【海外事例】企業が取り組む、アンコンシャス・バイアスへのメッセージとコミュニケーション事例
アンコンシャス・バイアス(Unconscious Bias)という言葉が日本でもじわじわと浸透しつつあります。「無意識で行われる偏ったモノの見方」と訳され、従来、常識や当たり前と思われていた価値観のアップデートが求められるようになりました。このような状況に目を向け、問題提起をし、解決策を一緒に考えていくことは、企業が事業を成長させていく上でも重要な視点のひとつになっていくでしょう。今回は、アンコンシャス・バイアスを払拭するために活動している海外企業の事例を見てみましょう。
幼少期に着目して、バイアスへの気づきを与える | PEUGEOT
日本では高級車メーカーとして知られる「PEUGEOT」は2023年1月にフランスで「GIRLS LIKE CARS TOO」 というキャンペーンを展開しました。
動画内ではある問題提起がなされています。女の子たちはステレオタイプの「女の子らしい」おもちゃではなく、本当はおもちゃの車が欲しかったのかもしれない、と。
そのためこのキャンペーンでは、女の子には人形を、男の子にはおもちゃの車を贈るという慣習に疑問を投げかけアンコンシャス・バイアスを払拭することを呼びかけました。
さらには女の子たちに、希望とは異なると感じたプレゼントをPEUGEOTのおもちゃの車と交換できるようPEUGEOTのWebサイトでおもちゃの交換を無料で申請するページを公開(現在はクローズ)しました。おもちゃの車を自分が受け取る代わりに、慈善団体に寄付することもできるそうです。
このキャンペーンの背景には、統計的に女性の方が安全運転であることが証明されているにもかかわらず、女性は依然として男性よりも運転に自信がない(PEUGEOTの調査による)と感じているということが、動画内でも語られれています。
フランスのある機関の発表した研究では、子どもたちが幼い頃からさらされている性別に関する固定観念が、後の人生における自信に大きな影響を与えることが示されているとのことで、新世代の女性ドライバーに自信とインスピレーションを与える機会を作ろうと、この新しいキャンペーンGIRLS LIKE CARS TOOの誕生につながったそうです。
このキャンペーンは動画とともにSNSなどを通して拡散されたことにより大きな反響を呼び、最初の数日で120万人以上がギフト交換に登録。オンラインでも肯定的な意見がたくさん見られました。
新聞が国を動かし、初の女性大臣の誕生へ | Annahar
女性に男性と同様の権利がないレバノンで、国民とともに歩んできた長い歴史を持つ国内有数の新聞社「Annahar」は、女性が主導し、暴力を回避しながら男女平等の革命に対して女性をエンパワーメントすることに目を向けました。それがこの「The New National Anthem Edition」キャンペーンです。
女性が革命をリードするためには、女性がこの国にとって不可欠だと実感してもらうことが重要でした。レバノンでは女性が非常に過小評価されており、国歌にすら「男性発祥の地」と書かれており、そこには女性が含まれていませんでした。
そこで、Annaharは国歌を書き換えるという大胆なアイデアを提案したのです。国歌の詞を「女性と男性の発祥の地」に変更して新聞の一面に掲載して配布し、新聞社の社屋にも展示しました。また新たな国歌を国民的歌手が街頭で披露するなどして認知を高める施策も行われました。
その結果、賛同した女性たちがレバノン全土から自然と街頭に集まり、改訂された国歌を一緒に歌うという現象が起き、革命が平和的に行われたのです。
このキャンペーンはすぐにTwitter(当時)でトレンド入りし、7億4500万のインプレッションと1億5000 万ドルの広告換算額を獲得しました。また、この特別版はAnnaharで史上最も売れた版としても記録しました。
キャンペーンは国民的な話題となり、その結果、新政府の女性閣僚は400%増加。アラブ諸国初の女性の国防大臣が誕生しました。正式に国歌の歌詞修正の法案も提出されています。
人生の選択肢を広げるためのZ世代向けキャンペーン | European Union(欧州連合)
Instagram:https://www.instagram.com/reel/CyvCqCbtxyR/?utm_source=ig_web_copy_link&igshid=MzRlODBiNWFlZA==
「European Union(EU、欧州連合)」は最近、「End Gender Stereotypes」と名付けた新しいソーシャルキャンペーンを開始しました。編み物をする男性など、従来の価値観を覆すようなシチュエーションをビジュアルに起用して意識変革を促しています。
EUはWebページの中でジェンダーステレオタイプについてこう述べています。
このキャンペーンは、ジェンダーの固定観念が社会で果たす役割についての意識を高めることを目的としています。 特定のおもちゃ、仕事、スポーツ、さらには色について考えるとき、すぐにどの性別が思い浮かびますか? ジェンダーに関する固定観念は私たちの文化に深く根付いており、ジェンダー不平等の根本原因となっています。多くの場合、私たちはそれらに気づいていませんが、女性も男性も、私たち一人ひとりに影響を与えています。ジェンダーに関する固定観念は、研究分野やトレーニング分野を選択したり、専門的なキャリアを追求したり、趣味を選ぶなどの単純な人生の選択をしたりする私たちの能力や願望を制限する可能性があります。固定観念の影響は、一部の人にとってはさらに強いものになる可能性があります。たとえば、障害を持っている人や少数民族的背景を持つ人は、複数の固定観念を経験する可能性があります。私たちはそれぞれ異なるアイデンティティを持っており、その交差点で差別という独特の経験に直面することがあります。ジェンダーに関する固定観念はすべての人の自由を制限します。だからこそ、彼らに質問することが重要です。(Chromeによる自動翻訳から引用)
このキャンペーンは、EUでは「ジェンダー平等戦略2020-2025」の一環として位置づけられています。女性と男性が平等に共存するためにあらゆる多様性を受け入れ、ジェンダーに基づく暴力や固定観念から解放され、自分が選択した人生を追求できるように、動画や画像を使って、バイアスがかかりがちな状況を別の性別で描いています。
たとえば、女性消防士、管理職の軍人など、職業の選択では特にジェンダーバイアスがかかります。消防士といえば男性をイメージする人が多いのですが、幼い女の子がバイアスを持たずに消防士を目指し、逆に男の子が女性が多い職業に就くことが選べるように意識を変えることが必要だと訴えています。
このキャンペーンはFacebook、Instagram、YouTube、Spotifyの4つのソーシャルメディアを中心に、おもに18-29歳の若者をターゲットとして作られました。アンコンシャス・バイアスを払拭するために、Z世代に対して行うソーシャルなキャンペーンとして、大変話題になっています。
日常に隠れたアンコンシャス・バイアスに対しては、社内外両輪で対応を
PEUGEOTやAnnaharのように、顧客やユーザーを開拓し市場を拡大するためにも、アンコンシャス・バイアスの解消を軸にコミュニケーションをすることは非常に有効な手段でしょう。ただ、外向けのコミュニケーションだけにとどまらず、企業の内側に向けたコミュニケーションに関しても同時に必要になる視点であることは言うまでもないでしょう。例えば、従業員の男女比や管理職の女性の割合、男性の育休取得率といった課題が挙げられます。そのためにはマーケティング施策のみならず広報活動においても一貫した日々の情報発信が必要とされていきます。
私たちインフォバーンは、それぞれの企業の強みをもとに情報の整理を行い、アンコンシャス・バイアスをはじめとするテーマの日々の情報発信のお手伝いをいたします。お気軽にご相談ください。
Illustration by Getty Images