってお答えできる方は、この記事を読まなくても大丈夫です(笑)。
ただこういった質問をされると、どこかモヤモヤとした、歯切れのよくない答えをついついしてしまう方も少なくないのではないでしょうか。では、自身にとってのユーザーについて、どのように理解すれば良いのか。
本連載では数回にわたり、主にユーザー理解のためのさまざまな調査手法やアプローチについてとりあげ、数多あるそれらの手法やアプローチの特長を、リサーチ初心者の方向けに、わかりやすくご紹介していきます。
ユーザーを理解するために必要な2つのカギ
まず今回は、これから数回にわたって取り上げる、さまざまな調査手法やユーザー理解のためのメソッドを正しく理解するうえでとても大切な、「何の目的で、ユーザーの何を理解するのか?」について説明していきます。一言で「ユーザーを理解する」といいますが、その目的はさまざまです。
たとえば、「現在、提供している製品やWebサイトに関する満足度を知りたい」という期待もあれば、「今はまだない画期的な製品やサービスを開発するためのヒントを得たい」など、企業の置かれている状況や立場によってさまざまでしょう。
つまり、ユーザー理解において大きく分けると次の2つの軸が重要なカギを握ります。
1.ユーザーについてどのレベルで知りたいか?
2.ユーザーをどのように知るか?
では、具体的に「1.ユーザーについてどのようレベルで知りたいか」から説明していきましょう。
どのレベルのユーザーを知りたいか?
ユーザーを本当に理解しようとすると、実は次のような3つのレベルに分かれています。
既知レベルのユーザー理解
すでにわかっていること
ユーザー理解の調査を行う前段階として、ユーザーを含めた、関係者全員が「すでに知っている」ことってありますよね。つまり、ユーザーも関係者もすでに共通に理解していることを「既知レベルの理解」と呼びます。
顕在レベルのユーザー理解
正しいかどうか検証しないとわからない
関係者は、「ユーザーにおそらくこのようなニーズがあるだろう」と仮説を立てたものの、それが正しいかどうか“検証”が必要なことを「顕在レベルの理解」と呼びます。ユーザーにとってそのニーズは、“顕在化”されている状態を指します。
このレベルのニーズをリサーチしたい場合は、次のような質問をすると、相手が明確に言葉で答えられるものです。
▶何が欲しいですか?
▶どうなっていたらいいと思いますか?
潜在レベルのユーザー理解
何がわからないかすら、発見しないとわからない
ユーザー自身もそのニーズを認識していない、わかっていないので関係者が“発見”する必要があります。これを「潜在レベルのユーザー理解」と呼びます。
このレベルになると、ユーザー自身が自分のニーズを理解していないので、顕在レベルのニーズをリサーチするときと同じように「何が欲しいですか?」とユーザーに質問をしたところで、ユーザー自身もどう答えていいのか自体がわかりません。そういう場合には、直接的に知りたいことを質問するのではなく、行動を観察したり価値観を探るようなインタビュー技法を用いることで浮き彫りに していきます。
このように、下に行けば行くほど理解すべきレベルが深くなっていきます。ユーザーを本当に知ろうとすると前述した3つの「レベル」によって、次のようにアプローチの方法が変わってきます。
▶検証型のアプローチが必要なのか?
▶発見型のアプローチが必要なのか?
ユーザーをどのように知るか?
次に「2.ユーザーをどのように知るか?」について説明していきましょう。前述したように、「何かを知る = 理解する」には以下の2つの場合があり、その目的によってユーザーを理解するためのアプローチ方法も変わってきます。もちろん常にどちらか一方という二者択一ではなく、両方のバランスを求められる場合もあります。
▶「定量的に正しいことや確かなこと」を必要とする場合たくさんのデータの中から1つの確かなことを知る = 定量的なアプローチ
▶「これまで思ってもいなかったような意外な事実」を必要とする場合データの量は少ないけれども豊かな文脈を含んでいる質的に深いデータから数多くのことを知る = 定性的なアプローチ
つまり、一言で「ユーザー理解のための調査」を行うといっても、「どのレベルのことを、どのように知りたいのか」によってユーザー理解のための調査手法や手段が異なります。そのため、最適なものを選び使いこなす必要があるということが、ご理解いただけるかと思います。
振り返りとして今回のポイントは、次の3つ。
1.「何を目的としてユーザー理解を行うのか?」を明確にする。
2.ユーザーを「どのレベルで知るか?」「どのように知るか?」の2軸を定める必要がある。
3.「理解の目的」と「どのレベルでどのように」知るべきか? によって、用いるべき最適なユーザー理解手法は異なる。
さてここまで、ユーザー理解のためのメソッドを正しく理解するうえでとても大切な、「何の目的で、ユーザーの何を理解するのか?」に必要な2つの軸について説明してきました。今後、本連載で取り上げる予定のユーザー理解の調査手法です。
ユーザーを理解するという関連ワードで「UX(User experience/ユーザーエクスペリエンス)」、「CX(Customer experience/カスタマーエクスペリエンス)」という言葉に馴染みをお持ちになる方が増えていらっしゃるのではないでしょうか。
2000年に発表され2005年に再版された、『[新訳]経験経済』(The Experience Economy, B.J. Pine Ⅱ/J.H. Gilmore-2000)という書籍のなかで、著者であるジョセフ・ギルモアとジェームス・パインは、顧客にとって重要とされる価値の変化とパラダイム・シフトに関するこれからの考え方を、「素材からモノへ、モノからサービスへ、サービスから経験へ」という言葉で提唱してから久しいです。まさに、ユーザーにとって重要な経験価値を知ることは、ユーザーそのものを深く理解することに他なりません。
では、製品やサービスの提供者である企業は、はたして顧客 = ユーザー※にとって望ましい経験を正しく理解できているのでしょうか。この連載を読み終えたときに、何かしらのヒントを皆さんが得ていることを願っています。
次回は、ユーザー調査における二大派閥「定量調査 vs 定性調査」と「検証型アプローチ vs 発見型アプローチ」について、さまざまなユーザー理解のケースに適した調査手法を総論的にご紹介します。
注釈
※厳密には「顧客」と「ユーザー」は異なる場合がありますが、本連載では便宜的記号表記として、顧客や生活者、ビジネスユーザー、特定の製品やサービスの実際の使用者ではないけれど直接的・間接的に使用する可能性を持っている人を包括的に「ユーザー」と呼称します。
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