【第1回CONTENT JAMレポート】これからの動画マーケティングとは?
デジタルマーケティングにおいて、動画の活用は当たり前の手段として認知されていますが、動画はあくまでもマーケティングの「手段」であり、「目的」ではありません。
マーケティング戦略に基づいたシナリオプランニングを行い、それを実行し、成功に導くための一つの手段として「動画」があるはずです。しかし、動画広告やブランディングムービーを制作することが「目的」となってしまい、いつの間にか全体の戦略やシナリオと乖離していた…といった経験を持っている方も少なくないのではないでしょうか。
そんな悩みを持たれている方々の一助となるべく、インフォバーンでは、デジタルマーケティングの視点から見た「動画の最適な活用方法」をテーマに、去る5月29日にBOOK LAB TOKYO(東京都渋谷区)にてセミナーを開催しました。
第1部では、インフォバーンより田中準也と渡邊大志が登壇し、第2部には、映像制作会社エルロイのプロデューサー松田健さんと、映像ディレクター上野アキトさんに登壇いただきました。今回はその様子をレポートします!
動画マーケティングは手法先行型ではない
第1部では、国内外のデジタルマーケティングのトレンドや業界情報を発信するメディア、DIGIDAY[日本版]の事業統括を務める田中準也(株式会社インフォバーン 取締役 ソリューション部門長)と、映像プロダクションでの制作現場の経験を持つ渡邊大志(株式会社インフォバーン ディレクター)が、デジタルマーケティングにおける動画の現状と業界の動向についてお話ししました。
田中:言われ始めて早何年といった感じですが、“動画広告元年”ってもう10年以上も言われ続けています。これって、テクノロジー側が手法を先行させる形で、新しいテクノロジーが出るたびに「動画やりましょう」と言っていたからだと思います。それに対して昨今では、手法(=How)よりもその“目的”とか、“誰に”といったWhyやWho、Whatの部分が大事だよね、というようにシフトして来ていると思います。
この数年で動画は消費者にとって、身近なものになりました。その背景には、スマートフォンの普及があります。株式会社サイバーエージェントがまとめた動画広告市場規模推計によると、PC上の動画広告はほぼ横ばいです。一方、スマートフォン上での動画広告は2023年までに約5倍、とくにインフィード広告が占める割合が高くなると予想されています。
TVCMだけの時代では、ざっくりいうとクリエイティブとメディアプランニングは分担作業で、別の人がやってよかった。DIGIDAY[日本版]において元資生堂ジャパン執行役員の音部大輔氏が指摘(リンク:https://digiday.jp/brands/shiseido-otobe-daisuke/ )していますが、消費者はTVCMが出始めた頃、それらを広告として見ていませんでした。動画と動画の間の15秒の一つの動画作品、エンターテインメントとして消費したんじゃないかと思います。でも、今はそういう時代ではありません。特にデジタル上では、認知(Attention)があって、興味(Interest)が湧くのではなくて、そもそも興味(Interest)がないと認知(Attention)すらしてもらえない、そんな時代にあると考えています。
これからの時代の動画活用とは?
田中:動画広告を検討する際に留意するポイントは5つあります。
1つ目のポイントは、ファネルごとに考えることです。商品・サービスに気がついてもらうための動画、購入直前まで来ている人に向けた動画など、それぞれのファネルごとに動画を活用すると良いと思います。
2つ目のポイントは、TwitterやFacebook、Instagramなど、各プラットフォームごとに考えることです。
3つ目は、オフラインも含めて考えることです。例えば、最近は駅のデジタルサイネージ広告なども有効ですね。
4つ目は、広告や動画以外の他のコンテンツを考慮に入れること。
最後に5つ目。これが1番重要だと思うのですが、relevancy(関連性)、つまりどうやって自分事化していくかを考えることです。これは後半のセッションにも関わってきますが、どんなCONTEXT(文脈)で、どのようなSTORYTELLING(物語)で進めていくかが非常に重要だと思います。
カオスマップをつくって気がついたこととは?
第1部後半は、弊社ディレクター渡邊大志にバトンタッチ。作成した動画マーケティング業界のカオスマップを披露し、そこから得た気付きについてお話しました。
渡邊:このカオスマップは左側をAdvertiser(広告主)、右側をConsumer(消費者)として、ざっくり3つの軸に分かれています。1つ目の軸は動画制作、2つ目は動画広告配信プラットフォームや分析・測定会社、3つ目は動画メディアやアプリ、LIVEなど広告を流すプラットフォームになっています。
マップを作ってみて私なりに気がついたことが3つあります。
1つは、データ活用はどの会社でも行っているということ。例えば、制作会社の場合は動画を作る前にターゲットとするグループの傾向を分析しますし、動画メディアの場合はその動画がどのくらい視聴されているかなどを分析します。
2つ目は、動画を視聴者に見せる場所(配信先)は、公開後もチューニングしていくということ。動画を作って公開したらそこで終わりではなく、データ分析によって、当初狙っていた戦略を変更し、別の配信先を試していくといったチューニングができるようになったんですね。
そして3つ目は、動画を制作していくにあたって、パートナー選びが重要ということです。制作会社にしてもプラットフォームにしても、依頼したときに複数の案を出してくれて、いくつかのパターンの中からより効果の高いものを検討することができる――。そうしたコミュニケーションができる会社を選ぶのが、成功の鍵だと思います。
動画制作におけるディレクターはいわゆる監督
第2部は弊社でコンテンツ制作に携わる能瀬、山田の2人が上野さん、松田さんのお話を伺いながら、デジタル動画の作り方と現場のあるある話についてトークセッションを展開しました。
上野アキトさんのご紹介
株式会社MODOC
ディレクター・コミュニケーションデザイン
上野 アキト (うえの・あきと)さん
日本大学芸術学部写真学科卒業。スチールカメラマン、フリーのPMを経てシースリーフィルム入社。制作部から企画演出部に異動。TVCM の企画演出をはじめ、Web コンテンツ、バイラルPV、ミュージッククリップ、テレビ番組など様々なメディアにおいての企画と演出を手がける。街頭広告の企画やコンテンツ開発、プロモーションそのものの提案など、映像制作の無い案件にもプランナーとして関わる事が多い。
2013 年より「ディレクション/プランニング/コミュニケーションデザイン」を職種として表記。現在は株式会社 modoc inc. 所属。テキサスで行われた sxsw2015-2016 の日本独自イベントの企画ディレクションなど、リアル / デジタルでのマーケティング等仕事の幅を広げている。
松田健さんのご紹介
株式会社エルロイ
プロデューサー部 部長
松田 健(まつだ・けん)さん
1983 年東京都生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒。卒業後、CM制作会社サッソフィルムズにて数多くのCMや企画に携わる。その後、 株式会社リクルートメディアコミュニケーションズにて採用広告のディレクター。ソフトコミュニケーションズ株式会社にてWebDTPの企画営業主任を務める。ジャンルを問わず広告営業、アカウントプランニングのできる映像プロデューサーという強みがある。企画の立ち上げ段階からアプローチの検討、実制作までワンストップで携われることに魅力を感じ、エルロイに参加。 プロデューサー部部長として、TV及びWeb CMを中心に、エルロイを牽引している。
能瀬:松田さんはプロデューサー、上野さんはプランナーであり、ディレクター。プロデューサーの仕事ってわかるようでわからないですよね。まずそのあたりからお聞きしたいのですが、例えば映像制作でいうと、どのような役割になるのでしょうか。
松田さん:わかりやすい伝え方をすると、映像制作が進んでいくときにざっくりと右脳的な役割を果たすのがディレクター、左脳的な機能を果たすのがプロデューサーです。時間とかお金とかを判断するのがプロデューサーで、その中でどういう風なテイストにしようか、などを考えるのが監督やディレクターかなと。
能瀬:Web業界だと、Webディレクターっていう仕事がありますよね。そのディレクターとは違って、映像の監督や演出をするということでしょうか。
上野さん:職業としての「映像ディレクター」は、基本的に皆さんが想像する「映画監督」のような人を想像してもらえればいいと思います。
能瀬:プロデューサーがいてディレクターがいて、映像制作、動画広告が成り立っているわけですが、今日はお二人に制作の基本フローを軸にしながら、基本や注意点などを解説していただきたいと思います。
松田さん:映像制作は大きく4段階で完成します。「企画」、「プリプロダクション」、「撮影」「編集仕上げ」です。順を追って、この4段階について話していきたいと思います。
企画段階におけるコンテの市場価格とは?
能瀬:まずは企画です。企画に関してはどのような要素があるのでしょうか。
上野さん:総合調査、見積もり作成、スケジュール作成、企画コンテなど、さまざまな要素があります。例えば、総合調査はご依頼いただく時点で代理店さんの方で既に済んでいるという場合が多いです。商品やサービスがどんな年齢、性別の人に、どういう嗜好性を持った人に購入されることが多いとか、他社が出している広告などの情報をまとめます。
山田:気になるのは、やはり予算の部分ですね。予算によって動画のクオリティーに差異が出ると思いますが、そのあたりをわかりやすく教えてください。
松田さん:例えば、よくコンテを出して欲しいというご依頼があるのですが、コンテの市場価格ってご存知でしょうか。カラーコンテの場合、1枚で10万~15万くらいが相場です。それから、制作準備費があって、実制作の準備にかかる費用、例えばロケハン、ドライバー、キャスティングの要望などになります。実制作の項目では、例えばプロデューサー、プロジェクトマネージャー、ディレクター、ロケコーと呼ばれるロケーションを探してくる人の人件費、撮影機材費、編集費用などが含まれます。
能瀬:スケジュールはどうでしょうか。
松田さん:企画内容を決めて、企画コンテ、演出コンテをとった後、ロケハン、PPMなどを行います。そして撮影をして、仕上げ、編集、お客様の確認と修正を2〜3回繰り返して納品になります。
能瀬:「3日後には納品して欲しい」などの要望もあると思いますが、やはり厳しいですよね?
松田さん:そうですね。この業界は正確に〇〇料金は何割増しみたいなことが決まっているので、お急ぎの場合はどうしても特急料金が発生します。企画から納品まで、通常ペースで2〜3カ月と考えていただければ、おおよそ間違いありません。
重要な撮影前の準備=プリプロダクション
松田さん:企画の次にあるのが、プリプロダクションです。演出コンテを作って、全員が共通の認識を持ったところで、いよいよ動画の具体的な内容を決めていきます。例えば、オーディションをして、主演はこの人にしよう。ロケハンをして撮影場所はここにしよう。座組という言葉は聞きなれないと思いますが、演出コンテに適切なカメラマンは、〇〇が得意なこの人にしようといったことです。同様にプロデューサー、監督、制作、カメラマン、ライトマン、美術、衣装など、動画制作に必要な詳細を決定していきます。その後に、フィッティングや美術・音楽制作があります。
能瀬:PPMとは、どのようなものですか。
松田さん:PPMは、プリプロダクションミーティング資料の略で、撮影の総説明資料のようなものです。企画概要、座組の紹介、コンテ、キャスティング、撮影場所、スケジュールなど、プリプロダクション段階で決めた全ての事項が含まれています。特にスケジュールに関しては厳密です。撮影日が1日しかないという場合、その日を逃せばもう一度計画費がかかってしまうため、やり直しや仕切り直しができない世界です。直前にすべて詳細な説明書を用意して、お客様の希望や認識との相違点がないことを確認して進めていきます。
撮影において不測の事態はよくあること?
山田:撮影において、リテイクというのはもちろん発生するという設定ですよね。
上野さん:リテイクは2パターンあります。1つは監督が「用意スタート!」と撮影を開始し、ミスや納得できない際に「カット」し、撮り直しましょうという場合です。そうしてやり直すのが、2テイク目。こうして、テイクを重ねることをリテイクといいます。撮影が難しい商品撮影などは、何十テイクも撮ることがあります。
もう1つあり得るリテイクが、1番恐ろしいリテイクです。それは、撮影そのもののリテイクです。例えば、一日撮影したけど撮り逃しがあった、撮影中に太陽が隠れてしまい、途中から大きくトーンが変わってしまった、または時間がかかって大事なテイクが撮りたい時間に取れなかった、などといった場合に起こります。その場合、別日に不足しているシーンだけを撮影する必要があります。再度、同じ役者さん、同じチームで、同じ状況で撮ろうっていうのが、一番つらいリテイクですね。
山田:それが、「ロケ地ケツ問題」などにも絡んでくると?
上野さん:絡んできますね。日回りっていうのがまさにそうなのですが、太陽が沈んじゃうと撮れないとか、夜じゃないと撮れないとか、ロケ地の使用時間が過ぎてしまうとか…撮影で必要だったら放水車で雨を降らせることもありますし、お願いだから雨降らないでくれっていうときもあります。
山田:PPMで細かく詳細を詰めていても、そうしたトラブルは起こるものですか?
松田さん:プロデュースサイドでもクリエイティブサイドでもそうなんですけど、やっぱり想定し得ないことが起きるんですね。よくありがちなトラブルとしては、例えば夏、お芝居をとるタイミングで、蝉が鳴いていたため撮れないとか、ヘリが来たとか…。今の例えで何となく想像できるかもしれませんが、全く想定できないようなトラブルがたくさんあります。
上野さん:とはいえ、仕上げでカバーできることもあります。例えば、モデルさんのメイクの一部分、ほくろが気になるとか怪我をしてる、傷跡があるとかいった場合です。そこでメイクをさらに厚塗りして隠すか、もしくは編集という映像をつなげる段階でコストを使って修正するかという2種類の方法があります。背景をブルーバック、グリーンバックなどの何もない状態で撮影し、後で合成するっていうのは、まさに仕上げでやる場合ですね。その場合は、クリエイティブや期間、コストなどを踏まえて、企画の段階であらかじめ考慮しておきます。
最後の仕上げにも関門あり
松田さん:今日、上野さんがぜひ話題にしたかったこととして、ナレーターの話があるんですよね?
上野さん:はい、要は権利問題です。仕上げとは映像をつないで音を付けたり、ナレーションを入れたりして映像として完成させることなのですが、例えばナレーターさんや音楽、出演した方の肖像権などは、基本的には買い取りができません。そのため、基本的にはTVCMは3カ月、1、2クールまたは年間契約などで縛られます。Webの映像というのも永久に使えるものではなく、ナレーターさんであれば、Webだとおおよそ1年くらい。1年で契約した場合、1年後には延長料というものを払わなければいけないのです。BGMも同様です。お金を払って延長する必要がないのであれば、Web上から削除しなければいけないという決まりになっています。YouTubeのチャンネルなどの場合、権利切れの映像がアップされていても、手の出しようがない時もあるのですが…。
山田:もし、権利が切れている映像がアップされているのを発見した場合、制作サイドから何か言ったりしないんですか?
上野さん:基本的にあまり言わないですね。TV侵害という申し立てはYouTubeでもできるので、言えば消すことはできるのですが、それを一製作者である私たちがやっていいのかという話もあるので。できればそういった場合は、お客様から申し立てをしていただけるとありがたいのですが、実際はナレーターさんや役者さんはWeb上に残ってることを喜ぶ場合もあるので、複雑な感じです。
松田さん:これに関して、私たちプロダクションや代理店が気をつけなければいけないのが、「延長の申請なしに映像が乗っていて、キャスティングから事務所経由で訴状が出ています。つきましては、延長の違約金と延長料で〇〇百万円払ってください」といったことが起こらないようにすることです。お客様を守るためにも期限を設定したらそれまでに落とすという作業が、私たちには必要なことだと思います。
今後の展望は?
上野さん:私自身、Web関係の方と動画を作る機会が増えてきてありがたいことなのですが、そのたびに相互理解ができていないということを実感させられています。Webの方は動画の進行を知らないし、私たちはWebの進行をわかっていないので、そこでうまくいかなかったり、言った言わないの話になってしまったりといったことも起こります。Webの人とムービーの人が相互に理解できれば、お互い活躍の場を提供し合えるような未来が待っているのではないかと思います。
松田さん:YouTubeなどの普及によって、ある意味誰でも広告塔になれるようになった現在、私たちのような広告専門、映像専門の仕事は特別じゃなくなってきたなと思っています。たぶん、私たちはそのうち死んでいくんじゃないかなって(笑)
それは冗談として、要するに昔はテレビしかなかったけれど、今はPCやスマートフォンでいつでも動画が見れたり、外に行けばデジタルサイネージに動画が流れていたりするので、今後、動画がもっと身近なものになっていくと思います。
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インフォバーンでは今後もマーケターの方々に向けてセミナーを行う予定ですので、次回もお楽しみに!