【俯瞰と客観】マーケティング組織の伴走者に必要な2つの視点
創業71年を数える関西圏の大手業務用パンメーカーである株式会社オリエンタルベーカリー様(以下「オリエンタルベーカリー」)。これまで訪問を中心に営業活動を行ってきた同社は、2021年度に新たにマーケティング組織を立ち上げられました。株式会社インフォバーン(以下「インフォバーン」)では、このプロジェクトにおいてデジタルを活用したマーケティングプランの設計と運用支援を手掛けています。本記事ではこのプロジェクトの中心人物である宇野大取締役、立ち上げにおいての実務を担った和田督也課長と、インフォバーンの河野光宏、逢澤彩織、本宮圭にインタビューを行いました。
「足で稼ぐ」が強みの営業部隊に、マーケティングで力を与えたい
——まずはじめに、オリエンタルベーカリー様でマーケティング組織が必要とされた背景などをお聞かせいただけますか?
オリエンタルベーカリー 宇野大取締役(以下、宇野):私は、大手飲料メーカーで営業として6年ほど働いた後、2008年にオリエンタルベーカリーに入社しました。パンの配達や工場での勤務なども経験しましたし、営業活動まで本当にいろいろな業務に携わってきました。
私が入社した頃のビジネスはまだ関西に限られたものだったのですが、2010年頃から徐々に配送の範囲を全国に広げるようになりました。2016年には東京にも営業所を構え、関東進出を本格化。以来、配送規模だけでなくお客さまが商品やサービスに求めるものと常に向き合い、担える領域を少しずつ広げながらビジネスを拡大していっています。
——さまざまな現場を経て経営に携わられている宇野取締役ですが、今回のマーケティング課立ち上げには、どのような経緯があったのでしょうか?
宇野:これまでオリエンタルベーカリーは、いわゆる飛び込みや紹介といった「足で稼ぐ営業活動」を中心に売上を立てていました。実際、我々にとってその営業力は強みですし、そのお陰で今があります。
しかし、我々が今後目指しているのは全国でのシェアNO.1の座です。ビジネスを広げていくならもっと広い視野を持って、もっといろいろな方法で顧客にアプローチすべきではないかと考えるようになったんです。強みであるこの営業力を最大限に活かすためにも、我々がこれまで本格的に取り組めていなかったマーケティング、特に「デジタルマーケティング」の取り組みが必要だと感じました。
マーケティング領域だけにとどまらず、ビジネスを俯瞰できるパートナーを選びたい
——ビジネスが急拡大している今だからこそ、「デジタルマーケティング」という新たな領域へのチャレンジを決められたのですね。取り組みを始めるに当たり、パートナーとなる企業には何を求めていましたか?
宇野:パートナーには、「俯瞰した視点を持っていること」を最も重視しました。取り組む事になるのがデジタルマーケティングだろうとは思っていましたが、それをマーケティング領域の中だけで考えてよい話ではないと思っていたからです。ピンポイントでの施策やツールの話から入るのではなく、弊社のビジネス全体を俯瞰して見たときに、「ではデジタルマーケティングでやるべきことはなんだろうか?」という議論ができることが大切だと思っていました。そういった視点で伴走してくれるパートナー企業を探していました。
また、マーケティングだけでなく「デジタル」という領域に明るくないメンバーも多いので、考え方から教えてくれたり、我々にあったやり方を開発してくれることも期待をしていました。
インフォバーン 河野光宏(以下、河野):巷では、デジタルマーケティングの手法やツールに関する手法、つまりHOWについての情報は、追いかけきれないほど多く飛び交っています。でも、正直「これが正解!」というものはありません。そんなものがあったら、誰も苦労しません(笑)。
大切なのはまずビジネス全体の現状把握、そしてWHYやWHATといったところから整理して仮説を立ててやってみる中で、成功や失敗を繰り返しながら自社にとっての勝ちパターンを見つけていくことが重要だとインフォバーンは考えています。そのためにも、我々はオリエンタルベーカリー様の状況について十二分に理解を深める必要がありました。一方で、社内メンバーだけでは持ちづらい第三者の視点、これは今日のデジタルマーケティングの知見であったり、市場や顧客ニーズを客観的に捉えることであったりするわけですが、こういった視点をインプットするのも我々の大事な役割であると考えてます。
そうやって両者で目線を合わせた上でプロジェクトを進めていきましょうと、ご提案させてもらいましたね。
宇野:河野さんの第一印象は「まぁまぁ明るめの茶髪の人来たな〜」です(笑)。でも、始めからざっくばらんに話を聞いてもらえました。先程も述べたように、俯瞰的な視点で全体を把握したうえで、マーケティング課として進むべき方向を考えてもらえそうだったという印象です。
——一緒にプロジェクトを進めるパートナーとして、前提となる考え方が一致していることはとても重要ですね。一方、マーケティング活動を始めるにあたり、社内のメンバーの理解を得るのには苦労があったのではないでしょうか?
宇野:新たに組織を立ち上げるためには、当然そこに人的リソースを割く必要があります。弊社の場合には営業組織の人員から抜擢することになりました。営業を強みとしている弊社ですから現場には当然、不安や懸念もあったでしょう。でも、こうして少しずつ取り組みが進むなかで、その目的や意義がだんだんと理解されつつあると感じています。マーケティング課のメンバー自身も、デジタルマーケティングに取り組むとはどういうことなのか?というイメージがついてきました。
河野:大切なのは、「売る仕組み」と「売れる仕組み」を考えて実行することです。それぞれの役割を全員が正しく理解し、マーケティング組織と営業組織が両輪で回っていくようになるのが理想であり、我々の目指すところです。
何をどこからはじめるかーーマーケティングの3つのフェーズ
——次は、プロジェクトの具体的な内容に入っていきたいと思います。今回、新しいマーケティング課の課長に抜擢された和田さんですが、これまでオリエンタルベーカリー様ではどういった業務を担当されてきたのですか?
オリエンタルベーカリー 和田督也課長(以下、和田):2010年に入社してから、配送営業、大企業を中心としたお客さまとの商談、東京営業所の立ち上げ、新卒採用、パンの製造・仕入れなど、さまざまな業務に携わってきました。そして、2021年4月から現在のマーケティング課 課長というポジションにいます。
余談ですが、一番しんどくもあり楽しくもあったのが東京営業所の立ち上げでした。拠点もなければお客さんもいない、文字通りゼロからのスタート。大変なことも多かったですが、みなの努力が少しずつ実を結んで関東でも実績を広げられている現状を考えると、頑張ってよかったなぁと感じています。
——そういった意味ではマーケティング業務も初めての取り組みであり、再びゼロからのスタートだったと思いますが、課長に指名されたときはどのような気持ちでしたか?
和田:非常に光栄なことだと思った反面、不安も大きかったのが正直なところです。マーケティングのマの字も知らなかったので、わからないことが多すぎて…。まずは知識を増やさなければと思い、いろいろと勉強をしました。
「マーケティング課を立ち上げて、これからマーケティング活動をしていく」ということは決まっていたものの、具体的になにをどこから始めるのかを考える必要がありました。今回はそういった計画立ての部分からプロジェクトとしてインフォバーンさんに入ってもらいました。
——マーケティング業務の支援という、このプロジェクトの具体的な内容について教えて下さい。
インフォバーン 本宮圭(以下、本宮):このプロジェクトには大きく3つのフェーズがあります。「調査・分析」、「戦略立案」、「施策実行」です。
「調査・分析」は、いわゆる現状把握です。オリエンタルベーカリー様の置かれている市場や顧客のニーズ、競合の状況を調査した上で、同社が強みとして戦えること、逆に弱みになっていることなどを徹底的に洗い出しました。社内外の現状を理解しないことには、その先のマーケティング活動としてなにをやると効果的なのかの仮説を立てることができませんでしたので、およそ1ヶ月という時間をかけて丁寧に取り組みました。
次の「戦略立案」は、「調査・分析」の結果をもとに、理想的なマーケティングおよび営業活動と現在のギャップを洗い出すフェーズです。これを行うことで、現在不足している施策が見えてきます。狙うべきターゲットの取捨選択や優先順位付け、どんな価値を訴求するべきか、その方法などといったことを決めていきました。
どんな施策を行うか決まったら、いよいよ最後の「施策実行」フェーズです。現在はこのフェーズで、ウェブサイトのリニューアルや記事コンテンツの制作、メールマーケティングの企画など、マーケティング施策を走らせるための準備をしている段階です。
自社を客観的にとらえ直すことが、質の高い戦略立案へとつながる
——全体を俯瞰して見てからというお話もありましたが、それが最初の「調査・分析」フェーズの役割ですね。このフェーズは、具体的にどのように実行したのでしょうか?
インフォバーン 逢澤彩織(以下、逢澤):まず、オリエンタルベーカリー様のメイン市場である製パン業界や、パンの卸先である給食業界、ホテル業界、食品スーパー業界などについて、業界分析ツールや調査資料から情報を収集し、市場規模や概況、動向、競争環境などについてまとめました。顧客調査は、実際の取引先である顧客へのアンケートや同業種の方々へのインタビューなどを通して、商品やサービスに求めるもの、業者の切り替えを考えるきっかけ、困っていることなどリアルなニーズを探ります。
自社の強みや弱みについては、オリエンタルベーカリーのみなさまにもご協力いただき、丸一日使ってインタビューやワークショップを実施しました。営業活動が強い理由や、逆になかなか手が回らずできていないことなどをお話いただき、1枚のシートに洗い出しました。
和田:これまでにも、社内で自主的にSWOT分析などを行ったこともありましたが、どうしても自社目線になってしまいます。自分たちの強み起点になってしまったり、無意識に都合のいい解釈をしてしまったり、なかなか客観的に考えるのが難しいんです。
また、顧客や社員などたくさんの人を巻き込んで情報を吸い上げるのもかなりエネルギーを必要とする作業だったりするので、そのあたりも含め質・量ともにしっかりとしたものにまとめ上げていただいてよかったです。
実際、この「調査・分析」資料をさっそく活用しています。たとえば、競合分析の結果として、いくつかの軸で弊社と競合企業のポジショニングマップが含まれていたのですが、それを参考にしながら市場における商品の立ち位置を議論しています。
本宮:市場や顧客、競合の状況を踏まえた上で、改めてオリエンタルベーカリー様についてとらえ直していただいたことはとても大事なことだったように思えます。これまで強みと思っていなかったことが強みになりえたり、逆に強みと思っていたことが競合も強みとしていて差別化が図れる内容でないことが判明したり。またみなさんの意識が統一されたのもよかったのではないでしょうか。こういったことが判断できる「調査・分析」を行って、次の戦略策定に繋げていきます。
——「調査・分析」の質が高いほど、そこから立案される戦略の質も上がりますね。「戦略立案」フェーズは具体的にどのような内容になったのでしょうか。
逢澤:「調査・分析」フェーズの結果を踏まえると、「顧客視点での価値訴求」がキーワードであることが分かってきました。オリエンタルベーカリー様の商品やサービスは実際に顧客からも高い評価を得ており、創業以来ビジネスを拡大し続けてきた原動力でした。ですが、その強みや価値の一部は、営業の方が対面で語ることでしか顧客に訴求することができていないことも同時に分かってきました。
今後全国シェアNO.1を目指すためにも、オンラインでの顧客との接点としてのオウンドメディアは重要な拠点となるため、伝えきれていない強みや価値を訴求する記事コンテンツを作ったり、メールや広告などの施策を通していままでアプローチできていなかった顧客との接点を持ったりという取り組みを計画しました。もちろん、一つ一つの施策ごとに、ターゲットは?目的は?どんな要素が必要か?など、詳細に落とし込んでいます。
——現在はその戦略に基づき、実際の施策実行に向けての準備中ということですが、ここまでプロジェクトが進んできた中で、新たな気づきや変化はありましたか?
和田:価値を正しく伝えられていないという課題認識は社内でもすでに存在していましたが、商品やサービスの価値を企業視点で伝えるのではなく、顧客視点で語る必要があるということも、マーケティング課のメンバーを中心に段々と意識付けされてきたと思います。
また、社内のメンバーだけでこういった戦略を考えると、必要性は理解していてもなかなか実行に移れない。やったことがない取り組みに対して、つい弱気になる傾向にありました。でもそうではなく「どうやったら実現できるだろうか?」と考えられるようになってきたのも大きな変化だと感じています。しっかりと実行までもっていく推進力も大事ですね。
組織の自走も視野に入れ、顧客と向き合うマーケティングの土台を作っていく
——今後のオリエンタルベーカリー様の展望について聞かせてください。
宇野:これまでに築いてきた弊社の強みを最大限活かしてよりビジネスを拡大するという目的を念頭に、まずは今の取り組みの範囲でしっかり結果を出したいです。
そして、この活動が弊社のビジネスにどのように貢献しているかを記事化したり、その中で見えてきた実態やノウハウを知見としてまとめたり、目で見える形でも残して社内外に共有していきたいですね。その結果、従業員にも「やっぱりうちで働いていてよかった!」という気持ちが醸成されたり、やりがいを感じられたりすると嬉しいです。そういった気持ちが、次への動力になると感じています。
和田:現在は、マーケティング活動を実行するための下準備が整いつつあるところですが、ここからが本番。もっと高いレベルまで持っていかなければと考えています。最初はインフォバーンさんに伴走してもらいつつ、将来的には自走できるよう、私自身も一流のマーケターになれるよう頑張りたいです。
そのために、まずは顧客視点でそれぞれのニーズと向き合いながら理解を深める。そして、それに応えられる価値訴求ができるようマーケティング施策を計画的に実行して、結果を出していきたいです。
——インフォバーンでは今後どのような支援をしていくのでしょう?
逢澤:これからいよいよデジタルマーケティング施策の実行フェーズ。私は主に、ウェブサイトに掲載するコンテンツの制作と、メールマーケティングを担当します。サイトコンテンツについては、これまでオリエンタルベーカリー様が訴求しきれていなかった「強み」について、いかに顧客目線で訴えられるかがポイント。同社の商品やサービスに対する理解、必要性を高められるよう工夫しながら作っていくことで、会社の資産にもなると考えています。
またメールマーケティングでは、これまであまりアプローチできていなかった未顧客との大事な接点となることを心がけたいです。ライトでコンスタントなコミュニケーションにより、オリエンタルベーカリー様に対する信頼感を高め、必要性が出てきたときにすぐに連絡がもらえる、そんな関係性が築けたらよいなと思います。
本宮:「デジタルマーケティング」の良さは、施策に対しての結果がデータとして取得できることです。見込み客がどのくらい集まったのか、どこでどのくらい離脱したのか。まずはそういった段階ごとの結果を取得して、改善のアプローチを考えたり、それができる仕組みづくり、売れる仕組みづくりを支援させていただきたいと思います。この活動を通じて、オリエンタルベーカリー様のマーケティングの土台づくりに寄与できると嬉しいです。
PROFILE
※2021年10月時点
株式会社オリエンタルベーカリー
常務取締役 宇野大
大学(商学部)卒業後、他社にて営業経験を積み、当時の営業実績が評価されて株式会社オリエンタルベーカリーに入社。営業と製造・総務も兼任し、幅広くキャリアを積みながら活躍。2010年には地元の野菜を使ったオリジナル企画を成功させ、2014年企画室室長に抜てきされた。さらに強い組織を築き、日本一のシェア獲得・日本一愉しい会社へと導くため、2016年4月常務取締役に就任する。
株式会社オリエンタルベーカリー
商品部 マーケティング課
課長 和田督也
大学卒業後、オリエンタルベーカリーに入社。配送営業、企業営業、地方への出張営業を経て東京営業所の立ち上げに携わる。その後関西で総務製造の仕事を経験し、2021年4月より商品部マーケティング課でマーケティング活動と営業支援を手掛ける。
株式会社インフォバーン
エクスペリエンス部門
副部門長 河野光宏
メーカー、制作会社、IT企業、PRエージェンシー等で就業。デジタルプロモーションや、大手外食チェーンWebサイト制作及びデータベース構築などに従事。広報・PRでは様々な企業・大学・地方自治体のPR案件に携わり、インフォバーン入社後は、リアルからデジタルまで全方位にお客様の課題と向き合いプロジェクトを手掛ける。
株式会社インフォバーン
エクスペリエンス部門
ディレクター 本宮圭
大型運用案件で、プロジェクトマネージャーとして進行管理や品質管理を担当。
生活用品メーカーのブランドサイトや、化粧品メーカーのオウンドメディアにおいてはリニューアルに携わり、デジタル上でのコミュニケーション設計から制作の進行管理まで手掛ける。
株式会社インフォバーン
エクスペリエンス部門
アカウントプランナー 逢澤彩織
デジタルエージェンシーにて、デジタルマーケティングのプラットフォーム導入・構築支援を担当。インフォバーン入社後は、BtoB/C関わらず、企業のオウンドメディアリニューアルやSNS広告施策などにおいて、戦略策定からコンテンツの企画、制作進行までを担当。
INFOBAHN STAFF
総合プロデューサー:河野光宏
アカウントプランナー:逢澤彩織
ディレクター:本宮圭
Webディレクター:舟橋亮太、光野静
アートディレクター:荒井幸子
コンテンツディレクター:今田奈々