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「‟自由”を楽しむ強さ」を持とう!「マイパブリック」で表れる個性【田中元子対談3/3】

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2023年5月8日に、株式会社グランドレベル代表の田中元子(たなか・もとこ)さんをお招きして、弊社代表取締役会長(CVO)・小林弘人との対談を実施いたしました。

「私的」な力でつくりあげる「公的」な施設やコミュニティ。田中さんが「マイパブリック」という言葉で表現される活動は、自らつくりあげる喜びに満ち、その自由な発想が多くの人々を惹きつけています。

効率第一、安全第一で人の温かみが感じられにくくなっている現代において、その活動はどんな革命をもたらすのか。世界で広がる新たなコミュニティづくりの動きを紹介しつつ、あらためて「自由」の意義について、二人が議論しました(第3回/全3回、第1回記事はこちら第2回記事はこちら)。

※読みやすさを考慮し、発言の内容を編集しております。

世界中で広がる「マイパブリック」の動き

小林弘人(以下、小林):田中さんの「マイパブリック」というお考え(※第1回記事を参照)に関連して、ちょっとヨーロッパの事例を紹介させてください。

ドイツのベルリンに「Holzmarkt(ホルツマルクト/木材市場の意)」というエリアがあります。ここはもともと川辺にある中心街なんですけど、ここに高層ホテルを建てて一大商業施設をつくろうとしたら、住民の反対運動が起こったんです、それで住民が廃材を使って、自分たちで建物をつくり始めて、一つのまちになっているんです。

▲「Holzmarkt」のまち並み〈写真:小林弘人/2021年〉

まちの中にはパン屋さんもあれば、バーもありますし、その隣には保育園が入ってるんですよ。日本ではありえないような風景ですよね。見た目は手作りなので、けっこうガタガタしてるんですけど、広大な敷地にあるそのゆるさというのが、直線的な建物に慣れてしまった我々にとって、ちょっと他にはない体験を与えてくれるんです。

ベルリンには「Das Baumhaus(ツリーハウスの意)」というハブもあって、ここは地域の人たちが誰でも来られる場所です。エジプト系の方もいれば、トルコ移民の方、シリア難民の方もいらっしゃって、ここは自分たちでプロジェクトを立ち上げられるんですね。掲示板に、「自分はパソコンのプログラミングできるから、教えてあげるよ」とか、「こういうのを持っているから、いくらで譲ってあげるよ」とか、原始的なやり取りがされている。

▲ベルリンのハブ「Das Baumhaus」内にある掲示板〈写真:小林弘人/2021年〉

ここを運営しているのは二人のカップルで、アメリカ人の男性とドイツ人の女性です。店の柱には行政でも何でもないのに憲章が書いてあって、自分たちでこのまちの憲章をつくっているんですね。

まさにマイパブリックですよね。ここに来たら、みんないろんなプロジェクトを立ち上げていいんですよ。それで、そうしたプロジェクトが実際にいくつも走っているんです。

田中元子(以下、田中):最高ですね。

小林:次にご紹介したいのは、パブリックの‟つくり方”も実は共有できるんだなと知った事例で、「Parklet(パークレット/道路や駐車場を利用した公共スペース)」についてです。「ひな形」という言葉を使うと、コピー的な嫌なイメージも覚えるかもしれませんが、そうではなく創造性が発揮できるためのひな形がシェアされているんです。

たとえばサンフランシスコのベイエリアでは、もともと駐車スペースがあったところを、自由に使っていい空間に変えてしまったんですね。座る椅子が置かれていたり、自転車だけ置いてあったり、いろんな場所があります。ルールもシンプルですし、パークレットはこうやったら面白くなると、植物の使い方とか、そういったのもみんなシェアされているんです。

ゼロから考えてマイパブリックをつくるのが難しい人たちでも、こういうひな形に触発されて、「じゃあこんなのをやってみよう」と申請して市が許可すると、パークレットができてしまう。今、サンフランシスコだけではなくて、日本も含めていろいろな国にこのパークレットが展開されています。
コンセプトだけははっきりと明快に示されているけど、そのコンセプトに沿っていれば何をつくってもいいよっていうのが、このパークレットというものです。

田中:日本でもパークレットっぽいことは行われ始めているんですが、なかなか手づくり感があって、個性が出ている、属人性が露出してるようなシーンが見られることは少ないなと思っています。まちづくりに関わる行政や大学の先生たちが主導して、そこでつくるものが決められていて、市民はそれに巻き込まれてください、という感じになっています。

私は市民の方々には、ものすごくクリエイティビティがあると思っているので、もっとダイレクトに窓口と接続する形を取って、「ここでお人形さん屋さんをやりたい」とか、「ここでお茶立てたい」とか、従来のまちづくりのイメージからは想像もつかなかったようなことでも、それをやりたいと言ってくれた人を手助けする役割に、もっと指導的な立場の人がなっていったほうがいいと思います。

禁じるルールではない、個のエネルギーを呼ぶ「器」

小林:パークレットはフリーマーケットに近いかもしれないですね。区画は決まっているけど、そこにマイスペース、マイパブリックがある。そういった集まりは、自分全開じゃないですか。

田中:その通りです。先ほどの憲章をつくることとか、パークレットのひな形を共有することが、日本ではコンテンツをつくることと混同されがちですが、大切なのは具体的なコンテンツを用意するのではなくて、みなさんが思い切り動けるための「器」をつくること。

その器の形がダサい器だと誰も使いたくない、使おうと思わせられない。洗練された器でも、畏れ多くて使えない。みんなが「この器で、みんなとお食事したいな」とか、「私だったら唐揚げを入れたいな」とか、いろんな人が何か弄りたくなる器をつくる。言葉や仕組み、デザインのバランスが、重要だと思っています。

小林:けっこう「パブリック」って言うと、どうしても個を出しちゃいけないみたいな先入観があるんじゃないですかね。

田中:そうですよね。先ほどのドイツのお話からも、パークレットのお話からも、個人のエネルギーを感じるんですよ。

小林:やりたい放題ですよ。

田中:そこが最高ですよね。個人がエネルギーを出そうとすると、誰かが嫌がるという言い方がよくされるんですが、誰も嫌がらないものなんてないわけです。私は誰も傷つけません、とびくびくしながら玉虫色になっているものは、誰も好きになれない。でも、そんなことは気にせず、誰にも頼まれてもいないのにすること、「僕はこんな人です」と表出しているものには、私たちは豊かさを感じます。

あ、こいつがこんなに自由にやってるから、私も何かやっちゃおうかな」と想起されたり、近づいて行って巻き込まれたり、そういうことから新しいことが派生して生まれていくと思っています。

小林:パブリックづくりにおいて、個人をちゃんと持つことは重要ですね。

▲対談中の小林弘人

実は「自由」は忌避され、管理されたがっている!?

小林:田中さんは、それに関連して、「自由」についてはどう考えていますか。

田中:1階革命』を書いたあとに、改めて自由について考えさせられました。まちづくりをする人は、「自由な場をつくる、人々が能動的に過ごせる場をつくる」って、みんな判で押したように同じことを言うんです。それなのに現実は、先ほどのエリアマネジメントの話のように、どこを切っても同じようなまちをつくっています。

やっぱり自分の頭で考えて、自分が楽しいと思うこと、良いと思うことをしたいという欲を出したほうが良いですよね。そのための器をつくる。でも、それに反して特に東京では、その欲が別の欲に置き換えられていっている気がします。要するに、もっと稼ごう、もっと便利にしようという欲ばかりが大きくなっている。

そうなってしまうと、どんどん「自由にさせないでください」「もっと管理してください」と人が言うようになります。「行政さん、大企業さん、ビッグデータさん、私をもっと上手に管理してよ」「なんで私を放ったらかしにするの」「自由にってサービス不足なんじゃないの」って。もうすでに、それに近いようなことを言う人はたくさんいるなと感じています。

小林:面白い視点ですね。僕はいろんな組織や人と議論する機会があるんですが、そこでアンケートを取ると、「もっと決めてほしい」という声が意外と多いんですよね。それにビックリします。実は管理されたがっている人が多いんですよ。その気持ちは何なんでしょうね。

田中:本当ですよね。私は自由は誰もが望むものだと考えてきたのですが、私が個人的に好きということではなく、万人にとって水や空気のように必要なものなのかどうかを、あらためてもっと知りたいと今は思っています。

でも、自由じゃないということは、トゲがある言い方ですけど、誰かの所有物になる、奴隷になるということに近い、支配された存在になっていくことですよね。しかも、その誰かに支配されたり、従属していくことは、悪魔に魂を売るのと同じで、気持ちよくそうされてしまう。「こうすると便利よ」「こうするとあなたはもっといいわよ」ってニコニコしながら、気持ちよく権利が奪われていく。そこに私は抵抗があるけど、抵抗を持つ人が少なくなってきていることも感じています。

一方で、AIなどが発達していくなかで、従属することは人間よりもコンピューターのほうが上手と考えると、人間が楽しく生きるためには、「自由を上手に扱うこと」がますます重要になっていくのではないか、とも思っています。

小林:その兆しはすでにあるなと感じます。社会のありとあらゆるものがサービス化されて、お金を払えば対価が得られるという時代になるにつれ、逆にそうでないものがますます魅力を増していっていますよね。

実際にバーニングマンなんかもそうですけど、お金のやりとりがない完全にギブアンドテイクの世界で、「自分を究極に表現しろ」というコンセプトを掲げて、多くの人に愛されている。そうした祭りやコミュニケーションが、こういう時代だからこそ反動的に求められてくるし、まちや居住エリアにおけるコミュニケーションでも、そういったものが求められてくる気がします。

田中:頼まれてもいないことをするという意味で、バ―ニングマンなんて究極ですよね。誰にも頼まれてないのに、「俺が俺が」と言ってうごめいています。でも、頼まれてないことだからこそ、個人的なことだからこそ、何も起きないどころか、めちゃめちゃいろんなことが起きるわけですよね。

AIの進化も良いんですけど、そういう時代だからこそ、人間って面白いということ、他人がいかにヤバイかっていうことを、ワクワク見られる環境をつくっていきたいです。

▲対談中の田中元子さん

「カオス」や「偶発性」を楽しめる強さを!

小林:なるほど。僕も最近、コンセプトとしてあらためて注目してるのは、「カオス」「混沌」なんですよ。混沌をありのままに受け入れて、そこから何が生まれるか。偶発性に身を委ねるようなことを楽しみにしているというか。

田中:きっとみんな、どこかで自由が、偶発性が怖いんですよ。偶発性や自由に対して、何もない開放された砂漠に一人でいるみたいなイメージを、極端に思ってしまう人もいます。自由か管理か、みんな二項対立的に考えがちですが、そうではないですから。我々が設計・デザインするプロジェクトでも、「そんなに自由や偶発性を強調すると、いろんな問題が起きませんか?」と言われることがよくあります。

でも、重力が働いているこの地球にいる以上、まちで暮らしている以上、私たちは自由になりきれるわけがないんです。あくまでいろいろな枠組みの中での開放、自由にしかなれない。その自由さの上で、これをやったらどうなっちゃうんだろうという偶発性が価値として認められていくことで、さまざまなことが良い方向に変わってくるように感じます。

小林:お話をおうかがいしているなかで、自由って強さなんじゃないかなと思いました。強くないと自由でいられない感じがします。流されてしまうと、「もうそれでいいです。これで数字を求めましょう」となってしまいますから。

田中:その通りですね。セオリーに乗って進めて行く。その先に数字を出して評価され、お給料が上がる。これが従来の強さでしたよね。それによって人より上に立てたり、人よりお金を持てたりしました。でも、放っておかれても、その人がやることこそが、本当の強さだと私も思います。早くみんなが、幻想の競争から降りて、もっと現実を見て、現実を楽しく生きたほうがいいんじゃないでしょうか。

そのためにも、「こうしたらどうなっちゃうんだろう?」という不安に対して、怯えなくていいようにしなきゃいけないと思います。その強さって、たぶん先天的なものじゃない。

小林:後天的に培えるものだと。

田中:はい。培っていけるるものだと思います。

〈おわり(Q&A記事につづく)〉

「想定外」こそを楽しむ。ランドリー付きの喫茶店で生まれるコミュニティ【田中元子対談1/3】
「何をしたいか」を問うことから、お店のデザインも始まる【田中元子対談2/3】

田中元子(たなか・もとこ)
株式会社グランドレベル代表取締役
1975年茨城県生まれ。2004年より建築関係のメディアづくりに従事。2010年よりワークショップ「けんちく体操」に参加。2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーに、株式会社グランドレベルを設立。さまざまな施設や空間、まちづくりのコンサルティングやプロデュースを手がける。2018年「喫茶ランドリー」開業。2019年「JAPAN/TOKYO BENCH PROJECT」始動。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社)、『建築家が建てた妻と娘のしあわせな家』(エクスナレッジ)ほか。主な受賞に「2018年度グッドデザイン特別賞 グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞」、「2013年日本建築学会教育賞(教育貢献)」ほか。

小林弘人(こばやし・ひろと)
株式会社インフォバーン代表取締役会長(CVO)
1965年長野県生まれ。1994年に『WIRED(日本版)』を創刊し、編集長を務める。1998年より企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業。「ギズモード・ジャパン」「ビジネス インサイダー ジャパン」など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊するとともに、コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として活動。2012年より日本におけるオープン・イノベーションの啓蒙を行い、現在は企業や自治体のDXやイノベーション推進支援を行う。2016年にはベルリンのテック・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」の日本公式パートナーとなり、企業内起業家をネットワークし、ベルリンの視察プログラムを企画、実施している。
著書に『AFTER GAFA 分散化する世界の未来地図』(KADOKAWA)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)など多数。

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ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。