【海外事例】進化するカーボンニュートラルの取り組み、企業はどう伝える?
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味している言葉です。再生エネルギー、大気汚染や地球温暖化、プラスティックゴミなど多くの問題のゴールになるこの目標に多くの企業が取り組んでいる今、その成果の伝え方について、先進的な海外の事例を見てみましょう。
Co2削減のリーダーシップを定量的な目標で明瞭に表現|Cemex
「Cemex」は、メキシコに本社がありセメントを始めとする建築資材の取り扱いを事業とするコングロマリットです。生のコンクリート素材は世界で最も使用されている人工材料のうちの一つであり、社会の発展と成長に不可欠な役割を果たしています。しかしセメント生産が排出する温室効果ガスは、航空交通より多く全世界のCo2排出量の5~8% を占めているという実態(世界セメント・コンクリート協会 GCCAより)があり、大きな懸念を生んでいました。
そこでCemexは、「カーボンネットゼロ(カーボンニュートラルとほぼ同義)」を目指し、史上初の正味二酸化炭素排出量ゼロ コンクリート 「Vertua」 を開発。2020年の発売以来、セメントおよび建築資材に関連する業界の状況を変えたと言われており、このようなインフラ関連企業のアクションは、社会に非常に大きなインパクトを与えることを証明しました。
これらは、Cemexにおけるサステナビリティ推進活動の一環で、特徴的なのはその目標の明確な定量化です。この活動はFuture in Actionと命名されており、排出量削減の機会を生産プロセスに限定するのではなく、Cemex製品のライフサイクル全体、および業界のサプライチェーンを変革することで対応していくプログラムです。Future in Actionの理念については、Webサイトおよび動画で発信されています。
特にサプライチェーン排出量の分類であるスコープ1〜3についても、2030年までの具体的な削減目標を数字で示し、2050年には「正味二酸化炭素排出量ゼロ企業」になる目標を掲げており、その明瞭さに企業としての大きな決意を感じさせます。
さらにCemexは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局の「Race to Zero」キャンペーンにも参加し、 グローバル企業で構成されるカーボンニュートラルを目指すプラットフォームFirst Movers Coalition の創設メンバーでもあり業界だけでなく世界でもリーダーシップを発揮しています。
気候変動を救うヒーローとして新たな層にリーチ|LIME
「Neutron Holdings」は、電動キックボードと電動自転車のスタートアップブランド「Lime」を運営していることで有名な企業です。Boston Consulting によると、電動キックボードによるシェアリングサービスの全世界の市場規模は、2025年には400億ドルから500億ドルに達すると予測されており急速に普及が進んでいると言えるでしょう。
Limeは、より多くの層にリーチするため、ぞれぞれの都市のマーケットの特性に焦点を当て、住民の日常生活にどのように適合するのかをアピールする「It’s Time To Lime」キャンペーンを行いました。このキャンペーンでは1回の乗車につき10分までの乗車料金が無料になります。ベルリン、サンフランシスコ、ワシントンで行ったこのキャンペーンは、Limeへのスイッチを検討し始めるきっかけを作りました。
ポスターのデザインはコミックヒーロー映画のポスターを彷彿とさせ、車での渋滞や駐車場探しに苦心している人から、気候変動を憂える人まで、幅広くヒーローのように救済することを表現しています。バス停などの屋外でもこのキャンペーンを告知。時間の不確定性や利便性の他に、サスティナブルな面もアピールしています。
また、2022年4月に開催された「Break Up With Cars」キャンペーンは、最短 1 日から最長 1 か月まで車と別れることを約束したドライバーは、ライムの乗車で最大約 2,600 ポンド(約50万円)相当の報酬やTシャツ、ヘルメットといったアイテムを得ることができるという大きなものでした。
サプライチェーンでのCo2マネージメントを表現|The Hershey Company
チョコレート菓子を始めとするスナックを製造・販売している「The Hershey Company」は、米国で環境に配慮した企業のひとつとされています。コートジボワールやガーナなど人権的リスクの高い地域のカカオの調達率を100%とし、その生産方法を透明化するなど持続可能性に向けた取り組みを行なっています。
Co2削減についてもThe Hershey Companyはサプライチェーンマネージメントを行うことに積極的です。当社の二酸化炭素排出量の90%以上は、カカオ、乳製品、砂糖などの原材料の生産、包装、物流分野であり、ここを優先的に見直し、複数のサプライヤーと協力して、具体的な行動を起こすことが、排出量削減の最大の機会となるからです。つまり、サプライチェーン内で持続可能性を推進していくという試みです。
同社の製品におけるカカオ、乳製品、砂糖などの原材料の生産、包装、物流は、スコープ3(自社以外の「サプライチェーン」における排出)によって賄われており、二酸化炭素排出量90%以上のうちの約42%は、農場レベルでの原材料の生産による土地利用の変化によるものです。
土地利用への取り組みは、気候行動計画の重要な部分です。The Hershey Company は2030 年までにすべての原材料のサプライ チェーンから森林破壊をなくすことを目標としており、その一環として、サプライヤーと提携してサプライチェーン全体の改善を推進しています。
たとえば、2025 年までに森林破壊のリスクの高い地域で生産されたカカオのみを直接購入することで、既知の生産者との長期的な関係を構築し、持続可能な農業に関するリソースと教育を提供しています。さらに、砂糖と乳製品の両方において新しい調達プログラムを取り入れています。たとえば、ペンシルバニア地方のCo2の排出量を削減し、酪農事業における水路や農場を改善するために、サプライヤーの Land O’Lakes や Alliance for the Chesapeake Bay と共に試験運用を行っています。
これらのサプライヤーチェーン全体でサスティナブルに取り組む大規模な取り組みは、ESGレポートにまとまっています。
94ページに及ぶ本レポートはかなり充実しており、具体的な数字をあげながら事業のあらゆる点のサスティナビリティについて説明しています。調査日時時点での進捗も説明しているところが、他のレポートよりもさらに深く説明度・透明度が高いと言えるでしょう。
成果が出始めたカーボンニュートラル。表現方法に各社の工夫が
カーボンニュートラルやその施策において目標の定量化は当たり前となり、自社だけではなくサプライチェーンまでも巻き込んだ透明化および目標達成が目指すべき水準となっています。そのためKPI設定や成果の調査、進捗状況の把握を行ったあと、理解してもらうための表現方法も同時に検討しなくてはなりません。広くターゲットユーザーを取ることになるサステナビリティ活動は、知識のある人にもない人にも理解してもらえるような表現がこれからも重要になってくることでしょう。またwithコロナ時代と呼ばれるこれからは、オンラインだけでなくオフラインも併用することが求められます。多様な伝え方をご検討されたい方は、Webサイト構築やオウンドメディアの運用だけでなくブローシャーやイベントなども交え、包括してプランニングを行うインフォバーンにご相談ください。
Illustration by Getty Images