VUCA時代のスポーツマーケティング。マーケターに求められるものとは【AWA2022レポート】
当記事では2022年5月31日〜6月2日に開催された「Advertising Week Asia 2022」のセッション「VUCA時代のスポーツマーケティング。マーケターに求められるものとは」の内容をお届けいたします。株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部ディレクター・鈴木健氏と公益社団法人日本プロサッカーリーグ マーケティング本部マーケティング担当オフィサー・濱本秋紀氏をお迎えし、株式会社インフォバーン代表取締役社長の田中準也がお話をうかがいました。
VUCAと呼ばれる予測不可能なこの現代において、「人を行動に駆り立てる体験価値」をどのように創造しているのかをテーマに、実際のマーケティング活動における苦労話や成功談を絡めてスポーツマーケティングに携わるマーケターに必要なスキルやマインドを明らかにしていきます。
スポーツマーケティングの4つの分類
田中準也(以下、田中):「VUCA時代のスポーツマーケティング。マーケターに求められるものとは」というセッションをこれからはじめたいと思います。
プロフェッショナル・マーケターとして鈴木さんと濱本さんをお招きして、おふたりのエンターテインメント魂をこの30分にぶつけていただきたいと思います。 まず自己紹介を鈴木さんからお願いします。
鈴木健氏(以下、鈴木):皆さん、こんにちは。株式会社ニューバランスジャパンでマーケティング・ディレクターをやっている鈴木と申します。ニューバランスは今日のテーマで言うと、 フットボールに参入しJリーグで、FC東京とサガン鳥栖の2つのチームをスポンサードしております。今日はその周りの話も含めて、濱本さんと一緒に話ができればと思っています。よろしくお願いします。
濱本秋紀氏(以下、濱本):改めまして濱本と申します。 Jリーグでマーケティング本部のマーケティング担当オフィサーをしております。Jリーグは今、全国58クラブから構成されているんですけれども、私はJリーグ全体をどう盛り上げていくか、というところでマーケティングをしているという立場になります。
今日は、鈴木さん、ジュンカムさん(※田中の愛称)とスポーツに関わるお話ができるということで、とても楽しみにしてまいりました。よろしくお願いします。
田中:ありがとうございます。インフォバーンの田中と申します。25歳からサッカーをやってます(笑)。
まずスポーツマーケティングのお話から始めたいと思います。
スポーツマーケティングには大きくふたつのマーケティングがありまして、スポーツのマーケティングと、スポーツを活用したマーケティングがあると思います。
さらにスポーツのマーケティングも、見るスポーツのマーケティングとやるスポーツのマーケティングに分かれます。そしてスポーツを活用したマーケティングは、スポーツ関連製品のマーケティング、あるいは上記以外の製品とかサービス、マーケティングに分かれます。BtoBでスポーツを活用することもあるかと思います。
そんな中で、おふたりはどういう立場なのか。
濱本さんはJリーグをテレビで見たり、DAZN(ダゾーン)で見たり、あるいはスタジアムで見たりという、Jリーグで「見るスポーツのマーケティング」をされています。一方、ニューバランスの鈴木さんは、シューズをはじめとするスポーツ関連製品のマーケティングをされています。
濱本さんは、SAPジャパンから2018年にJリーグに出向されているんですよね。
濱本:(その経緯を)ご説明すると、ブラジルのW杯でドイツが優勝した時に、スポーツのテクノロジーの分野でサポートをしていたドイツのIT企業がSAPなんです。(その流れで)2018年にJリーグに出向して、今に至っています。
田中:(上の図で)「上記以外の製品・サービスのマーケティング」を担っていた時代を経て、今日はJリーグの濱本さんとして(登壇されている)という形なんですけども、知見も含めてお話いただければと思います。
コロナ禍で導き出した、Jリーグの「原点回帰」
田中:ではさっそくテーマにまいりましょう。
コロナ禍となった2020年からの2年間、どんな課題があって、それに対してJリーグのマーケターとして、どういう施策をして、どんな結果があって、どんな学びや気付きがあったのかというのを濱本さんに解説いただきたいと思います。
濱本:もう「辛かった」ですね。 ここにグラフをお示ししてるんですけれども、こちら近年のJリーグ全体の総来場者数の推移を2017年からグラフにしたものです。
コロナの前の2019年に「悲願のイレブンミリオン達成」と書いてあります。 サッカーの(メンバー)11人に由来した数字としてイレブンミリオンを目標に掲げていまして、Jリーグは年間の総来場者数1100万人っていうものを突破していこうと、大きな目標として掲げていました。
で、2019年はそれをやっと達成をしまして、めちゃくちゃ盛り上がってたんです。
田中:悲願ですよね。
濱本:悲願でした。このまま、どんどん右肩上がりで増やしていくつもりでした。
田中:1993年のJリーグ開幕以来、(来場者数1100万人という数字は)達成していなかったんですよね。
濱本:してなかったんです。 (開幕当初は)ヴェルディ川崎さんとかが活躍してチケット買えない時代がありましたが、そのあとはちょっとへこんでいました。そこから東京オリンピックの良い影響やさまざまなマーケティング活動の成果が出て、2019年に(イレブンミリオンを)達成して、これから2倍3倍にしていくぞということで意気込んでたんですけれども。
もう忘れもしないですね。2020年の2月25日だったと思います。
Jリーグは、2月にリーグ戦が開幕するので、開幕戦は(かろうじて)できました。 (そのころは)コロナはニュースでは話題に出てたんですけれども、それほどまだ(日本で)感染が拡大しているみたいな話になっていませんでした。
そのあと第2節の直前(2020年2月下旬ごろ)に、日本でも感染の拡大が話題になりました。その当時の村井チェアマンはビジネス視点にものすごく長けた方でしたので、これはもう中断しないといけないと判断されて、中断をいたしました。
そして無観客試合を経て、2020年の7月に有観客で再開したんですけれども、それもずっと入場制限かかってやってましたので、ここに書いてある通り(総来場者数は)前年比32%に落ち込みました。ビジネスの世界で昨対比32%だと、潰れるんじゃないかと疑われるレベルですよね。本当にインパクトが大きかった。とにかくJリーグ全体で、危機感がいっぱいでした。
Jリーグというビジネスモデルは、大きくはスタジアムに観戦に来ていただくチケット収入やグッズ収入と、DAZN(ダゾーン)というストリーミングサービスで試合を見ていただく視聴収入、そしてスポンサーフィーで成り立っています。
クラブから見ると、DAZN(ダゾーン)さんからの視聴収入は、Jリーグから分配はされるんですけれども、視聴者数で大きく上下するようなものではありませんので、toCの売上インパクトとしては、スタジアムに来ていただくチケット収入がとても大きいんです。
なので、このように激減してしまうと、クラブのファン・サポーターさんからいただく収益は、大きく目減りをしていて、ここをなんとかしないといけないと考えていました。
とはいえ、「コロナがいつおさまるんだろう…」とボーっとしてるわけにもいかなかったので、改めてこのマーケットがどうなっているのか?と調査をしたものをご覧いただきたいと思います。
これは全国でインターネット調査をかけたものです。Jリーグのファン・サポーターがどういうセグメントで、 どれぐらいいらっしゃるかが縦軸にあります。Jリーグのことをまったく知らない「観戦・未認知」が全国の23%ぐらいいます。
その次に、知ってるけどスタジアムに行ったことがない「観戦・認知未利用」が大体半分強の52%ぐらいいらっしゃることが、改めてわかりました。行ったことあるけれども、ここ最近行ってないよねという「観戦・離反」が、19%ぐらいです。
1、2回しか(観戦に)来てないという「観戦・ライト」と、いっぱい行ってる方「観戦・コア」という2つを足すと既存のお客さまになりますが、(そのボリュームは)全体で4.5%です。
周りに100人いらっしゃったとして、スタジアムにサッカー見に行ってるよっていう方が5人もいないという感じですね。これをなんとかしないといけないと考えました。
ただし、まったくのイチからファンを増やすのは難しいので、この「観戦・離反」とか「認知未利用」という、今スタジアムに行ってらっしゃらない方の中でも、この1年以内にスタジアムに行きたいという方はどれぐらいいるのかをこの調査で明らかにしていきました。
それがこの赤枠で囲ってある「観戦・離反」のうちの7.1%と、「観戦・認知未利用」の6.4%です。今行ってないけれども、1年以内にスタジアムでサッカー見たいと思っていただいている方々なので、この方々にどうアプローチをして、 スタジアムに戻ってきていただくか、もしくは初めて来ていただくか、このあたりを再設計しつつ、準備をしていたという形になります。
私たち、今はリバイバル期と称してますが、今年(2022年)のゴールデンウィークは、どう(スタジアムに観客を)戻していくかというフェーズに来ていましたので「GWはJリーグに遊びに行こう!」というタグラインをつけて、大々的にキャンペーンをやってました。
前後にW杯予選もあり、サッカー熱っていうのが多少日本の中でも戻ってきましたので、そういったものを使いながら、 サッカーの話題をJリーグへの興味に転換をしていくとか、 テレビ番組やいろんなところと協力しながら話題作りをしていった中でテレビCMを流しました。
1番反響が大きかったのは、試合への招待施策でした。Jリーグでも初となる、新しい国立競技場でのFC東京さんの主催試合をコアとして招待キャンペーンを行い、15万人を超える皆さまにご応募いただきました。
日本のスポーツのイベントとして、(当時)コロナ後に最も来場者数が多くなったのが、その4月29日に国立競技場でやったFC東京さんの試合です。
先ほどのアンケートでは、お客さまをいくつかのセグメントに分けて、 この層が何%…という可視化をしてましたけれども、サッカーをはじめとするスポーツは、皆さまにとって本当にいろんな価値があると思ってます。地元を応援する価値や、有名選手を見たいという価値ですとか。また、非日常的な場所でストレスを発散したい、とか生活の中でのニーズなどを細かにセグメントごとに分けて、どういった方にはどういった価値が響くのかという調査も行って、最終的にこのようなクリエイティブを作って新しい方に来てもらったり、ファンにスタジアムに戻ってきていただく施策をやってたりしました。
田中:原点回帰のような気もします。
濱本:施策を見ると、「そんなに裏でいろんなこと考えてないでしょ」って思われそうですね(笑)。
田中:アウトプットだけ見ると、すごくベーシックだなと思いますが、やっぱり「選手をスタジアムで見たいな」っていう気持ちにさせるには、非常に効果的だったんじゃないですか。
濱本:そうなんです。サッカーやスポーツ業界のなかで考えてると、もうどんどん深みにはまっていくんですけど、 改めてこういうアンケートとかで一般の方々に聞くと、やっぱり原点回帰で「有名な選手を見たい」とか「すごいプレーを見たい」とか、そういった気持ちがスタジアムに来る動機、源泉だったのでこういうCMになりました。
田中:濱本さんは、限りなくデータ分析やデジタルマーケティングの申し子みたいな方じゃないですか。
濱本:ある意味そうですね。
田中:そういう(デジタルを強みとして)Jリーグに出向されているわけなので、あらゆるデータ分析をした上で原点回帰、つまり「クリエイティブで見たいプレーを見せる」という結論になったことが面白いですよね。
濱本:分析して、分析して、ベタをやる(笑)。
田中:面白い。
ニューバランスがたどり着いた「ファンとの繋がり」
田中:今度は鈴木さんのお話を聞かせていただきたいと思います。同じ質問です。ニューバランスさんでは、この2年間でどんな課題があって、どういう対策・施策をしてどんな学びがあったのかっていうのをおうかがいしたいです。
鈴木:今日、濱本さんがいらっしゃっているので、サッカーに限定して話したいと思います。ニューバランスがスポンサーをしているのは、サガン鳥栖とFC東京がありますが、FC東京が2021年シーズン(発表は2020年12月)にスポンサーとしてスタートしました。コロナのまっただ中でスポンサーチェンジするっていう荒技をやりましたね。
当然その前から(スポンサードは)計画していましたので止められない、というかそれも踏まえて考えなくてはいけないので(スポンサーチェンジのイベントの)メイン施策でもいろいろ工夫しました。
ユニフォームの撮影もコロナで滞ってしまったりとかして進めづらかったですし、普通だったら、大きなスポンサーチェンジがある時っていうのは、リーグの最終戦で発表するのがパターンなのですが、そういうことも全然できず、何も用意できませんでしたので、初年度は新体制発表会を特別にスポンサードさせていただきました。
(新体制発表会は)通常であればクラブがやるイベントで、オフラインも含めてやるのに、完璧にオンライン。そして普通は固いメッセージから始まるのに、いきなりファッションショーから始めました。我々がスポンサードしたので、ちょっとインパクトを出したかったんです。そしたら、(ライブ配信している)YouTubeに「これFC東京の新体制表会なの?」ってコメントがついたぐらい驚かれて。オンラインだし、何かしらちょっと工夫してやろうという狙いがあったので(その反応は)よかったです。
スポンサーし始めてからは、当然ながら観客がそこまで戻ってこないので、なかなか(マーケティングやプロモーション施策を)やるのは難しい状況でした。
あるときは、スポンサーのマッチデーというその日のゲームを主催するというスポンサーシップで工夫を凝らしました。観客数が5000人未満の制限がかかっているということで、非常に数が少ないところでやんなきゃいけない。ここでもクラブのYouTubeチャンネルをお借りして、クラブ側とコラボレーションしたシューズを発売したりしました。元々のマーチャンダイジングとしては、確かにクラブとコラボレーションするっていうのは考えていたんですけれども、コロナの中ではなかなかうまくマーケティングができないのでクラブ側にも非常に協力していただきましたし、(コロナ禍の)2020年を経験していましたので、彼らもYouTubeとかオンラインのコミュニケーションにはすごく力を使っていて、そこを活用させていただいて、クラブと一緒に考えてやりました。
スポンサーシップ側からもちょっと工夫をしてやること自体は、クラブ側には感謝されて結果として非常にいいパートナーシップができたんですけども。でもやっぱりスタジアムにお客さんがいないっていうのは、すごく資産としては難しいんだなっていうのは改めて感じました。
今年やっと観客が戻ってきた時に、どういう活動をするかを学ばせていただきました。 そしてクラブ側の活動をすごくこまめに見る機会もあって、非常に工夫されてるなと思いました。
先ほどの濱本さんの表で言うと、ライトユーザーって大事なんですけど、とはいえ収入を支えてるのは、ずっと来ているコアのファン層です。FC東京さんも結構コアのファンがスタジアムに来れなくても、来てるような感覚を味わえるような工夫をしてたりとかしていました。
自分もこれを機会にファンクラブに入ってみたんですけど、ちゃんとコミュニケーションが取れたり、結構丁寧にやってるのを実感します。自分の子供はたまたまFC東京のスクールに通ってるんですけども、 配布物やキャプテンからの手書きのメッセージをファックスでもらうこともありました。ファックスなんですけどね(笑)。
そういう形でもコミュニケーションをとって、コロナの中でもファンとの繋がりを工夫してつくっていけるんだ、というのは大きい学びでした。
我々はブランド側なので、当然ながら商品を売るという目的もあるんですけれども、やはり何を大切にしているかというと、クラブとファンのつながりを通して、その関係をブランドに投影していただくようなエモーションのつながりをすごく意識しています。
新しいユニフォームのビジュアル作成の時に、ちょうど子供の日や母の日のタイミングだったので、バージョンをいくつか作って、その日に公開しました。チームとは家族だ、というコンセプトです。なので家のリビングルームみたいなセットと渋谷とかの街の背景とうまく組み合わせているんですけど、自分の家にいるような仲間意識みたいなものをファンとクラブがつなぐことで、それをサポートするのが、ブランド側というイメージでつくりました。
エモーションの部分は、逆にこういうコロナの(関係性が築きにくくなっている)時期になると、 すごくフォーカスされます。先ほどの濱本さんの動画もシンプルなアウトプットになりましたけど、結局つながりは何かっていうことを考えたからそういう方向性になるのかなと思いました。
田中:先ほどの動画もこのビジュアルも、すごくメッセージがシンプルっていうか、ストレートですよね。非常に。見る人がほんとに動きたくなる。アクションしたくなるというか。
僕も1度、FC東京の試合を見に行きました。ただ、久しぶりでスタジアムでどうふるまっていたのか全然思い出せないんですね。もちろん応援とかもしづらくなってるので、鳴り物だけ響いてる中で、ハーフタイムにビール飲んでいいんだっけとか考えたりしました。ハーフタイムに息子にユニフォームを買ったんですけど、買ったユニフォームの選手が交代しちゃう、なんてこともありました(笑)。
VUCA時代に大切なのは「未来への意思を共有する」こと
田中:やっぱりスタジアムに行ったりショップに行ったりするような、行動をかき立てるっていうところが非常にスポーツマーケティングには重要なんじゃないかなと思っています。
先ほどの話も踏まえると(スポーツマーケティングは)体験価値をつくってると思うんですよね。その体験価値は提供するだけではなくて、ユーザー、オーディエンス、あるいはファンやサポーターに動いてもらわなきゃいけない。それを制約条件の中で工夫をして、試行錯誤してやってらっしゃいました。すごく辛かったと思います。
でもその時におふたりはリーダーとして、 例えば部下の方とか、チーム、あるいはステークホルダーの方に対して、どういうふうに鼓舞したとか、(接し方を)心がけたことがありますでしょうか?
濱本:「体験価値」という言葉で思い出しました。Jリーグの中で、クラブの皆さん とマーケティング講座みたいなものを開いてて、月1ぐらいでお話をしてるなかでの話です。
やっぱりJリーグのクラブにとって提供できる体験の中で1番大きな価値というのが、 スタジアムでサッカーを見てもらうっていうことだったんですね。ただ、これがコロナによって制限されてしまったことで、それではどうするべきか。今まではスタジアム観戦っていうものを体験として考えてたんですけど、そうではなくてクラブというものをどう体験していただくか、という考えに変わりました。
なので、先ほどのニューバランスさんのかっこいいクリエイティブもそうなんですけれども、スタジアム観戦という体験の提供が難しい時に、Jリーグのクラブっていうものをどう日々の日常で体験してもらうか。こういったところを考えて、ファンとコミュニケーションをしていくべきじゃないかみたいなお話をしてました。
で、この時に大切なのはやっぱり、ミッションとか、ビジョンとか、パーパスとか、いわゆるそういうものですね。
私たちがそのどういった価値、どういったクラブ、どういったビジョンをファンやサポーターの方々に体験してほしいかっていう、強力な信念みたいなものをいかに 一緒にやるメンバーで共有できるか、もうここに尽きるかなと思ってます。
コロナの中でいろいろ準備したけど、できない。また準備したけど、できない。という繰り返しがJリーグにもいっぱいありましたし、クラブにもめちゃくちゃあって、一時期みんな心折れそうだったんですよ。感染が落ち着いたかなと思ったら、また増えて、 一旦落ち着いた時にスタジアムでやろうって言ってたものが、また第何波が来てやっぱりやめようということを繰り返していました。そんな心折れそうな時に、折れずになんとかやっていけたのは共通の強い信念みたいなものがあったからだと思います。
「私たちはファン・サポーターの方々にこの価値を提供するんだ」っていう信念を持ち続ける、共有し続けるっていうことをリーダーは関係者全員に対してやる必要があると思います。それも上から押し付けるとかではなく、共有できる関係を構築できることが、リーダーに求められることなのかなと、私は思いましたね。
鈴木:言いたいこととしては、多分すごくシンプルです。コロナみたいな状況になると、ロイヤルユーザーに集中しがちなんですよね。困った時には残ってくれた人たちばっかり見ちゃうんだけども、ライトな層も全体の成長のために必要でもある。そんな時、わざわざコアとライトを分けないで、もっと大きな目標はなんだっけっていう発想で考えたほうがいい。
サッカーを特定のファンだけじゃなくて、子供から大人まで、あるいは女性まで、みんな楽しめるようにするには、どうしたらいいかみたいな目標って、すごく大きいじゃないですか。でも、それが原点ですよね。 頭がいい人だと、こんな時はセグメントに分けてこの層を狙うという(局所的な施策に)なりがちです。でも、全体としてはそういうふうに(みんなが楽しめるように)考えた方が、施策が広がって、統一した形でできる。ま、それを今の言葉で言うと、パーパスという言葉になるんじゃないかなと。
田中:ありがとうございます。おふたりからは、目先のことだけにとらわれがちになるけれども少し先の未来を考えて、投資するという意思が感じられました。その未来を見通した意思を持つことと、それをしっかり共有するっていうことも大事だなと感じました。では、ちょうどお時間になりましたので、セッションを終了させていただきます。本日はどうもありがとうございました。