Web3が「サーキュラーエコノミー」を実装させる!【「Web3×Sustainability ピッチコンテスト」トークセッション】
インクルージョン・ジャパンが2022年9月6日に、日本・世界から募集したベンチャー企業によるピッチコンテストを開催しました。次世代型ウェブの技術、概念である「Web3」と、世界の共通目標である「サステナビリティ」。双方を組み合わせた新たな挑戦を応援することを目的に、選考と議論を行うコンテストです。
(参考URL:https://www.esgaccelerator.com/)
その中から、インクルージョン・ジャパンの村上氏をモデレーターに、有識者として登壇したインフォバーン代表取締役会長である小林弘人によるトークセッションの模様をお届けします。
※読みやすさを考慮し、発言の内容を編集しております。
2022年9月6日に開催された「Web3×Sustainability ピッチコンテスト」では、大賞受賞企業に事業奨励金100万円を贈呈するコンテストとともに、学びの場として「Web3」「サステナビリティ」双方に精通する方々によるレクチャーの時間が設けられました。
ブロックチェーン関連では、イスラエルブロックチェーン協会のアドバイザーや、大手企業や自治体向けにブロックチェーン事業の実装支援を行い、2020年には「グリーンシフト」を立ち上げ、行政・企業・市民の参加型で、サーキュラーエコノミーを含めた課題解決をするワークショップも行っています。
2020年2月には、『After GAFA――分散化する世界の未来地図』(KADOKAWA)を刊行し、同書の中でも「サーキュラーエコノミー」について論じています。(参考URL:https://www.kadokawa.co.jp/product/321904000130/)
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リサイクル発想とは根本的に異なる「サーキュラーエコノミー」
村上:世の中で、「サーキュラーエコノミー」という言葉をよく目にするようになりました。ひと昔前からある“3R(=リユース・リデュース・リサイクル)”という言葉と、今の「サーキュラーエコノミー」のとらえ方の違いについて、あるいは、ビジネスの場においてどのような変化が具体的に形として出てきているのか。実感しづらい部分もあるので、概念や推移、歴史的な背景について、お話をおうかがいできるでしょうか。
小林: 日本では、「サーキュラーエコノミー」が狭い範囲の認識で喧伝されているケースが散見されます。温室効果ガスの削減や、ゴミをゼロにする「ゼロウェイスト」、特に海洋ごみやプラスチックの話が中心になっています。
ですが、それは「サーキュラーエコノミー」の一部分でしかありません。「生物多様性」や「修理する権利」、また「奴隷労働廃止やサプライチェーンの情報開示」のほか、そのビジネスが倫理的か否かも重要です。経済成長をあきらめずに、いかに「環境負荷」「人権やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」への影響を切り離すかが問われています。
“3R”との違いについては、ダイアグラムをご覧いただきながら説明します。「サーキュラーエコノミー」は、イギリスのエレン・マッカーサーさんが設立した財団の考え方がベースにあります。下の図は、エレン・マッカーサー財団が発表している、「バタフライ・ダイアグラム」というものです。
(出典:The Butterfly Diagram: Visualising the Circular Economy )
[Using our content or research]
Copyright © Ellen MacArthur Foundation (2019), www.ellenmacarthurfoundation.org
このバタフライ・ダイアグラムの右側は、工業製品、人工物の循環を表しています。素材から製品、廃棄物まですべてを循環させて、循環できないような希少資源を使用する製品は、使いまわすなど、最近だとシェアリングエコノミーを活用してシェアしたりすることで、需要と供給を平準化させながら循環させています。
図の左側は農業の循環を表しています。現状では廃棄するようなものを、ゴミにせずに回収して再び生産に結びつけ、循環させます。
チョウチョのような形をしているので、「バタフライ・ダイアグラム」と言います。
それに対して、“3R” は製品を作って売って使用後は捨てるという、あくまで今に続く工業化時代の考え方の延長線上なのです。で、どれだけゴミを減らせるかを考えるものなので、サーキュラーエコノミーとは異なります。
つまり、サーキュラーエコノミーは製品が生まれるところから消費する方法、そして捨てる方法までのすべてを再デザインします。そのために素材開発や細菌によるプラスティックの分解などイノベーションの導入、製品の長寿命化、ビジネスモデルの変換、そして先述のシェアリングエコノミーをはじめICTの活用が前提となります。無駄をとにかく出さない、ゴミを出さない世界をどう確立するか、という考え方なので、根本的に”3R”とはまったく違うものなのです。
「新製品開発⇒販売」というビジネスモデルは過去のものに?
小林:今後、メーカーさんだったら“3R”ではなく、プロダクトがゴミとならないために、素材の選び方であったり、新しい素材の開発が必要になるといえます。
農業でいえば、コンポスト(生ゴミや紙などの有機物を、微生物の働きによって分解すること)によって、ゴミとなるものを分解して地球に還す。あるいは、発生するバイオガスをエネルギーに変えて、生産や暖房などに利用することも考えられます。地域で生じる余剰な間伐材や農業用水などをエネルギーに変え、地元で使用するという地産地消型の活用も行われています。
細かくいうと、いろんなアプローチがあり、イノベーションも起きていますが、要するに、自然界と同じように無駄をなくし、最終的に自然に返す、という考え方ですね。
EUで、2020年に新サーキュラーエコノミー行動計画が発表され、今後、業界別にこういうことをやっていきましょう、という推進や規制が盛り込まれています。その中で昨今話題になっているもののひとつに、「修理する権利」というものがあります。
たとえば、Apple の iPhone では、ユーザーがケースを分解したら Apple 公式のサポートを受けられなくなるという規約がありますが、これは「修理する権利」を阻害することになります。EUのみならず、アメリカのいくつかの州では、「修理する権利」の法制度化が議論・可決されています。これは大きな流れとして止まらないでしょう。
電化製品のゴミ(e-waste)はものすごく問題になっているので、ゴミを減らすために修理して、再び販売するセカンダリーマーケットがあります。アパレル業界も同じように、以前より廃棄される衣服が問題になっています。
これについては、フランスがいち早くファッション協定を発表しました。日本企業は1社しか関わっていませんが、アパレル産業のみならず、さまざまな業界がゴミを出さないようにしていこうと、循環経済法が策定され、売れ残った素材の廃棄を禁止しているんですね。回収してリサイクルすることができる製品には、「トリマン・マーク」というロゴをつけることが義務化されていて、消費者が商品を選ぶ際の目印になっています。
需要が確実に読めない大量生産・販売モデルでは、製品は売れ残るに決まっているので、「新しく製品を作って売る」というモデルはやめましょう、という考えですね。もうほとんどの製品は多くの人に行き渡っているし、安く手に入れることもできる。これ以上必要ないのに、企業はどんどん作っている。個人的な所見ですが、このビジネスモデルからの転換が必要だということが、サーキュラーエコノミーにおける一つの大きなビジネスイノベーションではないかと考えています。
そうは言ったって無理だよ、何をきれいごとを言っているんだよ、と言う人は、まだ少なくありません。ただ、欧州では罰則規定もありますし、それに準じないプロダクトは輸出できなくなる可能性もあります。加えて、それよりも次を見据えてテクノロジーの革新やビジネスモデルの再発明をやっている人たちが、次のキープレイヤーになってくる、という状況だと思います。
(出典:Ökoeffektivität – Wikipedia)
Creative Commons Attribution – Share Alike 4.0 (not transposed).
余談ですが、古くからある考え方として、 “Cradle to Cradle” があります。Cradleとはゆりかごのことで、「ゆりかごからゆりかごへ」という意味です。これは生産したものを再利用して循環させる考え方で、サーキュラーエコノミーはこの考え方をベースにしているので、とんでもなく新しい発想というわけではありません。
ただ、そこに現代のテクノロジーやICTによって可能になったやり方をマッシュアップして、実現していきましょう、というのが「今」ではないかと私は受け止めています。
テクノロジー×バイオの組み合わせで、サステナビリティを実現する
村上:世界中を見回して、サステナビリティやサーキュラーエコノミーに関して、目が離せない都市をおうかがいできますか。
小林: 有名な事例としてよく聞くのは、オランダのアムステルダムです。オランダはサスティナビリティ先進国で、アムステルダム市の目標や戦略もサーキュラーエコノミーを軸に編まれています。
アムステルダムでは、土壌汚染がひどい場所に、土壌汚染の改善が期待できる竹を植えるなどのバイオレメディエーション(微生物などの働きを活用して、汚染物質などを分解・浄化する技術)や、水耕栽培におけるアクアポニックス(水と溶液で植物を育てる栽培に、水産養殖を掛け合わせる農法)に加えて、ブロックチェーンによる電力供給といった、テクノロジーとを組み合わせた取り組みがあります。
ドイツやイギリスでは、昔から物を大切にする文化が根強くあって、特にドイツは筋金入りだと思います(笑)。だから、同じEUでも、地域ごとの出身者と話をすると、サーキュラーエコノミーについてのとらえ方は一枚岩ではないという印象も受けます。ドイツに見られる、家畜から発生したガスをバイオガスとして発電に使ってしまうとか、何一つ無駄にしない執念のようなものはすごいなと思います。
イタリアのミラノで生まれたベンチャー企業は、東京と同じように都市の気温がどんどん高くなっているヒートアイランド現象を解決するために、二酸化炭素を植物に吸収させるための公園開発を、都市開発の中に折り込むという取り組みをしています。そこでは地域住民も巻き込んで、単なる脱炭素や気候変動対策のみならず、市民主導でコミュニティを再設計するという人間中心の開発が議論されています。これもサーキュラーエコノミーの一翼だと思います。
GAFA主導の世界を「変えてやる!」という気概を持った次世代の熱量
村上:これまでもテクノロジーや、サーキュラーエコノミーのような新しい考え方が時代を変えてきました。これからのパラダイムを変えていく発想が生まれる背景には、どういったものがあるのでしょうか。
小林:一つの大きな議題として、「GAFA 問題」があります。英語圏ではGAFAに対して、問題視し、その是正に動いてきた向きがあります。
たとえば、サンフランシスコの公共の場には、 Google 社員だけが使える通勤用バスが、市民も使えるバス停に停まりますが、そこでそのバスに対する投石事件が起こりました。これはサンフランシスコのミッション地区などの場所に、Googleを筆頭とするハイテク企業の社員が住むようになり、地価が上がったことで、もともとの住民の反発を招いたことで起きました。
このような高給取りのIT系社員たちと旧住民たちによる「ジェントリフィケーション」問題は、ほかの地域でも問題になりました。ベルリンではクロイツベルク地域で、Googleが主導して開発しようとした「キャンパス」に対して建設反対運動が起き、話題になりました。
あるいは、 アメリカではGoogle がどれだけロビー活動に資金を投入したのか、大学の研究機関にお金をばら撒いたのか調査報道もされていて、その額は巨大に膨らんでいます。いわば、GAFAに利する政策に対して異議が唱えられてきたのもこのころです。
Facebook(現:Meta) が個人情報を流出し、悪用されたとされる「Cambridge Analytica 事件(選挙コンサルティング会社であるCambridge Analyticaが、アメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプの支援などで、Facebookユーザーの個人情報を不正利用したとされるスキャンダル。GDPRが施行される時代の流れのうえで、世界中のプライバシー保護意識を高める影響を及ぼした)」など、日本ではあまり報道されていませんが、GAFA問題への注目はすごく大きくなってきています。
そうしたコンテキストから見ると、僕らは中央集権型の上でバラ色な未来を考えていたけれど、実はそうではなかったよね、という感覚への認識は共有されているのではないでしょうか。
事実、2018年にアメリカのテキサス州で開かれた、テクノロジー最大の祭典でもあるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)では、GAFA解体を公約するエリザベス・ウォーレン上院議員がスピーチをしましたし、「われわれのインターネットはなにを誤ったのか?」や「テクノロジーと信頼」というキーワードで多くの内省的なセッションが開催されていました。
それと、ミレニアル世代の人たちは、現状の社会で満ち足りているので、次の課題として貧困国や弱者をどうやってインクルージョンしていくかに関心が移ってきていると思います。ですので、先ほど挙げたエリザベス・ウォーレンや、バーニー・サンダース、英国ではジェレミー・コービンなどの人気をミレニアルが支えているという指摘もあります。
テクノロジー的にも、ベルリンで出会ったWeb3の若い開発者たちには、「GAFA 主導の世界を変えたい」という思いが強い人も少なくありません。
ベルリン、香港、スイスのツーク、シンガポール、ニューヨークでさまざまなWeb3関係者に会いましたが、大きくは二派に分かれていて、一つはニューヨークで開催されるイベント「Consensus(ブロックチェーンや仮想通貨を専門とするメディア企業、CoinDeskが主催するブロックチェーン・カンファレンス。金融業界や起業家、投資家への影響力を持つ)」に参加するような、時代の変化への感度が高く、お金の匂いがする場所に必ずいるタイプの人たち。
もう一つは、純粋に変革への思いが熱い人たちです。2018年にベルリンで開催された第一回の「Web3 Summit」に僕も出席したんですが、主催者のギャビン・ウッド(ブロックチェーン・プラットフォームEthereumの共同創設者で元最高技術責任者。Web3.0の提唱者としても知られる)の話を聞いているときに、 Macbook で Terminal を開いてプログラミングコードを書いているエンジニアたちがいたんですね。周りを見ると彼の発言をメモしているのは、僕だけだったんです(笑)。
そういうエンジニアたちと話をすると、本気で「変えてやる」 という強い意志を感じます。実際にそうした人たちは、ベルリンのクロイツベルクとか、ノイケルンという場所には多いですね。ベルリンには、昔から「カオス・コンピュータ・クラブ(世界最大規模のハッカー集団、通称CCC)」のように、反権力主義的なハッカーたちが集まる場所が多くて、それが一つの底流をつくっているのかもしれません。
お金の匂いに誘われて集まることも、全然否定しませんが、とにかくGAFAが占有する世界では、GAFAに行くか、それらに買収されることを目指すかしかないというなかで、別のテクノロジーによって新たな時代をつくることができるんだ、という興奮のようなものは感じました。
打倒「資本主義」の挑戦が、ミレニアル世代を惹きつけている
村上:そうした動きが、ミレニアル世代を惹きつけているのは、なぜでしょうか。
小林:ゲームチェンジできるチャンスだと思うんですよね。資本主義が強欲に行きつくだけ行きついてしまったので、そこをブレイクスルーしたいという思いがあるんじゃないかと、いまの起業家たちの多くと話していて感じます。サーキュラーエコノミーの流れについても、基本的には同じことを感じています。
なかにはミレニアル世代だけではなく、古参のベテランたちも、「やっと、時代が追いついた!」と復活し始めています。そして、それらが出会うことは必然ともいえます。
たとえば、ベルリン芸術大学でTerra0というプロジェクトがありまして、そのホワイトペーパーに書かれているのですが、テクノロジーを使って森林の成長や年齢といった状態を計測して数値化し、その伐採ライセンスをNFTで売買することで、森林を単なる人間の所有物ではなく、独自の経済単位として機能させようと活動しています。(参考URL:https://terra0.org/)
自然資本会計という考え方がありますが、彼らはそれを実践しているんです。森林や水のような自然資源の価値を、経済的な資本と同じようにとらえる考え方で、たとえば、企業が採掘した石油というのは、地球に対して借りているとも考えられます。それは、一般的なビジネス上のバランスシートに書かれることはありませんが、自然資本会計として見ると、その損益バランスは完全に破綻していることになりますよね。
この自然資本会計の流れで面白いのは、森とか湖とかを人格化してしまう、という潮流です。2017年にはニュージーランドで、先住民のマオリが神聖視し大切にしてきたワンヌガイ川に、法的な人格を認め、地域のコミュニティがその代理人となる、と法律で認められることが実際にありました。
Terra0はそれをWeb3でやってしまおうというプロジェクトですけど、こういう若い人が出てきているのは、すごく面白いですよね。
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まだまだ“絵空事”としてとらえる向きもある「サステナビリティ」を意識した取り組みですが、「Web3」の世界が到来したことで、現実のいたるところでイノベーションをもたらしています。小林弘人は、新たなソーシャル・イノベーションを起こそうと、意欲を持ってピッチコンテストに参加したベンチャー企業のアイデアを称賛するとともに、「楽しみにしています!」とエールを送り、セッションを締めくくりました。