サステナビリティ経営で重要度を増す広報の役割〜経営者・広報担当がまず取り組むべき一歩とは?
当記事では2022年8月4日に開催されたオンラインイベント「サステナビリティ経営を推進する『企業のメディア化』とは」のSession:3「サステナビリティ経営で重要度を増す広報の役割 〜 経営者・広報担当がまず取り組むべき一歩とは?」の内容をお届けいたします。サステナビリティ経営を推進するために、従来型の広報から何をどのように変えるべきなのか、経営者や広報が踏み出すべき次の一歩について、 サステナビリティ経営におけるコンサルティングを行っている株式会社ニューラルCEOの夫馬賢治氏と株式会社インフォバーンの代表取締役社長、田中準也がトークを行いました。
※読みやすさを考慮し、動画内の発言の内容を一部修正・補足してお届けいたします
「従来の広報」では、なぜいけないのか?
田中準也(以下、田中): こんにちは。本日はよろしくお願いします。まずは夫馬さんの自己紹介を簡単にお願いできますか。
夫馬賢治氏(以下、夫馬):現在、ニューラルという会社でCEOをしています。2013年に作った会社でもう間もなく10年になるかな。当時からサステナビリティ経営、もしくはESG投資という言葉や考え方を日本の中で広げるという役割で、10年間やってきました。今は企業向けのアドバイザリーの仕事やNGOの理事をしていたり、政府の委員をしていたり、大学の特任教授をしていたり、いろんな観点からしゃべることが増えてきています。今日は広報の課題感とかをお話していければと思います。
田中: ありがとうございます。海外で暮らされていて、日本に戻ってきてから起業されたそうですが。
夫馬:生まれも育ちも日本なんですけど、2010年から2012年までMBA留学をしていました。実は今日本で起きているサステナビリティやESGの感覚が、ちょうど当時のアメリカ大企業の状況と酷似しています。あの頃、サステナビリティって言葉がアメリカで一気に企業に広がりました。それが10年前なんですよね。それを見てすごいびっくりして、 これはまずいぞと。知れば知るほどまずいぞと思って、2012年に日本に帰ってきて、2013年に創業しました。
田中:日本はまだ遅れていますか。
夫馬:どうしてもスタートが遅いので。そんな簡単には追いつかないぞという感じですね。
田中: もしかしたら、10年前に夫馬さんが海外で感じていたことが、日本でも起こるはずだったかもしれません。それが震災とかで遅れてしまったっていう可能性もあるのでは?
夫馬:そうですね、それもひとつあるんですがもっと大きい問題があります。(サステナビリティの)重要性もようやく今こうやって多くの方が知るに至っていますが、(それは)どうしても情報のキャッチアップが遅れてきたという(問題がある)のは否めないですね。
田中: なるほど。今日は「企業のメディア化」というテーマでお話をさせていただいているんですが、このセッションに関しても非常に今多くの方が視聴していただいていて、経営企画室の方とか広報部の方とか多く参加されてるので、興味、関心、あるいはすごく困っていらっしゃるのかなと思います。その辺も少しアドバイスいただければと思います。
早速ですけど最初のトークテーマです。「従来の広報ではなぜいけないのか 」。従来の広報を少し解説します。パブリック・リレーションズとして社会とどう繋がっていくかっていうのは、元々の広報のミッションだったはずなんですけれど、私の広告業界での30年の経験とマーケティング・コミュニケーションの視点から言うと、広報部の仕事はメディアリレーションがすごく長かった。リスクマネジメントも含めてメディアの方々とリレーションをとって、どういう情報発信をメディアの方にして、社会に伝えていくか、ということが従来の広報(のメインの業務)だったのかもしれない。「新しい商品が出ました」とか「組織が変わりました」とか「社長が変わりました」とか。ステークホルダー(との関係性)って、どちらかというとメディアを通してっていうのが多かったと思うんです。夫馬さんはどういうふうにお感じになってらっしゃいますか。
夫馬:そうですね、日本における広報という役割は、宣伝よりも後の時代に出てきてると思うんですよね。立ち位置としては。
宣伝や販促というものは明確にメディアを使いながら、具体的に伝えたい、顧客層に向けて発信していくっていうことから始まっています。では広報とはなんでしょうか。すごくデフォルメして言うと「お金をかけずにメディアの方に取り上げていただこう」と。メディアにこれはいいね、面白いねと思ってもらったら、新聞やテレビ・ラジオに取り上げていただけるので、お金をかけずに企業露出を増やしていこうと。場合によってはコーポレート広報という名前が出てきたので、個別の(商品の)宣伝というよりは、自分たち会社のロゴかもしれないし、コーポレートアイデンティティーかもしれないけれど、あわよくば、無料で届けていこうというのが大きな広報の役割かなと。
さらには社外だけではなく、社内広報としてのインナー向けの広報誌や、社内のインターネットツールを運用する仕事もある。加えて最近はオウンドメディアやSNSも(活動範囲として広がっており)、自分たちで(それらを使って)広報の発信もしなくちゃいけなくなったと。でも、お金はかけずにね。というのが日本の広報かなと思いますね。
田中: それに比べて、海外や夫馬さんが考えるようなIRでの広報活動みたいなところは、統合報告書とかを出してもう既にやり始めてる企業もあります。そのなかでもIRでは非財務情報が重要だとお話されることも多いかと思いますが、どんなことを日本企業は変えていったらいいと思いますか。
夫馬:広い意味で広報を捉えるとすると、メディアリレーションに限らず、対外的なコミュニケーションのチャネルは増えてるんですよね。特に今、サステナビリティ分野の話題が出るのはIRですね。どうしてかというと一番今、投資家がこの話題について情報開示を求めているからです。IR(担当)の皆さんはもう(情報を)出すのに必死です。その一環で統合報告書も作ってきてるってことかなと思うんですね。でも他のチャネル、例えばメディアのチャネルや消費者のチャネルを見ると、あまりサステナビリティの情報をくださいなんて言ってくる方は、あんまりいないんですよね。メディアもそうだし、お客様情報センターのところに来てもないと。そうすると、おそらく多くの広報の方は、外のステークホルダーの方から言われるよりも、社内からこれもっと発信してくれないかといわれて向き合ってきているので、なんでこんなにサステナビリティの情報を一生懸命出さなきゃいけないのか、よくわからない方は多いんじゃないのかなって気はしてます。
田中: 広告とかキャンペーン型の予算投下が多くて、 ゴールがあるじゃないですか。これだけ売らなきゃいけないとか、これだけ露出しなきゃいけないとか、GRPがどうだ、とか。でも(その活動よりは)どちらかというと広報ってリレーションを(維持することを)ずっとやっていかなきゃいけない。それこそサステナビリティな活動なはずなのに、情報を出すことに疲弊してません? 広報の方々って。
夫馬:サステナビリティを世に伝えるというゴールの意義がやっぱり理解できてないとすると、何を力点にしたらいいのかわからないし、プレスリリースひとつをとっても、 何の効果を狙って、これ出してるのかがわからなくなってしまうと、多分やってる方は辛くなっていくんじゃないかなと思いますね。
田中:例えば、会社四季報に乗ってるような会社さんは、サスナビリティレポートのようなページがWebサイトにはありますね。でも、消費者の多くはそこを見ないじゃないですか。
夫馬:見ないですよね。
田中:あるいは、例えばスーパーとかでお買い物してる時にそういうもの(企業のサステナビリティ活動)を思い出しながら、商品を選ぶってことないですよね。
夫馬:ないですね、少ないんですよね、日本ではまだまだ。
田中:でも、政府が一生懸命SDGsを謳ってるじゃないですか。聞いた話ですが海外ではSDGsって謳ってる企業がほとんどないそうで。
夫馬:実際にこれはデータでも出てるんですけども、こんなにもSDGsという言葉が流行っているのは、ほんと日本ぐらいです。日本だけですね。
田中:なんで日本だけなんですか?
夫馬:どうして日本がこんな流行ったかっていう出どころを思い返してみましょう。(SDGsは)2017年18年ぐらいから広がるんですね。言い出しっぺは政府なんですが、どこに飛び火したかっていうと経団連とかです。それから銀行を束ねる全銀協とか。そういう金融の業界団体に「なんだか言わなきゃいけないらしいよ」っていう空気が伝わっていきました。参加・加盟しているほとんどの企業は、経団連の大企業でした。
それで「(我が社も)発信すべし」というのが広報に降りてきて、皆さんとりあえず「我が社はSDGsを意識しサステナビリティを意識した経営を行っております」(と宣言するの)が広まりました。
そして広報をやってる方も、何の意味があるかわからない広報を拡散していくのが一斉に広がっていき、そして学校でも始まった。日本ではそれまでSDGの概念やサステナビリティという言葉すらほとんど(普及して)なかったんですよね。
ですが、ヨーロッパやアメリカでは、SDGsができる2015年には、すでにサステナビリティは一般的な企業用語になってたんです。
田中:欧米の企業の中では、そのサステナビリティというテーマで経営したり、消費者、顧客との関係を作らなきゃいけないっていうのは、もう2010年ぐらいには普通だったと。
夫馬:(欧米では)普通になってましたね。2008年ぐらいから始まって、2010年ぐらいには普通になっていた。その後SDGsができているので、言葉を使い始めるタイミングがなかったんですよね。政府よりも先に企業が先にサステナビリティで発信をしている戦略を作っていたので、「SDGsを言いましょう」という理由もないんですよね。
なので(欧米では)一切広がってないんです。(SDGsという言葉を)知らないです。認知度はものすごく低いです。
田中:なるほど。 だから海外の人から見たら、日本の報道とかwebサイトとか、日本の企業を見た時に「なんでこの人たちこんなSDGsって言ってるのだろう?」「そんなに国連に迎合してるの?」と(不思議に思う)。
夫馬:実際に、(日本企業の方が)海外に出張された時「どうしてその(SDGs)バッジをつけてるんですか」「国連の関係の方ですか」「そのバッジ初めて見ました」とポカンとされるっていうことを経験したそうです。帰ってきて「びっくりしました」と(いう感想を)すごく聞きましたね。
田中:企業に普段はどういうアドバイスをされてるんですか?
夫馬:それはこのテーマ「『従来の広報』では、なぜいけないのか 」に関連します。サステナビリティとかESGなどの分野は、「今の経営」をどうするかではなくて、「将来の経営」の在り方を作っていくものです。場合によっては、事業構造もビジネスも大きく転換しなくちゃいけないかもしれない。まさに、未来視点で、今の経営のあり方を考えていくっていうものなんですね。
その最たる例として、日本にも伝わってきた気候変動というテーマがありますね。2050年にはカーボンニュートラル(を実現する)という。最近はもうお経のようになっているこの言葉が広がっているんですよ。でも2050年、カーボンニュートラルはほっといても絶対に達成できないんですね。
なぜかというと、企業の売り上げが増えていけば、比例して二酸化炭素が増えるので、ほっといたら2050年に減ることは絶対にあり得ないんです。
ということは、企業はこれから大きくやり方を変えなきゃいけない、お客さんとの関係性も、使う材料も全部変えなきゃいけないことを多くの企業が「カーボンニュートラル宣言」で今コミットしてるんですよ。今、日本も含めて単なるお題目になっている企業も多いかもしれないけど、コミットしてしまっている。 もう企業の長期目標になってしまってるんですね。
(だから)お客さん、消費者のみなさん、これ買ってくださいね。と、我々は2050年カーボンニュートラルにコミットしたから、この商品を買ってくださいね(と言わなくてはならない)。今の消費者は「別に俺たち、そんなこと関係ないけど」っていう方が多いけども、もう企業はコミットしてるんですね。
そうなると広報の役割は消費者が求めてる、もしくは社会が求めることに応えるのではなくて、 企業がコミットしてることを達成するための広報っていうやり方に変換していかない限り、企業はこの長期目標を達成することは絶対できないんですね。そうしていくと今までの社外のステークホルダーとの関わり方は、180度変わる。メディアにどうしたら載るかどうかを考えるものから、いかにメディアを動かすか、 いかに消費者を動かすか、いかに社会動かすかの広報に変わっていかない限り、広報はもう役割を果たせなくなってしまったっていうのが、やっぱ大きな転換ですね。
広報は、何を発信するべきなのか?
田中:まさにそう動いていただくために、次のテーマに行きたいなと思うんですけども「何を発信するべきなのか」広報の方々のマインドセットを紐解いていければなと思います。
SDGsは、僕は決して悪いことでもないし、うちの小4息子も授業で習って日記にSDGsと書いてたりします。ルールのように廊下は走っちゃダメって言ってるのと同じような感じで、規制していくっていう部分で言うともしかしたら、日本人という民族性にあっているかもしれません。
夫馬さんがおっしゃっていたような背景を分かった上で、今が日本こうなっていて今につながっているということは、広報の方々も知っといた方がいいことかもしれませんね。
夫馬:そうですね。気候変動ひとつとっても、すでに自動車や電気に激変が始まってきているんですよね。 サステナビリティを考えた時に「SDGs17個の目標のうち、どの項目を言いましょうか」と、ここから始める企業さんが多いですよね。これは2015年に国連で定めた世界共通の目標ですから、我が社もこの精神に賛同して一緒に貢献していきたいと思うと(いう話が多い)。ですが「なぜ国連はこれを発表したのか」 、これについて説明できない限り顧客や消費者は動かせない。
おそらく多くの方は「国連が言ってるんだったら(自分も取り組もう)」なんて気持ちにはならないんですよね。 だって、自分の生活の中で国連なんて考えたことないですもん。シンパシーも感じないし。動こうとは思えないんですよね。
田中:「動かす」「巻き込む」ことはなかなか難しいんですよね。
夫馬:難しいですよね。「国連なんて僕たち関係ないんで」「興味ないです」で終わっちゃうかもしれない。でも、今このサステナビリティへのコミットは、そもそも国連がたとえ言わなかったとしても、さっきお話したみたいにヨーロッパやアメリカの企業はSDGsという言葉ができる前から動いている。なぜかというと、このままの経済のあり方は耐えられない、誰が困るかというと、企業自身、てことが分かってるんですね。
田中:未来の企業が困ると。
夫馬:そうなんです。そして自分たちの未来ですよね、関係ない未来の企業ではなくて、自分たちの企業も未来が危うくなってきている。 だとすれば、方向転換しなくちゃいけないし、(そのための)戦略も描いてむしろ企業は国連と一緒にSDGsを作っていく(ような認識な)んですね。なので、 彼ら(欧米の企業や人々)からすると、国連と一緒に社会を動かしていく、各国の政府を動かすためにSDGsを作ったぐらいの感覚でいるんです。
それなのに日本の中で「国連で決まったのでやります」だと、共感を呼ばない。広報としては「なぜやるんですか」 「国連が言わなかったとしたら、あなた方はやっていますか」「もし、今やってるんだとしたら、それはなぜですか」。ここを説明しない限り、多分(人や社会を)動かすことは巻き込むことはできないんじゃないかなって気がしますね。
田中:何を発信するべきなのか、の前に広報チーム、経営企画のチームの中で「国連が言ってなかったとしても、我々は何をすべきなのか」っていうところをディスカッションしても、面白いかもしれないですね、
夫馬:僕はほんとにそれをおすすめします。今、僕がよくお話をするのは、サスティナビリティ推進担当の部門の方々です。飲みに行ったりすると必ずこういいますね、 「もっと広報が協力してくれたらいいのにな」ってすごく言います。社内の中でもすでに分断が生まれてるんですね。
特にIR分野は投資家からも長期コミットをしろと言われている。気候変動だけではなくて、例えば、ダイバーシティーをどうするのか、これから男女の賃金格差の開示も始まる。でも、多くの企業さんはこう言いますよね。 「いや、うちはそもそも平等だよ」「でもしょうがないよ、採用して募集したら、どうしても男性が多いんだもん」「普通に採用したら、男性が多くなっちゃう」と。 でもこれから女性の学校教育にも働きかけていかない限り、企業は男性が多いままです。「しょうがないんです」って言い続けなきゃいけないけれども、これはもうIRの世界では許されなくなってるんですね。 そうしたら女性の活躍、女性の機会について、社会全体に伝えていかなきゃいけなくなっています。これを、広報の方が一緒にやってくれたらなっていうのが、ほんとにサステナビリティ推進担当の方々の想いなんですね。
田中:隣の部署だったりしますからね。
夫馬:しますよね。日本の大企業ではサステナビリティ推進担当と広報が同じ組織になる動きが去年ぐらいから増えてきてますね。これどうしてかというと、やっぱりそれぞれの年間のミッションが違うと軋轢が始まるんですね。サステナビリティ推進担当は伝えてほしい、でも広報としては(ミッションが)違う、今はとりあえずSNSを一生懸命やらなきゃいけない時なんだ、みたいな。
田中:なんなら(SNSは)ちょっと炎上しかけてるぞ、と。
夫馬:(SNSを)やんなきゃいけないのに。そんなサスナビリティとかよくわかんないことを持ってこないでくれ、というようなことはよくあることなんですよね。
でも今何を発信するべきかは、もう社内の中に答えは出ている。企業は長期的にコミットしている。ほっといていたら達成できない。今はもうあらゆるチャネルで、広報だけではなく場合によっては宣伝部も含めて、発信しなくちゃいけないことがもう大手の企業さんは決まってきてますね。
まだまだそんなレベルじゃないという企業さんも、これから必ずそこを作らなければいけない。今後は取引先からも求められるようになるので、作っていかなくちゃいけないんですね。そうすると、全然何もないところから何発信したらいいのかな、なんて考える必要もどんどんなくなってきていて、社内には難易度が高いミッションが目の前にあって、これを広報がいかに伝えていけるかってのが、もう見えてきてることですね。
田中:プロセスも含めて、もう少しリアルを伝えてもいいんじゃないですかね。
夫馬:ほんとにそう思います。
田中:この部署ではこういうことやってるっていうのをノンフィクションとして、しっかり伝えていくっていうことも必要なんじゃないでしょうか。外のステークホルダーあるいは、社内の従業員の全然違う部署の方が「こういうことやってるのか」って気づくことの方が大事なんじゃないですか。
夫馬:すごい大事ですね、そういう意味でも社内広報の役割はすごく大きくなってるかなと思います。この社内広報に関係してお伝えしたいのは、社外広報が社内広報の役割を果たしていることは多いっていうことなんですね。どういうことかというと、それこそ「2050年カーボニーニュートラルを目指します」と社内で丁寧に説明する前に、社長がどこか(のメディア)でしゃべってるということが多いですね。プレスリリースとかでバーンと出て、社内の従業員の方々も後からメディアを通じて知るみたいなことっていっぱいあるんですよ。
そうすると、逆に従業員の方々にも理解していただくために、 社外広報が大事になってくるんですよね。その社外広報に「我々は国連に賛同している、SDGsは重要だ」では、ハテナですよ。「なんで国連のために、いつのまに我が社はやることになったんだっけ」ってなるので、背景を伝えないと、社内の方にも虚しさだけが残ってしまう情報になっちゃいますね。
田中:企業に勤めてる方のご両親とかお子さんが、「あなたのところの社長がこんなこと言ってたけど、 あれはどういうことなの?」って聞いた時に、「国連が定めたから」という説明は、なかなか伝わりづらいですよね。
夫馬:なにも伝わらないですよね。
田中:従業員の一人ひとり、マネジメント層じゃなくても、 未来の企業がこういうふうになるためには、今これやっとかなきゃいけないんだよと。それはすぐ明日儲からないかもしれないけども、我々はそれを結構一生懸命やってるんだ、みたいなことを、 ご家族で話せるぐらいの状況になってた方がいいような気がしてきました。
夫馬:そうですよね。自分の言葉で語るってのはすごく大事ですし、社員さん1人1人が語れる状態にするってこともすごく大事ですし、 広報自身が自分たちの言葉で社外に発信することも大事です。役員さんや社長さん自身ももっと自分の言葉で喋ることが今求められてるんですよ。だから、僕は国連という言葉も一切やめた方がいいんじゃないかとまで思ってるぐらいです。
田中:誰かが言ったからとかではなくて、考えて考えて考え抜いたら、こういうことはやっぱり大事だと思ってるからやってるっていう、その素直な経営者の言葉とか、その世の中に向けた情報発信の方が、夫馬さんが先ほどおっしゃっていた動かす力になるんじゃないですか。
夫馬:自分の言葉で語られた方が、はるかに共感を呼びますよね。
田中:どうしても企業が横並びで、同じようなことを今言ってるような形に見えなくもないじゃないですか。それは、少し変えられるかもしれないですね。
夫馬:おっしゃる通りですね、広報の役割って、そこもあると思うんですよね。「このやり方で伝えたら刺さりませんよ」っていうことを進言するのって、 今でも広報の方の役割だと思うんですよ。「社長、ちゃんとこの場ではこういうように喋ってください」と。
田中:(広報の方は)スクリプトを書いてますからね。
夫馬:「国連から始めたら刺さらないですよ」と。「だからこそ、自分たちの自社の言葉でしゃべれるようにしませんか」「そこまでぜひ決めてください」とか「役員会の中で議論しませんか」っていうのは、広報の方から赤裸々に思ってることを経営陣にぶつけていただいた方がいいと思います。
田中:ライティング技術っていうか、 使うべき言葉、自分たちの言葉っていうものをしっかり広報チーム、あるいはサステナビリティチームの中で普段から言語化ができてるといいかもしれないですね。
夫馬:その通りですね、それがまだまだ日本の中では未成熟なのかなと思ってます。でも、とりあえず今テーマは来た、あとはどう咀嚼するかっていうフェーズだと思います。できないとは全く思わないので、これから今まさに広報の方の大きな役割としてそこを作っていく(必要がある)。自分たちで語れる言葉とか、想いを乗せられる言葉にしていくっていうのは、まさに今からやっていくことかなと思います。
田中:それこそ現場100回じゃないですけど。コンテンツを作る前に何を発信するべきかの前に、社内のことを色々聞いて企業の中を見るみたいなことも、広報チームの役割かもしれないです。
夫馬:有識者の言葉を借りるのも大事かもしれないんですけど。でも、コンテンツを作っていくときもうひとつ、ぜひやっていただきたいのは、ステークホルダーの声なんですね。今働いてる方だけではなくて、サプライヤーの従業員の方がどう思ってるのか、自分たちが使ってる原料の生産現場でどんなことが起きているのか、 もしくは販売先でどんなこと起きてるのか、場合によってはもう今このタイミングでも災害に見舞われてる可能性は結構あるんですよね。今日も日本でも豪雨がふってますけども。なぜ企業が実際に動かなくちゃいけないか、社内にも社外にも共感を呼んでいくので有識者の言葉だけではなくて、 実際に自分たちが関わっているサプライチェーンの方の声もぜひ取り上げていただきたいなと思います。
増やせる? 増やせない? 広報の予算問題
田中: 次のテーマなんですけど、冒頭夫馬さんからおっしゃっていただきました「宣伝チームに比べて、お金をかけずに露出をしなさい」みたいにいわれていたら。 こういう場合どうしたらいいですかね。
夫馬:これ、あと1歩だと思うんです。確かに今までは広報に対する期待は「お金を掛けずに露出を増やすこと」っていうことだったかもしれないですけども。今お話したようにどんどん色んな経営者が取締役会で、ほっといたら達成できないような中長期目標を発表しちゃってるんですよ。
なので「どうやって達成しますか?」「ほっといてもできないですよね?」「我々はこうやって社会を動かす広報をしたいので、予算をください」と言ったら、どんどんノーっていえなくなります。だって、もうやんないといけないから。今ちょうど日本の経営者たちを取り巻く状況が変わり始めているタイミングなので、広報に対する期待も変わっていくと思うんですよね。
場合によってはなかなか広報の役割というところに結びつかない経営者の方も多いので、待っていても、そのミッションは来ないかもしれない。であれば、まさにそこを広報の方から進言して「我が社はこんなことを宣言してしまってますよね」「やるためには、取引先、場合によってはサプライヤーも動かさなきゃいけない」「これ、もっと発信しなきゃいけないですよね」「自分たちの言葉で こういう企画で行きたいんですけど」って話をしていただいたら、多分、多くの経営者はどんどんイエスと言ってくれる時代だなと思いますね。
田中:そうですね、知っていただくだけじゃなくて興味を持ってもらう。 どうしても従来の宣伝っていうのは、その購買接点から考えていかに思い出してもらうかことに命を賭していたわけです。(今後は)どちらかというと継続的な、ストックされる情報や1回見ただけではわからない、いろんな場面で対話が生まれるようなきっかけとなるコンテンツはやっぱりどんどん作っていかなきゃいけない。これに関しては「もう少し予算ください」と(主張する必要がある)。あるいは宣伝予算と販促予算と広報予算といったものが、もっと1つの財布に なっていかなきゃいけない。
夫馬:おっしゃる通りです。今、来期とか今年の3四半期のKPIを達成するためにはそんな息が長くて測定効果が分からないと言われる広報にお金をかけるよりも、明確にこの層にどれだけ広告を打って露出させて、購買が喚起される宣伝の方に予算を使いたくなるんですよね。でも今は長期的な目標にどんどんコミットしなければならなくなっているので、 もう目先のお客さんのところだけに向き合っていたら、来年、再来年、10年後は死んじゃうんですよね。 そう考えていくと、今は息の長い、まさにリレーション作りですよね。PR(パブリックリレーションズ)が本当の意味で求められるようになっている。僕も宣伝予算を割いてでも、広報に予算をつけるべきだと思いますね。
田中:「短期的な効果が分からなくても、もう1回やっておこう」っていうぐらいの経営視点や経営判断が必要かなと。
夫馬:必要ですね。思い返すと最近、海外ブランドでもこのダイバーシティの問題とか、それこそ人種の問題とかでリレーションを作る企業さんが増えてきてますよね。そういう企業さんは反響が悪かったり、炎上したりしてもやめないんですよ。
どうしてかというと、もう長期的に(目標に)コミットしてるので、これはなんとしても達成しなくちゃいけない、反応が悪いんだとしたら、次はちょっとでもいいインパクトを、ってことを、10年も20年もやるつもりでやっているんですよね。それぐらいに状況は変わってきてるかなと思いますね。
田中:従来の宣伝みたいに、上から(目線で発信する)とかっていう手法ではなくて、どうやったら伝わるか(を重視するべき)。「なんで伝わらないんですか」って(いう問題を解決するためには)、もう消費者とか。ステークホルダーとかサプライヤーとか、従業員の方に聞いたりして、そういうところに時間割いた方がいいんじゃないかと。
夫馬:まさに「発信して動かす広報」。最近このキーワードをよく使ってしゃべっているんですけれども、これからは自ら発信し、動かす広報っていうのが、もうどの会社も必要になりますね。
社内を、メディアを、広報はどう巻き込み動くべきか
田中:次のテーマ「社内をどう巻き込めばいいか」っていうことで言うと、今、答えがあった気がするんですけども、自らが発信者とならなきゃいけないっていうことかもしれないです。
夫馬:そうですね。日本はサステナビリティが遅れて入ってきた状況があるんです。これはもう企業さんだけの問題ではなくて、社会全体の情報の鈍さというものがどうしてもあったんですね。で、その中には当然情報を伝えるメディアの責任ってものもあります。僕は、実際に最近メディアの方に会うたびに「あなた方の責任は重いですよ」って話を僕はすごくするんですよね。
田中: 企業側も謳い文句としてSDGsとか、カーボンニュートラルを掲げて、ステークホルダーや消費者、顧客、あるいはそのサプライヤーの従業員の方が置いてけぼりになってるような一方で、メディアの方々も画一的な情報伝達になっている。 急になんかこう、ゴールデンウィークとかシルバーウィークとかになると、メディアが みんなでSDGsを考えようみたいな(番組や特集を始める)。考えようじゃなくて行動しよう、という場面に来てるわけじゃないですか。この地球の環境を考えると、もっと企業が自ら動かなきゃダメですよね。
夫馬:広報の方々はメディア自体を動かさなくちゃいけなくなってきたし、場合によってはメディアから自分たちが期待する情報が出てこないのであれば、 自分たち自身がメディアになっていくっていうことも、本当に必要になってきているんですね。刻々ともう事態は差し迫ってきている。企業のコミットメントについても、ちょっとでも早く兆しを作らなくちゃいけないタイミングになってきたので、メディアが変わるのを待ってることもできない。そういう意味でいくと、メディアを動かすこともしつつ、 自分たちでも発信する。今はあらゆる発信チャンネルがつながってますから、そこまでの役割が期待されている、それに、お金がかかる。(だからこそ広報に)お金をつけてくれるような経営者が出てきている、そういうことですね。
田中: メディアを動かすためにも、自分たちがメディア化して、情報発信をして、さらにメディアがメディアの視点で、それをもうちょっと切り取りたいなとか、もうちょっと深掘りしたいなっていう風に思っていただくようなリレレーションが、生まれるとメディアも良い方向に向くような気がしてきますね。
中小企業でも、経営陣が口下手でも情報発信を諦めない
田中: 最後のテーマですね。「あの会社だからできるんでしょう」と。日本企業の多くは中小企業です。例えばこの後の(セッションで)、富士通様や味の素様のお話をうかがうんですけども「あの会社だからできるんでしょう」とか「うちでは無理ですよ」みたいなことを諦めてしまう方がいそうな気もするので、 元気になるようなことをいただけると。
夫馬:僕自身も最近、いろいろな形で発信したり、取材も増えてきて、世の中にはほんとに多くのメディアがあるんだなっていうことに気が付くんですよね。全国規模のメディアもあれば、 地方のメディアも、めちゃめちゃたくさんある。今日は途中まではナショナルブランドの全国企業さんを念頭に入れてお話をしたんですけど、地方に行けば地方に行ったでみんな知ってる(メディアがある)。地方メディアでもサステナビリティのブランドについても発信されてる。地方企業でも十分発信できると考えると、もう企業の大小は関係ないんですね。
夫馬:よくまた次に言われるのは、「海外の(外資の)会社だからできるんでしょう」と言われたりしますね。なぜかというと、ヨーロッパはどうしても消費者の関心が高いらしいから、普通にやっても評価されるんだと。(それは)違うんですよね。(欧米では)2010年から2012年にこれ(サステナビリティが普通に経営や広報に組み込まれる状況)が起きてきたんですよ。
逆に言うと、2007から2008年は今の日本と同じ(状況)なんです。 消費者の方の意識は全然高くなかったんです。 企業が積極的に発信してきたから消費者をちょっとずつ変えることができたんですよ。なので関心を高められたこの10年間は(情報を)いっぱい出しました。「なぜ気候変動は怖いのか」「気候変動は本当に起きてますよ」って話を大手のブランドは、海外で自分たちのチャネルでやってきたんです。セミナーや映画も作る。それで消費者に理解をされてきた。だからこそ、今消費者に関心があるないかは関係なくて、それをいかに作っていけるかって考えていくと、 当時の欧米の企業ができたのであれば、今の日本の企業ができないという理由にはならないんですね。
あとは、そういう内容を発信したいと思ってる部署がある、広報の方にもっと協力してほしいんだよなと思ってる部署があるってことに気づいて、そういう部署とのコミュニケーションを増やしていきさえすれば、 社内でも味方は得られる。 自分たちだけで起案しても広報にお金かけられるかって言われてしまうんだったら、それこそIRやサステナビリティと一緒に起案をして、これだけ広報が動いてもらわないと、うちの部署も困るんです。っていう状態を作っていけば、今は予算がおりる時代になってきてますね。
田中: 組織間で壁を取っぱらって、同じ課題を持ってるんだと。同じ未来を見てるんだっていう少し先の話を(した方が良い)。もちろん明日の稼ぎも大事ですけど、何%かでもそういうことができる時間をお互いに作ろうねと。そんな暇じゃないよって言うかもしれませんが、そこはアクションしないと。
私の理解ではけっこう経営層の方がひっ迫していて、やんなきゃって思ってるんだけど、「なんで我が社は動かないんだろう」「あの会社はできてるのに、なんで当社はできないんだ」って思ってるのかもしれないじゃないですか。そういう経営者の琴線に触れるようなお金(予算)の取り方も含めて、どんどん動いていかないと。「これは無駄かも」「これは効率が悪いかも」っていうのは忘れて、馬鹿になれとは言いませんけれども、やってみた方がいいですね。
経営者や役員の方とかには、なかなか口下手な方がいらっしゃるじゃないですか、情報発信苦手であるとか、外に出たくないんだみたいな。そういう方々やそういう企業に対して、アドバイスとかありますか?
夫馬:そうですね、今はライブじゃなくても、動画がうまく使えるようになってきましたよね。例えば同じ1時間しゃべるとして、本人もちょっと苦手だなと思ってる方に(ライブで)1時間喋っていただくよりも、言葉を取りながら編集をしていろんな映像であったり、場面のシーンであったりを(動画にして)伝えていくことで、カバーできることってたくさんあると思うんですね。スピーチが少し苦手な国民性もありますから。であれば、うまく動画を作っていくとか、やり方は あるんじゃないかなと思いますね。
田中:編集力が、広報チームやそのパートナーとかにも求められるかもしれないと。
夫馬:そうですね。今リアルでやるイベントでも、まず動画をご覧くださいとかっていう場面が増えてきたと思うんですよね。スピーチでカバーできない方々は、動画の力をうまく使っていただきたいな、と思います。
田中:先日「リアルアキバボーイズ」のけいたん(ISARIBI株式会社代表取締役の榊原敬太さん)とお話をしたときに、「役員がSNS苦手なんですけど」という質問があったときに「苦手なんだったら、やらなくていいですよ」っておっしゃってて。「動画とかで情報発信したらいいんですよ。編集すればいいんですよ」って、同じことをまさに言っていて。苦手なことを無理矢理やらせる必要もないんじゃないかなっていうのは、まさに今日確信を得ました。
夫馬:どうしても読まされてる雰囲気が出てしまうものほど、相手に興味をなくさせるものはないので、そうであれば、動画に振り切っちゃったら、僕ははるかに有効な時間になると思います。
田中:そのなかで自分の言葉を探してあげて。現場も褒めてあげた方がいいですよね。
はい、ありがとうございます。最後に視聴者の方にですね。夫馬さんからエールというか、元気をもらう一言いただいていいですか。
夫馬:これから広報がすごく大事な時代になっていきますよね。これは皆さんのミッションが重いですよということだけではなくて、社内のいろんな部署からの期待が集まる。おそらく、多くの方が本来やりたかった広報の仕事が、これからできる時代になってきてるんじゃないかなと思いますので、むしろ今「時を得たり」という想いで、社内に味方をつけて、 頑張っていっていただければなというふうに思いますね。
田中:ありがとうございます。ワクワクして、広報チームの方には頑張っていただければと思います。夫馬さん、今日はどうもありがとうございました。
※この対談の模様は動画でも公開していますのでぜひ御覧ください
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