オウンドメディアで「お客さまの体験価値の向上」を目指す|第一生命保険株式会社様「ミラシル」 事例
2021年12月にローンチした、第一生命保険株式会社様(以下、第一生命)のオウンドメディア「ミラシル」。インフォバーンは、メディアの戦略設計からコンテンツのプランニングといった設計フェーズ、そして運用フェーズであるコンテンツ制作・アクセス解析を担当させていただいています。今回はこのミラシルのプロジェクトを担っていらっしゃる第一生命の鎭目(しずめ)哲郎様、木村剛徳様、篠原遥様、そしてインフォバーンのプロジェクトマネージャー・西原雄一、コンテンツディレクター・永瀬夏海とともにミラシル誕生の背景や現在の成果や今後の展望などを聞きました。
生命保険会社「積年」の顧客コミュニケーションへの課題感
――ミラシルはどのような経緯から立ち上げられたのでしょうか? まずはその背景を教えてください。
第一生命 鎭目哲郎様(以下、鎭目):生命保険会社は従来、お客さまとのコミュニケーションを対面を中心に行ってきました。当社の場合は「生涯設計デザイナー」、他社であれば来店型保険ショップなども該当しますが、顧客接点をつくるきっかけも含めて、リアルコミュニケーションに依存している状況でした。
ですが、従来のコミュニケーション方法だけでは、お客さまと接する機会も、情報を提供する時間の確保も難しくなってきていることは明らかでした。お客さまの時間の使い方として、オンライン上で費やす時間の割合が大きくなってきているからです。
こうした課題感は2016年頃からすでにあり、コロナ禍を通じてより顕著なものとなりました。特に、将来の生活設計や保障について検討するタイミングにあたる20-30代のお客さまに対して、情報等をご提供する機会が減少していることが大きな課題となりつつありました。
第一生命の商品やサービスは無形のもので体感しにくく、お客さまにとって直感的に理解しづらいからこそ、多くの情報をご提供し理解を深めていただくことが大切です。しかしながら、そうした機会すらないままでは、必要な商品やサービスを求める多くのお客さまの支持は得られないと危惧しています。
こうした背景から、お客さまに馴染みのある方法で情報提供の機会を創出しながら、お客さまにとって役立つ情報・サービス・商品をご提供することを通じてお客さまに価値を感じていただく、すなわち「体験価値」を向上させていく、ことが重要であると考えました。
具体的には、保険の加入や利用だけでなく、例えば加入前の情報収集や日常の困りごとの解決のようなさまざまな場面において、当社との接点を通じて良いCX(カスタマー・エクスペリエンス、顧客体験)を提供、または、提供されるのではないかという期待を持っていただくということです。それによってお客さまの体験価値の向上へつなげていく。
そういった、お客さまにとって便利で使い勝手が良いものを提供しつづけることを通じて初めて、お客さまの支持を得られ続けることにつながるだろうと考えています。それを第一生命では「CXデザイン戦略」と呼んでおり、その柱としてオウンドメディアの構想が2021年から動き出すこととなりました。
オウンドメディアは、CXデザイン戦略の柱
――CXデザインの戦略の柱となるオウンドメディアの制作依頼ということでインフォバーンへご相談をいただきましたが、具体的にはどのような構想をお持ちだったのでしょうか?
鎭目:CXデザイン戦略をオンライン上の顧客行動という面で考えますと、商品やサービスにつながる前段階で、いかにお客さまに良い体験をしていただくかが重要になってきます。まずは、当社がこれまでの知見を踏まえて有用な価値提供をしていくことが期待できる、「つながり・絆」「保障」「資産形成・承継」「健康・医療」の4つの領域を定め、それぞれの領域でお客さまの体験価値を高めることを目指しました。
ミラシルは、こうしたCXデザイン戦略のゲートウェイ、つまり入り口の役割を果たすコンテンツサービスであると考えています。この入り口をどうやって作ろうかとなったときに、我々だけでは知見も乏しい部分もあり、一緒に考えていただけるパートナーを探すことにしました。
――インフォバーンでは、このような提案のご依頼を受け、どのように捉えましたか?
西原:とても面白く、スケールの大きいプロジェクトだなと思いました。RFP(提案依頼書)を拝見して、経営やビジネス課題に紐づいていて、戦略が明確であること、そしてコンテンツをうまく活用して新しいサービスをリアルでもオンラインでも展開していきたいという方針に共感しまして、我々としてはお手伝いできることがたくさんあるなと感じました。ご提案から熱量高く取り組めました。
――インフォバーンからの提案内容を教えてください。
西原:ひとつめは、4つの領域に基づいてコンテンツを提供する仕組み作り。ふたつめは、4つの領域をきちんとつなげて、結果的に第一生命のサービスや体験価値の向上にどのようにして貢献するか。この2点を軸に、具体的に実現していく方法や進め方をご提案させていただきました。
すべてはお客さまのために。コンテンツの品質を守り続ける工夫
――メディア名は、運営者の想いが込められたキーワードが使われたり、コンセプトを端的に表現したものとなったりすることが多いと思います。「ミラシル」という名前の由来にはどんな想いがあるのでしょうか?
第一生命 篠原遥様(以下、篠原):案出しは社内外で行い、候補としては30個ほどありました。そのなかのひとつに「未来のみちしるべ」があり、それを略した「ミラシル」というアイデアは木村が出しました。最終的には社内アンケートをおこない、若手社員の意見も取り入れつつ、総合的に評判の良かったミラシルに決定しました。
「未来のみちしるべ」という言葉から、希望に満ちた未来へ前向きに進んでいく人を応援していきたい、という意味が込められています。
――オウンドメディアは立ち上げでの設計はもちろん、継続して運用していくことも大事になってきます。その体制はどのように構築されましたか? 注力した点や苦労した点はありますか?
第一生命 木村剛徳様(以下、木村): 苦労したことは、システム開発とコンテンツ制作、そしてMA(マーケティングオートメーション)を含めた全体のコミュニケーション設計を、同時並行で作らなければならなかったところですね。
またYMYL領域に関する内容を扱っていることもあり、コンテンツの品質担保のためエビデンスをしっかりとチェックしています。ひとつの記事を複数の担当者が確認し、内容に誤りがないかを専門の部署が審査し、そしてインフォバーンにお戻しして…というやりとりは大変だったなと思います。
ただ4つの領域の体験価値を提供していくためには、この点で妥協はできないので、そこはしっかりとやっていきました。
――コンテンツの品質がとても重要視されているのですね。そのなかでインフォバーンでは運用においてどのような点に注力していますか?
西原:審査とチェックの徹底ぶりは、運用が始まってからわかったことでもありました。我々ももちろん設計フェーズから準備はしていましたが、運用を継続する上では求められる水準に対応するため改善が必要だなと感じました。これまで担当してきたプロジェクトの経験も踏まえて改善を続けたことで、徐々に体制を整えることができたかなと思います。
――運用でのチームワークもプロジェクト推進のポイントになったと聞いています。
西原:プロジェクトを開始してから頼りにさせていただいているのが、第一生命のご担当者みなさまのコミットメントの強さです。オウンドメディアは、プロジェクトメンバーのコミットメントによって、成否が変わってくると思っています。結果的に問題解決のスピードやプロジェクトの進捗に大きく影響すると思うんです。第一生命のみなさまはスピード感が違うなと。我々が相談したこともすぐに動いてくださったり、コンテンツのチェックの体制もすぐに整えてくださったり。我々も常に気合いを入れて取り組む原動力になっています。
――品質が求められるコンテンツの責任者として、コンテンツディレクターの永瀬さんはどこに注力していますか?
永瀬:コンテンツの審査体制がしっかりと組まれていたので、そこに追いつかなければならないのが大変でしたね。審査にかかる必要日数や適切な順序などは、実態に即したスケジュールをつくっては改善を繰り返して整えていきました。コンテンツ作りに関わる人数も制作本数も多いので、全員が同じ品質で同じスピードで進められるように、かなり徹底してルール作りを行いました。
――軌道に乗るまで、第一生命内での調整などもかなり大変だったかと思いますがいかがですか?
篠原:コンテンツを確認する担当者が、ローンチ当初は3名でしたが、今では10名ほどに増えました。全員が同じ品質で、かつフローに迷わずスムーズに記事確認を進行していくため、ルール作りを行いました。
また、担当者間の相談会を設けるようにしました。コンテンツ制作を進めていく中で、進行フローや表現などについて、気軽に相談や意見交換をできるようにしています。
――世の中に響く文脈や表現と、社内のルールのせめぎ合いがありそうですね。
篠原:面白いコンテンツを作っていきたいので、適宜社内の方針を踏まえつつ、新しいことや世の中で流行っているものを積極的に取り入れて、バランスをとるようにしています。
利益ではなく、運用を継続することにより体験価値の向上をめざす
――オウンドメディア運用にあたって、KGI・KPIに悩まれる担当者は多いと思いますが、初期のミラシルではどのように考えられていましたか?
木村:ミラシルは会員制のメディアなので、会員登録数をKPIに設定しています。一般的には、資料請求数や契約数などになるかもしれませんが、そもそも弊社のCXデザイン戦略のコンセプトが、先にサービスがあって利益ありきではないという考え方のため、そういう観点では設定していません。まずは広くお客さまにミラシルに来て楽しんでいただきたいというコンセプトを重要視しています。
――現状のミラシルについて、社内外の評価はいかがですか?
鎭目:最初は何をやろうとしているのか理解をしてもらうのが難しい部分もありましたが、「やりたいこと=お客さまからみた第一生命のゲートウェイ」というところがようやく浸透してきたように感じます。サイトパワーも上がってきて、当社の企業サイトにご来訪くださる方も増えてきています。短期的な効果でいうと、資料請求数も増えてきているのでお客さまに商品やサービスをご理解いただくことのお手伝いができつつあると感じています。
やはり第一生命という信頼をもとにお客さまが来てくださっているので、それを大切にしてやっていきたいです。お客さまの価値観よりもすこし先を見据えて、今後も情報や体験を提供し続けることが大切だと思っています。
木村:月を追うごとに検索流入数が非常に増えていますね。また他社さんが、ミラシルについて意見交換をしたいと言ってくださるようになりました。社外でもメディアとして徐々に浸透してきていることを実感しています。
ただ認知度という観点ではまだまだ十分とは言えないので、より充実したコンテンツを作ってより多くの人に来ていただいて、よりよい体験価値を持ってもらうということを繰り返しやっていく必要性を感じています。
コンテンツマーケティングの肝は、粘り強く信念をもつこと、失敗を恐れないこと
――インフォバーンでも、金融・保険業界の方がコンテンツマーケティングにトライしたいという声をよく耳にします。そういった方にアドバイスはありますか。
木村:金融各社さんは大なり小なり何かしらのコンテンツを抱えているはずで、そこから契約へつなげることを気にされていると思うんですが、なかなかそこに至っていないと。
コンテンツマーケティングという観点でいうと、我々もこれからで、まだまだレベルアップしなければならないと思ってはいますが、最初からうまくいったケースや成功したという事例はあまりないと思うんです。
世の中の変化は早いですし、価値観もどんどん先に進んでいってしまいます。これは自分自身へのメッセージも含めてですが、粘り強く信念をもって取り組むことと、ユーザーの意見を聞き常に改善を模索して実行していくことと、失敗を是とする文化を醸成していく必要があるのかなと思います。
――「失敗を是とする」というカルチャー醸成は第一生命のような大企業だと難しいように感じるのですが、どのように作られているのですか?
木村:失敗を恐れずにチャレンジしていくという考え方は経営層からきているような実感があります。
――西原さんから見てもその文化は感じますか?
西原:感じますね。そして我々は、その空気感や文化に非常に助けられていると思います。我々の意見をきちんと聞いてくださって、それをもとに改善したいと言ってくださるので、我々としては非常に提案しがいがあるというか。このプロジェクトに必要だと思うからぜひ試してみたいということに挑戦できる。非常にチャレンジしやすい環境を作っていただいていると感じています。
ミラシルを、お客さまとの関係性をよりいっそう深めていく場として成長させたい
――ミラシルの今後のビジョンをお聞かせください。
鎭目:一般に保険会社は「公的社会保障制度」を補完する機能をもつとされます。多くの方が「自助」を求められ途方に暮れそうになる中で私たちが果たすべき機能やお客さまの期待は今後ますます大きくなると考えています。多くの方にご自身の将来のことを考えてスマートな(賢い)選択をしていただけるように、そのための情報収集や決断のお手伝いをミラシルはできると考えています。
その意味では我々もただコンテンツを作っていくだけではなくて、アクティブにお客さまとより深い関係性を築いていく必要があります。お客さまともっとインタラクティブなコミュニケーションができるようにしなければいけないなと思っています。
――今後トライしていきたいことなどはありますか?
木村:ユーザーの方に、ミラシルに来てどう感じているのかという声や反応の深掘りをしていきたいと思っています。そこから改善を繰り返していって、ミラシルのプレゼンスを徐々に高めていきたいなと思っています。
インフォバーンには、制限なく忌憚ない意見をいただけるとありがたいなと思っています。インフォバーンをコンテンツ制作会社だとは一度も思ったことはなくて、メディアパートナーと思っています。メディアとしてミラシルをどう成長させていけるかのご意見はいただきたいですし、我々も動いていきたいと思っています。
篠原:私がこのプロジェクトに入る前は、ファイナンシャルプランナーとしてお客さまに保険をご提案する業務を行っていたのですが、お客さまと何回もコミュニケーションをとって信頼関係を築いたうえで、保険を検討してくださるケースが多かったので、そういったことがオンライン上でもできるといいなと思っています。
――このようなご期待にどのようにお応えしていくのか、インフォバーンとしての意気込みをお願いします。
西原:今日僕、「Connecting The Dots」(編集部注:点と点をつなぐ、という意味。スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチのなかで発言した言葉として有名)と書いてあるTシャツを着てきたんですが、なんでこれを着てきたかというのを説明しますと(笑)。
ミラシルという場は、さまざまな点をつなぐ場として少しずつ成長してきているなと感じています。それは第一生命様とインフォバーンだけでなくて、お客さまも含めてさまざまな関係する方々とコミュニケーションできる良い場所へと少しずつ成長してきていると感じています。オンラインを起点に今後はリアルの体験をもっと充実・拡張させて、それをまたオンラインに持ち帰るといった、より体験価値を充足させていく取り組みをしていければと思っています。
我々はミラシルという場を大きく良い場所にしていくことで、最終的には第一生命様のビジネスにきちんと貢献することを意識していきたいです。
永瀬:より安定運用のための体制強化をやっていく必要があるなと思いました。今回改めて思ったのですが、つながりや絆という体験価値が起点になっているとか、「未来のみちしるべ」のメディアであることなど、そういったベースの部分をミラシルのコンテンツ制作に関わっているすべての人にも理解を深めてもらって、みんなが同じ方向を向いてよりよいコンテンツを作れるように考えていきたいと思いました。
ローンチから1年半が経って、記事の本数も増えてきています。読者の方により楽しんでもらえるように、過去から学ぶという視点でデータを踏まえたコンテンツ制作もより積極的に取り組む予定です。
PROFILE
※2023年8月時点
第一生命保険株式会社
コミュニケーションデザイン部 オンラインマーケティング課
ラインマネジャー コミュニケーションデザイン課長
鎭目哲郎
1998年第一生命保険相互会社(現第一生命保険株式会社)入社。事務企画業務や首都圏エリアにおけるマーケティング統括業務などを経て、2013年に株式会社スターフライヤーへ出向。WEBマーケティング・ブランディング、ファンマーケティング、ロイヤリティマーケティング業務等を担当。2016年に第一生命へ復務し、営業企画部門にてInstech(インステック)業務を担当したのち、オンライン起点のマーケティングを行う組織として2020年にコミュニケーションデザイン部を立ち上げ。現在に至る。
第一生命保険株式会社
コミュニケーションデザイン部 オンラインマーケティング課
マネジャー
木村剛徳
2007年第一生命に入社後、システム開発等を担うグループ会社へ配属され、決算系システムのSE・PGとして企画開発に5年間従事。2012年に広告宣伝課に異動し、テレビCMの制作、HPの企画・運営、Web広告、事業協賛等の案件に携わる。2019年慶應義塾大学大学院へ社内第一号となる国内留学、社会人大学院生として活動する。2021年よりミラシルの企画・設計業務を担い、現在はミラシルの集客・コンテンツを含む施策全般を統括している 。
第一生命保険株式会社
コミュニケーションデザイン部 オンラインマーケティング課
篠原遥
2016年第一生命保険株式会社に入社。保険契約に関わるアンダーライティング業務に3年間従事したのち、2019年に三重支社へ異動。ファイナンシャルプランナーとして中小企業を中心とした保険営業支援業務に携わる。2021年よりミラシルの企画・設計業務を担い、現在はミラシルの集客設計・運営を担当している。
株式会社インフォバーン
エクスペリエンス部門
西原雄一
Web制作会社を経て2014年にインフォバーンに入社。現在はオウンドメディアを起点とした企業のブランディング、カルチャー改革の支援プロジェクト、DXを推進するプロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当。業務と並行してスポーツアナリティクスに関する企業や個人を支援。2021年途中から2022年までなでしこリーグ・大和シルフィードのアナリストとしても活動。
株式会社インフォバーン
エクスペリエンス部門
永瀬夏海
総合病院での医療事務職の経験を生かして、医療メディアの編集を経験。ほか、出版社でエンターテインメント誌の編集、フリーライターを経て、2021年にインフォバーンに入社。現在はミラシルをはじめとする多数のオウンドメディアで、コンテンツ制作のリーダーを担う。
INFOBAHN STAFF
プロデューサー:関本美帆
プロジェクトマネージャー:西原雄一、鈴木椋介
コンテンツプランナー:永瀬夏海
コンテンツディレクター:大内徹也、李泰炅、篠原美咲、小沼奈央、外山実奈、岡本未来、玉置桃香