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水産ビジネスは世界的な成長産業! 知られざる漁業の課題と可能性【小西圭介対談1/3】

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2023年4月7日に、株式会社ニュースケイプ代表の小西圭介(こにし・けいすけ)さんをお招きして、弊社代表取締役会長(CVO)・小林弘人との対談を実施いたしました。

20年以上にわたって株式会社電通で働かれ、ブランディングの第一人者として知られる小西さんは、2020年に独立してニュースケイプを創業されました。また2022年11月には、一般社団法人漁業ブも立ち上げられています。

日本の漁業が、乱獲による資源枯渇と漁獲量減少、海洋温暖化による生態系変化、漁業従事者の高齢化と人材不足など、さまざまな課題に直面するなかで、小西さんは「水産業は世界的な成長産業」「漁業は実はブルーオーシャンになっている」と語り、ブランディングの力によって日本の漁業を持続可能な産業にするべく活動されています。

小西さんは、なぜ漁業を支援したいと考えられたのか。そこにどのようにブランディングが絡むのか。小林が話をうかがいました(第1回/全3回、第2回はこちら、第3回はこちら)。

※読みやすさを考慮し、発言の内容を編集しております。

「漁業ブ」を立ち上げたブランド・アクティビスト

小林:株式会社ニュースケイプの代表取締役・小西圭介さんをお迎えしております。小西さんは、もともと電通にいらっしゃって、ずっと企業のブランディングに取り組まれてきた方です。私はそのころからの知り合いなのですが、小西さんは最近、新たな非常に面白い活動を展開されているので、ぜひ今日はそのあたりをおうかがいしたいと思っております。

小西:はい、小西圭介と申します。3年前まで株式会社電通で、ずっとブランディングのサービスを専門にやっておりまして、私の師匠にデービッド・アーカーというブランド戦略の権威がいるのですが、直弟子としてそこの会社で働いていた時期もございます。

2020年に独立をして、「株式会社ニュースケイプ」というものを立ち上げました。私自身は今、ブランドアクティビストというふうに自分の肩書きをつけまして、これからは世の中のいろんな課題解決というところで、ブランドというのが主導的な役割を果たしていけるような支援をしていこうと思って、会社を立ち上げた次第です。

小林:アクティビストという自ら実践して活動していく言葉と、ブランドとを結び付けた、小西さんの造語ですよね。

小西:他にも同じように名乗られている方もいらっしゃるかもしれませんが、そうですね。私自身、せっかく独立したので、自分が今までやってきたブランディングのスキルを、未来に続くような仕事につなげられないかと思ったんです。
今まで私は、ブランディングやマーケティングの専門家として仕事をしてきましたが、それは結局手段でしかないなということに気がつきまして、もっと「目的ベース」で仕事をしてみたいと思ったんですね。

それで立ち上げたのが、「一般社団法人漁業ブ」です。「漁業ブ」の「ブ」は「ブランディング」の「ブ」で、ここだけカタカナにしています。「日本の漁業をブランディングで救え。」というパーパスで、活動をブ活と呼びながら、目的ベースによるブランディングで生産者を支援して、漁業の高付加価値化や持続可能性を高めるような取り組みをさせていただいています。

△小西圭介氏より提供

現在非常に危機的な状況にある日本の漁業に対して、実はいろいろ異業種の知恵をもっと生かせるんじゃないかと思いまして、私一人ではなく、食メディア編集長、フードコーディネーター、飲食店の広報担当者など、魚というつながりにおける各分野のプロフェッショナルなメンバーと一緒に、チームを組んで取り組んでいます。

課題山積の漁業は、実は世界的な‟成長産業”

小林:その危機的な状況というのは、具体的にどういう背景が?

小西:水産業の関係者にとっては当たり前の情報なんですが、一般の方には意外と知られていないことが、漁業には非常に多いんですよ。日本の漁業というのはずっと衰退産業で、90年代をピークに生産量も半減しているような状況です。生産者も、もともと30~40万人いたところから今は15万人ぐらいまで減っていて、しかも平均年齢が60代半ばぐらいまで上がっています。

小林:すごく高齢化していますね。

小西:はい。そのうち後継者がいる方は2割くらいで、2030年ごろにはさらに半分になるかもしれません。それと、魚種についても日本の場合、半分ぐらいが絶滅の懸念がある状況になっている現実もあります。

ただ、漁業が衰退産業であるというのは、実は日本だけの問題で、世界的にはものすごい成長産業になっているんです。世界の漁業・養殖業の生産量を見ると、需要が急速に伸びていて、それに応じて供給も非常に増えてきている。世界的にみた産業としての漁業は、どんどん魚食ニーズが増えているなかで、市場規模や成長性も非常に大きくなっている状況なんです。

小林:世界中で魚を食べ始めたんですね。

小西:そうです。とはいえ、実は伸びているのはほぼ養殖で、世界の漁業の成長市場は養殖にあると言っても過言ではありません。逆に、天然のほうは資源管理が非常に難しくなっていて、生産量を増やせない状況にあります。

小林:コストとしても、やはり天然のほうが高くなりますよね。

小西:状況次第ですけど、養殖のほうが安定的な供給ができて、一般に市場価格や生産者側のコストも安いですね。それならば単純に養殖をどんどん増やせばいい、となりそうですが、別の問題もあります。餌として天然の魚ベースの魚粉や稚魚を使っていることが多くて、実は養殖が増えることで天然のものがどんどん減っていくという構造的な問題もあるんです。この点は今、餌のタンパク源の代替飼料の開発なども進められていますが。

小林:COP15をはじめ、全世界的に生物多様性を今後どうしていくかは中心的なテーマになっていますよね。資源をどう扱っていくかという課題に対して、昔ほど潤沢に獲れない状況がある。気候変動もありますし、エネルギー危機によってコストも高騰してると思います。特に漁業においては、その点はどうなんでしょうか。

小西:日本の漁に関してほとんど一般の方には知られてないこととして、70年ぶりの漁業法改正があったんです。これは、漁業にとっては憲法改正のような大きな変化で、2018年に決まって2020年に施行されているんですが、初めて持続可能な漁業を中心的なテーマにして、データに基づく資源管理というものをしていこうという主旨です。

漁業はずっと新規参入が非常に難しい業界だったんですが、人口減少でこのままでは難しいということで、実態はともかく法律上は、漁業権の取得もしやすくなりました。資源管理としては、今までは漁協単位でやっていた漁獲量管理を、個船単位の割り当てに変更されました。要するに、一人一人の業者、漁船ごとに漁獲量の割り当てをして、きちんと一定の量以上獲らないようにするという方針です。
ただし運用は現場任せで、データをどう取るか、データ管理をきちんとできるのか、という課題もあるのですが、大きな制度改正によって、持続可能な漁業をしていくという方向には進んでいますね。

もう一つ、経済的な持続可能性として、漁業従事者の利益率の低さという課題もあります。農業の場合は、青果物の売上の半分ぐらいの利益を生産者は受け取れているんですが、水産物の場合は、生産者の取り分が非常に少ないんですね。

△平成29年度 農水省「食品流通段階別価格形成調査」より

要因としては、流通工程が複雑であることもありますし、量販店や加工業者といった川下の価格コントロール力が強いということもありまして、本来もっとも価値を生み出しているはずの生産者があまり儲からない状況になっているんです。

生物多様性の話に戻すと、もともと日本の近海は非常に魚種多様性が豊かで、たとえば日本海は世界的にもホットスポットと言われるくらい、魚種の多いエリアなんです。実に3000種類近くの魚介類が獲れるそうなんですが、その魚種多様性が非常に減ってきている状況があります。
これは陸上動物の世界もそうで、今や世界の哺乳類のうち、3.5割が人間で、6割が家畜、天然の哺乳類はわずか4%しかいないという状況になっています。同様に養殖ばかりが増えると、どうしても魚種多様性が減っていくことになる。

小林:養殖だと消費されやすい魚種しか生産されないので、多様性という意味では、増えることはないわけですね。

小西:そうです。水産消費の多様性を継続的に追っている研究者の方がいるんですが、実際に種類がどんどん減っていることを発表しています。ひょっとしたら10年後、20年後のお寿司のパックは、冗談ではなくサーモンとブリだけになっているかもしれないわけです。

漁業ブランディングの鍵は「流通」が握る

小林:そうした背景があるうえで、そこにブランディングを武器にして活性化させるというと、具体的にはどうつなげていらっしゃるんでしょうか。

小西:ブランディングという観点で見たときに、先ほどの魚価、生産者の取り分が少ないという問題は大きいですね。ここに付加価値をつけていく。

それと養殖は成長市場であるものの、日本の場合は養殖の価値がまだ評価されていませんし、生産者のさまざまな取り組みが、消費者のところまで伝わっていないんです。そこを漁業ブの活動のなかで、生産者やシェフのような作り手と消費者をつなげて、新しい価値を生み出していこうとしています。そこでは、テクノロジー、デザイン、マーケティングといった異業種の知見によって、産業の付加価値化を支援していけるんじゃないかと考えています。

それから、消費者の中で食べているときに、持続可能性であるとか、資源保護であるとか、あるいは養殖の価値みたいなことを実感する機会がないので、そういう世の中の意識、新しい情報を発信しながら、新しい養殖のブランド化も含めて、価値を高めていく取り組みというのを行っております。

小林:なるほど。強いブランドをつくらないとマーケティング施策の設計がなかなか難しいように、ブランドアクティビストの「アクティビスト」たるために、どういうブランドかという認知を獲得していって、付加価値を高めていくことに取り組まれてるということですね。

小西:そうです。漁業ブの活動領域としては、実際のブランド開発やメディアの発信を通じて、生産者と消費者をつないでいくこと。食のイベントなどで、体験価値というのを生み出していくこと。それから、直接流通の支援、販路開拓。大きくはこういった活動を今、始めているところです。

私は今まで大企業のブランディングばかりやっていたんですけど、実際に漁業のブランディングに取り組み始めたことで、まったくそのやり方が通用しないことがわかってきました。まず価値を伝えていく鍵、切り札が、流通にあるということがすぐわかってきたんですね。
みなさん普段、魚はスーパーで買われるじゃないですか。そこには産地と、天然か養殖かくらいしか書いていない。要するに魚は、工業製品のような形で、パッケージ化された部品として売られているんですよ。

小林:せいぜいどこで獲れたかくらいしか、多くの人は気にしないですね。

小西:そのことで、生産者にいつも同じ一定量を要求して、安く出せという工業製品みたいな流通システムになってしまっているし、水産物が匿名の商品になってしまっている。これではブランディングしようがないというのが、正直あります。

これはフードロスの観点からしても、食品流通では、売れる魚の売れる部位を取り出して、いわばパーツ化して供給しているので、そこから外れた魚種や部位は無駄なものとして大量に捨てられている。漁協の水産物の流通における3割以上、下手すると4割くらいが、獲ったものが使われずにフードロスになっているという報告もあります。

スーパーは非常に便利で、大量に安定的に安く、食卓に食品を供給するという役割を果たしているのは間違いないのですが、逆に魚について興味を持たない世代を生み出してもいる。魚種がわからないどころか、自分が普段食べている魚の実像がわからないという人ばかりになってしまった。

小林:魚は稚魚から成長するまでに名前が変わっていたり、それがまた関東と関西で呼び方が違っていたり、知ると面白いですよね。だから、魚博士みたいな人もいるんですけど……。

小西:さかなクンのようにいますよね。本当に面白いですよ。

△対談中の様子

小林:ただ一般人にとっては、詳しい人がそばにいてくれないと、なかなかわからないところがあったりもします。僕も、地方でハッカソンをやったときに、漁業の方たちの課題として、フードロスの話は出ました。やっぱり売れる魚以外も獲れるらしいんですよ。食べたらおいしい魚もたくさんいるそうなんですが、それも全部捨てているらしいんですよ。それを何とかしたいということで、アイデアソンをやったことがあります。

小西:流通面でも、ある一定以上の量を獲れないような魚種は、コンテナに入らないから流通しなかったりするんですよ。せいぜい地元で消費されるくらいで、多くは捨てられてしまう。

未利用魚の問題に関しては、たとえば「Fishlle!(フィシュル)」という福岡の会社が、未利用魚のサブスクリプション・サービスを始めたりと、いくつか取り組みは始まっています。

小林:これまでの大量消費のリテールの流れじゃなくて、たとえば北陸新幹線が開通したことによって、朝獲れた魚をそのまま東京のレストランにそのまま卸してしまうような、新しい取次のベンチャーも出てきたりしていますね。

小西:そこで今成功しているのは、「フーディソン」さんですね。「sakana bacca(サカナバッカ)」って魚屋さんが、最近駅の近くにできているのをご存知ですか。これが実はすごいスタートアップで、去年上場したんですけども、その経営陣は介護や医療プラットフォームのサービスを提供している一部上場企業の「エス・エム・エス」の創業メンバーなんです。要は介護や医療のプラットフォーム事業で培ったノウハウを活かして、魚や生鮮加工のプラットフォームをつくってやっているんです。

2000種以上の魚のデータベース・カタログをつくって、直接漁港から仕入れをして、それを小売なり、BtoBで売るという事業です。まさに競合がいないブルーオーシャンになっています。

小林:魚のサブスクを使ったら、魚種も覚えられそうですね。

小西:その点でも、先ほどの「Fishlle!」さんは意欲的に取り組まれていて、私も契約していて毎月知らない魚が届くんですが、ものすごく熱量の高い魚の解説や魚料理のこだわり情報も一緒に届くんです。

小林:それは重要ですね。卸された状態で届くんですか? 卸すのは自分で?

小西:加工済みのもので、家庭ですぐに食卓に出せるようにしてますね。

小林:僕の家の周りには、スーパーがないんですよ。それで魚がすぐに手に入らないんですが、そのせいか毎週、車で売りに来る人がいるんですよ。リヤカーで若い人が売りに来ていて、シャンパンとかワインとかも売っているんです。それを見て、僕は行商2.0じゃないですけど、すごく新しい流通が生まれているなと感じたんですよね。

小西:ちょっと脱線しちゃいますけど、魚とお酒というのは非常に相性が良くて、漁師さんに聞くと、どんなお酒でも船に乗せて1ヶ月ぐらい揺らしておくと、非常にまろやかで美味しくなるらしいんですよ(笑)。

小林:ええ、そうなんですか(笑)。

小西:昔はだから、そういう北前船とかで酒と魚を運んでいたりとか。漁師の知恵みたいなものがあるらしいです。

小林:面白いですね。獲れたものだけじゃなく、他の物産とのマリアージュで売っていくという。

小西:東北だと、南三陸ワイナリーのように、養殖のカゴにワインを入れて、海中ワインみたいな形で生産されているところがあります。それも同じ仕組みですね。

第2回につづく

ブランディングで漁業にイノベーションを! 地方に広がるブルーオーシャン【小西圭介対談2/3】
真の「パーパス経営」とは何か? ガバナンス目的を超えた意義【小西圭介対談3/3】

小西圭介(こにし・けいすけ)
株式会社ニュースケイプ 代表取締役
東京大学教養学部卒業後、1993年に株式会社電通に入社。20年以上にわたって同社のブランディング・サービスをリードし、業界リーダー企業から、D2C・スタートアップなど100社を超えるクライアント、地域や自治体との取り組みでビジネス成長を加速するブランドづくりの経験を積む。
デービッド・A・アーカー(UC Berkeley Haas School名誉教授)が副会長を務める米国プロフェット社(SF)に出向した際には、数多くのグローバルブランド企業の戦略コンサルティングに従事。日本唯一の直弟子として、同氏とともに日本企業に経営戦略課題としての「ブランド」を浸透させてきた。
近年はブランド・アクティビストとして、ビジネスが環境や地域・人やコミュニティの社会変化の主導的な役割を果たす、新しい共創型のブランド戦略モデルを提唱・実践している。著書に『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)などがある。

小林弘人(こばやし・ひろと)
株式会社インフォバーン代表取締役会長(CVO)
1965年長野県生まれ。『WIRED(日本版)』を1994年に創刊し、編集長を務める。1998年より企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業。「ギズモード・ジャパン」など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊するとともに、コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として活動。
2012年より、日本におけるオープン・イノベーションの啓蒙を行い、現在は企業や自治体のDXやイノベーション推進支援を行う。2016年には、ベルリンのテック・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」の日本公式パートナーとなり、企業内起業家をネットワークし、ベルリンの視察プログラムを企画、実施している。
著書に『AFTER GAFA 分散化する世界の未来地図』(KADOKAWA)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)など多数。

※株式会社ライトパブリシティ社長・杉山恒太郎さんとの対談記事はこちら
※一般社団法人みつめる旅代表理事・鈴木円香さんとの対談記事はこちら

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。