【海外事例】注目を集める、企業と障がい者のポジティブな関係
「障害者雇用促進法」のある日本企業にとって、障がい者支援は、雇用だけの議論に終始しがちです。しかし障がい者支援にはもっと幅広いさまざまな取り組みがあり、それにまつわる広告や情報発信を模索している事例が海外には多数存在します。デリケートな話題だからこそ、内容には注意しつつ、上手にアピールできればそれだけで差がつく分野でもあります。今回は障がい者と企業がうまく手を組んでコミュニケーションを成立させた、海外の事例をご紹介いたします。
障がい者の特徴も多様性のひとつ。広告モデルとして起用する| River Island
イギリスのストリート系ファッションブランドの「River Island」が2018年に発表した「Labels Are For Clothes」は、多様性の表現においてファッション誌やユーザーに称賛されたキャンペーンです。
このキャンペーンではさまざまな人種、体型、能力、年齢、サイズを持つモデルたちが登場。障がい者も、例外ではない個性を持った人々として参加しています。彼らの豊かで魅力的なキャラクターを強調するように、エンパワーメントするようなタグラインがつけられました。
ダウン症のキャスリーンは「100%Style Queen(100%スタイルクイーン)」というフレーズで広告に登場。
(※彼女には「Queen Kathleen」というあだ名があります)
サウジアラビアで生まれ、インドや中国にも住んだことがありフランス語を含めた4カ国もの言語を話すことができる彼女は、2017年にダウン症の生活について国連でスピーチしたこともあるユニークな経歴です(インタビューはこちら。)。パフォーミングを学んでいる彼女の個性をファッションとともに引き出した動画は、多くの人の目を引き付けました。
ほかにも動画では、車椅子バスケットのプロ選手だったJordanが、軽快に車椅子でのアクションを披露しています。
River Islandは、キャンペーン開始とともにTwitterで「ステレオタイプを拒否し、自己表現を擁護する人々への賛辞」と訴えました。集まったコメントは非常に好意的でブランドへの評価も上がりました。
そのビジュアル性の高さとアイデアの素晴らしさに、複数のファッション雑誌やメディアでの称賛も集まりました。その理由は、さまざまな人種や体型のモデルを起用したのと同様、それぞれの障がいを個性をポジティブに捉え直したからこそ魅力的に表現することができたからではないでしょうか。
開発からCMに至るまで、障がい者を巻き込んでいく| Microsoft
アメリカ最大のスポーツイベントといわれるSuper Bowl。その時だけに豪華なCMが作られ話題になることは日本でも有名な事実ですが、2018年と2019年に大手IT企業「Microsoft」がこのときのために放映した「We All Win」というCMは、豪華さや面白さという点から言うと一線を画すものでした。
ピックアップされた商品はXbox Adaptiv eController(ゲーム用コントローラー)。2018年には、9歳のオーウェンが、実在の親友であるグンナーを含むすべての友人のサポートと、Xbox Adaptiv eControllerの助けを借りて、ゲームでトップになったという心温まるストーリーが描かれています。エスコバル症候群により機動性が制限されているオーウェンですが、ゲームへの情熱が失われることはありません。オーウェンの勝利を子どもたちが一緒に喜ぶ瞬間は、どんな人にも機会を与えるアクセシブルなテクノロジーを作成するというマイクロソフトの使命を表現していました。
また翌年2019年には、オーウェンだけでない障がいをもった子どもたちが、どのようにこのコントローラーでゲームを楽しんでいるかのドキュメンタリーCMも放映されました。
そもそもこの商品の開発と設計には、障がい者コミュニティが深く関わっているという背景があります。ゲームを通して障がい者の人生が楽しくなることを目指す「AbleGamers Foundation」と密に協業し、数年かけて開発にこぎつけたという事実からこのCMが制作されました。
その結果、このキャンペーンは2年にわたりTime の 2018 年の最優秀イノベーション賞や2019年カンヌライオンズフェスティバルのブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門でグランプリなどを受賞しました。また「最も効果的な」広告として、最高の UnrulyEQ スコア 7.5 を達成。ブランドの好意度は246%増加したとされています。
この一連の「We All Win」キャンペーンでは、障がい者をサポートが必要な者、つまり社会的弱者として扱うのではなく、ゲームを楽しむ人、さらに言えばゲームが強い強者とでも言えるような立場で描いている点が非常に新しい広告です。また、製品自体の開発を障がい者と一緒に行い、開発からマーケティングにおけるまで「障がい者が主役」であるという扱い方は、表面的なマーケティングを超えており、Microsoftがいかにインクルーシブを考えているのかが真に伝わってきます。
障がい者の従業員にフォーカスして壁を取り払う| Low’s
「Lowe’s」は社会活動やダイバーシティ推進に積極的なアメリカのホームセンターです。2021年には上記のTwitter投稿にあるように「障害者平等指数(Disability Equality Index)で 100% の最高得点を獲得」するほど力を入れています。ダイバーシティとインクルージョンという側面で従業員を教育するその取り組みのひとつが、従業員へのインタビューです。
「I’M DISABLED. ASK ME ANYTHING.(私は障がい者です、なんでも聞いてください)」というタイトルではじまるこの記事は、それほど長くはないものの非常に示唆に富んだ内容です。
このインタビューを受けたマイケル・ソコロは、2015年にオートバイ事故に遭い、背中を骨折して脊髄を損傷し、胸から下が麻痺しました。それにより、車椅子生活を余儀なくされています。
彼は障がいをもっている自身に対して健常者の人々が「質問をしてはいけない」と遠慮することで距離ができてしまうといいます。そのことでお互い理解し合えないという考えから、自分のことをさらけ出しています。
どのように車を運転するのか、また歩くことができるのか、自立しているのか、などの質問を通じて「車椅子の人はあなたとまったく同じで、同じように自分の能力を最大限に発揮して人生を送っていること、できるだけ自立して幸せに人生を送っているが、時々助けが必要なこと」を話しました。
このように、非常に個人的な事情を会社のWebサイトで公開することは珍しいことです。しかしその人の人柄が伝わってくるため、読む方も感情移入がしやすく、社外だけでなく社内からも注目を集めることが想像され、非常に上手なコミュニケーションということができるでしょう。このような活動を通じて、会社の姿勢や風通しの良さ、従業員の顔が可視化されることでユーザにも安心感や信頼性が伝わるのではないでしょうか。
障がい者と企業のポジティブな関係は、もっと公開されるべき
障がい者への支援といっても実はさまざまなジャンルが存在します。障がい者団体への支援、障がい者採用の社員の紹介、障がい者を含んだユニバーサルデザインなど…。重要なのは障がい者の本音や望んでいるライフスタイルを引き出しながらも、きちんとビジネスに寄与できるシステムになっているかということでしょう。
いままであまり表に出ることがなかった分、障がい者を題材にしたコミュニケーションはインパクトが強くなり炎上もしやすいことが懸念です。そのため確かなエビデンスを基にしたストーリーづくりが重要となってくるでしょう。インフォバーンでは、丁寧なリサーチやインタビューを土台としてストーリーを組み立て、クリエイティブ制作に落とし込んでまいります。ぜひお気軽にご相談ください。
Illustration by Getty Images