【海外事例】企業やブランドがインクルーシブ(包摂性)を伝えるためには?
マイノリティーと一口に言っても、多様なカテゴリで存在しており人口はかなりの数に上ります。例えば、障害者は「世界最大のマイノリティー」と呼ばれており、世界人口の約15%にあたる10億人が障害を持って暮らしていると言われています。それ以外にも、シングルマザー、発達障害、LGBTなど、実に多様化しています。これから必要となってくるのは、少数派を排除するのではなく、すべての人を対象にするというインクルーシブ(包摂性)です。今後の社会のあり方として重要視されている現在、企業としてもなおざりにはできませんし、今後ますますその重要性は高まっていきます。今回はこのインクルーシブの考えをプロモーションに活かした例をご紹介いたします。
発想の転換で障害をポジティブに。A Iも真似できない、クリエイティブなDyslexic Thinking | Virgin group
「Virgin Atlantic Airways」や「Virgin Records」で知られる「Virgin group」の会長であるRichard Bransonをご存じでしょうか。彼は失読症(Dyslexia:ディスレクシア)であることを告白しています。失読症とは、視覚が正常であるにも関わらず、文字や文章を正しく認識したり理解したりする能力が損なわれる障害のこと。アインシュタインやエジソンも失読症だったと言われ、それゆえか特殊能力を発揮している人も少なく有りません。
Virgin groupでは、そのような経緯から失読症という障害を隠さず、むしろそれを強みにして生きていくために、失読症の特性をアピールしていくことを提唱する「Dyslexic Thinking」キャンペーンをスタートしました。動画にはRichard Bransonが自ら出演し、LinkedinやDictionaly.comが協力して推進していることが示されています。
たとえば、Linkedinのプロフィールには「Dylexic Thinking+」という能力として書き加えることができます。障害があることがかえってプラスになるような認識を普及させる、ポジティブな取り組みです。
また、別の動画では、いかに失読症の人たちが革新的であったか、Leonardo da Vinciなどの例を出しながら説明しています。失読症という障害をマイナスなことではなく、プラスな特徴だとアピールしています。
Virgin Groupは、このキャンペーンにより失読症に関する肯定的な言及が1,562% 増加することに貢献したと言われており、あるメディアによるとソーシャル メディアでの否定的な言及が、キャンペーン前よりも4,450% 減少したと伝えています。
インクルーシブ×ビジネスで新市場を開拓 | Unilever
スポーツや汗はアクティブなイメージのため、障害者と関連して考えられにくいのですが、そんなギャップを逆手に取ったインクルーシブデザインの例として、Unileverのデオドラントブランド「Degree」の「Degree Inclusive」が注目されています。
障害者はアメリカだけでも5,120万人(人口の約18%)おり、美容やパーソナルケア製品は彼らの課題やニーズを見落としがちです。そこでDegreeは、「行動・運動には生活を変える力がある(Degree believes in the power of movement to transform lives.)」をモットーに世界初の障害者向け制汗剤を開発し、新しい市場を開拓しました。
今までは健常者の視点でしか作られてこなかった制汗剤のボトル。それゆえ、視覚や身体に障害を持った人たちには使いづらいものでした。汗や臭いが気になって自分に自信が持てないことから、障害のある人が自由に活動しにくいという事実もありました。
その問題を解決するため、Degreeは障害のある消費者ならではのニーズを満たすことを最優先に、障害者とエンジニアやデザイナーがチームになり、ストレスなく使えるボトルを共同開発しました。こうした貢献が認められて、この広告はカンヌライオンのイノベーション部門のグランプリも受賞しました。
この製品のプロモーション自体も、2022年サンフランシスコマラソンに出場する障害者マラソンチームのサポートを行ったり、障害者に対して身体を動かすことの利点やノウハウを伝える記事などを展開しています。また、実際に身体障害者が使う動画は、かなり強いインパクトを残しました。
その結果、XやInstagramなどのSNSで話題を巻き起こし、1週間のオーガニックインプレッションは7.2万回以上、テレビや雑誌での露出にも繋がったとのこと。この画期的な製品は、ヘルスケア、美容業界にインクルーシブケア商品という新たな市場を作ったと言われています。
刑務所と組んで、ブランドの強みを拡張して伝える | DECATHLON
DECATHLONは、「人々と、地球の役に立つ(TO BE USEFUL TO PEOPLE AND TO THEIR PLANET !)」をパーパスとして世界に展開する、フランスのアウトドア&スポーツ用品メーカーです。またそのパーパスの延長として、スポーツを愛する情熱をできる限りたくさんの人と共有することをモットーにしています。
この想いからDECATHLONはベルギー最大の刑務所の受刑者のために、6人で構成されるeサイクリングチーム「THE BREAKAWAY」を立ち上げました。THE BREAKAWAYは、Zwiftというeサイクリングのためのプラットフォームを使うことで、外部の一般の選手とレースを行うことが可能になりました。なんとこの「受刑者チーム」には、弁護士、裁判官、法務大臣による「司法関係者チーム」ともレースを行う機会もあったとのこと。レースの実現のために、自転車、スマートトレーナーを含むすべての機器が刑務所内に提供されました。
これが広く話題になった理由は、スポーツを通したバーチャル空間での他者とのつながりによって心身の健康を獲得するストーリーが、2020年以降のパンデミックとマッチしたという事情もありますが、受刑者の人権という社会貢献の面があったからです。
また、受刑者がeスポーツを行うなかで、受刑者と司法関係者がレースをするというインパクトに加えて、本来は繋がらない受刑者と司法関係者や観客がメタバースやゲーミングプラットホームを活用して繋がっているという意外性と納得感、さらにはそれが可視化されている点がこのキャンペーンが成功した一番の理由でしょう。
また、メディアによる当事者への取材もメタバース内で実施されたというのも新しさを感じます。
受刑者の人権や尊厳を守り、スポーツを通して外の世界とつながることで社会復帰の一助とし、DECATHLONのパーパスも表現するという一石三鳥とも言える非常に優秀な事例です。それが評価され、2022年のカンヌライオンズをはじめに約50もの広告賞を受賞しています。
その結果、限られたメディア予算にもかかわらず、ソーシャルおよびデジタルキャンペーンはFacebookとInstagramで130万人以上、YouTubeで150万人以上、メールで122,000人以上にリーチし、エンゲージメントは通常のキャンペーンのベンチマークを上回ったそうです。また、32の国内外のラジオ、テレビ、ニュース局で取り上げられ、さらに400万人以上にリーチすることができました。この結果を受けて、ベルギーでは、今後すべての国内の刑務所において数年間をかけて、eサイクリングを装備することを発表したという驚きの展開へと繋がりました。
インクルーシブを浸透させるために、ストーリーの力を
昨今の日本でも、企業やブランドにインクルーシブという価値を付与することが求められています。今回ご紹介した海外事例では、創業者の個人的な事情、消費者からのニーズ、企業のパーパスなどのストーリーを出発点に、インクルーシブを体現する施策に仕上げていることが共通点ではないでしょうか。私たちも、ストーリーこそがその企業やブランドの個性を引き立てるものであり、それがインパクトを生み人々の心に届かせる力になるのだと確信をしています。インフォバーンでは、それぞれの企業やブランドの特性を紐解き、ストーリーへと導いていくことを得意としています。お気軽にご相談ください。
Illustration by Getty Images