【海外事例】多様化するアニュアルレポート(統合報告書)事例3つ
日本では上場企業を中心に、財務情報と非財務情報を盛り込んだアニュアルレポート(または統合報告書)と呼ばれるものが多く作成されていますが、海外では、そのさらに先の事業のサステナブル活動に特化したサステナブルレポートを発行する会社が多くなっています。その変化を見ると、アニュアルレポートとCSRレポートを一緒にしたもの、会社案内に近いもの、冊子ではなくWebサイトになっていたりと非常に多様な形が生まれつつあります。企業のスタンスが理解できる海外の事例を3つ見てみましょう。
雑誌のように魅せる、一般ユーザー向けのサステナブルレポートサイト | MVO Nederland
「MVO Nederland」はオランダの起業家支援プラットフォームです。この起業家ネットワークを活かし、SDGsを達成するという大きな目標を掲げて国際的なサステナブルビジネスについて説明する専用Webサイトを開設しています。
投資家やステークホルダー向けに用意したサステナブルレポートというよりも、一般人向けのPRやマーケティング要素が強いものであることが特色です。
コンテンツで取り扱われているテーマも
- コーヒー農園やコーヒービジネスにまつわる、サプライチェーンおよびフェアトレードの取り組み
- プラスチックごみの削減に関する現在の取り組み
- 環境に優しい皮革産業のバリューチェーンへの取り込み
など身近に感じられるものが多く取り上げられています。
また、数字やグラフを使って詳細を説明するのではなく画像や動画を多用し短いコピーで情報を整理しており、雑誌の記事のように読みやすく、飽きさせずに多くの人に読んでもらえるレポートに作り込まれています。
しかし、彼らとて最初からこのような取り組みを行っていたのではありません。2008年から発行されているアニュアルレポートを紐解いていくと、当初は文字や数字の並ぶ堅いものであったことがうかがえます。複数年の試行錯誤の末に、現在のようなWebサイト上でのクリエイティブにたどり着いたよう。魅力的なコンテンツとして参考にしやすい事例です。
環境問題だけでなく社会課題の解決も視野にいれる | General Mills
企業によっては、グローバルレスポンシビリティレポートとして、環境問題だけではなく、幅広い社会課題を含めてまとめるケースもあります。サステナブルレポートとの違いは、環境だけではなく、食糧危機の問題、人権や雇用の問題、男女や地域の不平等、地域コミュニティの問題など、幅広い社会問題を扱っている点です。
つまり、アニュアルレポートとサステナブルレポート、CSRレポートを統合したものが、このグローバルレスポンシリビティレポートと言えるでしょう。
総合食品メーカー「General Mills」のグローバルレスポンシビリティレポートでは、企業のパーパスや実際の数字での業績を踏まえたその年の達成のハイライトを明示しています。
2022年版はWebサイトをビジュアライズしつつ、PDF内では具体的にGeneral Millsの商品と組み合わせて開設しています。消費者の高まるサステナブル意識に答えようと、70ページ以上に渡ってじっくりと説明しています。
このように表やグラフなどを多用し、ステークホルダー向けのアニュアルレポートとしての機能を十分に果たしながら、視野の広いグローバルレスポンシリビティレポートとしてまとめることで、企業のサステナブル経営に対する覚悟と実行力が伝わるものになっています。
多様な活用シーンに合わせて情報設計 | Xylem
「Xylem」は水に関連する計測・分析技術・を提供する会社であり、環境への影響を最小限にするために努力をしている企業です。
社内には、サステナビリティパフォーマンス管理するマネージャー職を設置。世界的な水管理の最適化、水質汚染の防止、埋立地への廃棄物の削減に取り組んでおり、それによって水使用量の16%削減と温室効果ガス排出量の18%削減が達成されました。
また、Xylemは、公正で世界を変えるトップ企業として、2022 Global Water Awardsにおいて「Net Zero Carbon Champion」をを受賞しました。2020年から2025 年までに水関連ビジネスのCO2排出量を280 万トン以上削減するという目標に対し、すでに2年間で100万トン削減。
また、2021 年にもフランスのパリにあるオルリーの飲料水処理プラントを近代化する取り組みに対して、「Water Project of the Year」を受賞しました。
これら成果の見える活動の素晴らしさはもちろんのことですが、2021年のPDF版のサステナビリティレポートは、100ページ以上に渡るかなりのボリューム。それと同時にWebサイトでは動画や記事を使いながら、端的にXylemのサステナブル事業が理解できるように表現を分けるという工夫もされています。
サステナビリティレポートの情報を元に、営業ツールやPRツールとして使えるよう、情報設計を行っているそうです。これは、同じ情報ソースでもアウトプットの仕方を変えることで、十分対応ができるという良い例となるでしょう。
自社の「価値創造ストーリー」の伝え方で、アウトプットは変わる
効果的なアニュアルレポートやサステナブルレポートを作るには何が必要なのでしょうか。それは「自社ならではの価値創造ストーリーを展開すること」。情報発信するプラットフォームがオフライン・オンラインのハイブリッドとなっている現在、魅力的な価値創造ストーリーをそれぞれのユーザーの期待や行動特性に合わせてコンテンツ化していくことが必要とされています。中長期的なコミュニケーション・プランニングも含めて、ぜひお気軽にご相談ください。
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