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第一生命「ミラシル」はCXデザイン戦略の柱。オウンドメディアを活用する戦略と、その運営方法とは?【セミナーレポート】

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2023年10月27日に、第一生命保険株式会社(以下、第一生命)のオウンドメディア「ミラシル」をテーマに、統括担当の木村剛徳さんをお招きし、セミナーを開催しました。

インフォバーンが運営を支援している「ミラシル」は、第一生命が掲げる「CX(カスタマー・エクスペリエンス)デザイン戦略」の柱として、2021年12月にスタートしました。事業を通じて蓄積してきた知見をもとに、オンライン上でもオフラインと同じように高い顧客体験を提供するべく運営されています。

果たして顧客の体験価値向上に対して、オウンドメディアはどのように活用できるのか。セミナー当日の内容をお届けします。

「CXデザイン戦略」の軸をオウンドメディアが担う

西原:本日は第一生命の木村さんをお迎えして、第一生命「ミラシル」の取り組みについてお話をうかがってまいります。それでは、木村さんから自己紹介をお願いいたします。

木村:第一生命のコミュニケーションデザイン部に所属しております、木村剛徳と申します。入社は2007年で、グループ会社でシステム開発業務を5年ほど、本社で広告宣伝業務を7年ほど担当していました。その後、大学院に2年間行きまして、2021年から「ミラシル」の開発、運営に携わっています。本日はよろしくお願いいたします。

▲「ミラシル」サイトより(2024年1月時点)

西原:よろしくお願いいたします。私は2014年にインフォバーンに入社しました。Webディレクターを経て、現在はクライアント企業のブランディングやDXのプロジェクトで、プロジェクトマネージャーを担当しています。「ミラシル」にも、インフォバーン側のプロジェクトマネージャーとして携わっています。

それでは最初に、そもそも本題である「ミラシル」というオウンドメディアについて、木村さんからご紹介いただきます。

木村:はい。2021年度に3カ年計画として立てた、中期経営計画における「CXデザイン戦略」も交えてお話しします。

当時はコロナ禍の真っただなかで、オンラインでのコミュニケーションが一般化する一方で、リアルでのお客さまとの接点が取りづらくなっているという背景がありました。当社の事業においても、お客さまとの情報格差の縮小や、従来型の標準的なサービスモデルの不適合に対する是正とともに、世の中の「つながり・支え合い」への貢献という観点が、これから重要であると考えました。そのなかにあって、当社がお客さまから共感され、選ばれ続ける存在であり続けるために、「お客さまの体験価値」に軸足を置いたのが「CXデザイン戦略」です。

従来はお客さまのライフイベントを起点とした接点が主でしたが、オンラインでの接点を確立したうえで、「保障」「資産形成・承継」「健康・医療」「つながり・絆」という4つの体験価値を中心にすえ、最適な商品・サービスを、最適なタイミング、最適なチャネルで提供し、お客さまから選ばれる保険グループを目指そうという戦略です。

その戦略基盤として、CXデザインシステムの稼働を開始しました。これは当社版OMO(Online merges with Offline/オンラインとオフラインの融合)に向けて、機能を3つの階層に分けて構成しているものです。

最下段の三層目は、あらゆる接点データをホームクラウド上のデータレイクに統合して、分析する層です。真ん中の二層目は、マーケティング・シナリオの層で、三層目のデータ分析結果に基づいて、お客さまの体験価値向上をサポートするシナリオを設計します。最上段の一層目は、具体的に4つの体験価値をお届けする情報、サービス、コンテンツの層で、そのインターフェースの一つが「ミラシル」というわけです。「お客さまのライフデザインや未来の道しるべになりたい」という思いから、名づけました。

▲当日資料より、「CXデザインシステム」の図

「ミラシル」はオウンドメディアなので、誰でも閲覧できるWebサイトの一つではありますが、この三層構造に基づいて設計されたサイトである点が特徴になっています。

「ミラシル」では、4つの体験価値を「保険」「お金」「健康」「人と暮らし」という言葉に置き換えたうえで、単に保険に関する情報だけではなく、例えば「健康」という観点で「サウナでととのうためのポイント」を紹介する記事を掲載したり、「人と暮らし」という観点で「おすすめの趣味を診断してくれるコンテンツ」を掲載したりするなど、幅広い情報を提供しています。また、キャンペーン情報や地域の飲食店のクーポンなども配信していたり、VTuberを起用したイベントを実施するなど、お客さまに楽しんでいただけるようなコンテンツづくりに励んでいます。

加えて「ミラシル」には、もう一つの顔があります。当社では、営業職員のことを「生涯設計デザイナー」と呼んでいますが、生涯設計デザイナー一人ひとりが、「ミラシル」でオリジナルページを持っています。自身のプロフィール、連絡先などを掲載しているほか、ブログのような形式で自らメッセージを発信することで、お客さまと直接的につながることができるものです。拠点ごとに独自のキャンペーンやイベントも実施でき、それぞれの地域に根ざした発信を行うことも可能です。

「ミラシル」を通じての体験設計の前提として、お客さま一人ひとりを個として深く認識する必要があると考えており、そのためにはまずミラシルの会員になっていただくことが重要となります。そのフックとして、イベントやキャンペーンのお申し込みは会員登録を条件としています。

全体のプロセスとしては、まずはお客さまにコンテンツを提供することで、会員になっていただくとともに、マーケティング・オートメーションによって回遊や来訪をうながしています。その回遊や各種コンテンツの閲覧に基づく興味・関心事項、あるいはお客さまの属性などが蓄積され、そのデータを活用したパーソナライズコミュニケーションを通じて、お客さまの理解の深化につなげています。

マーケティング・オートメーションの一例として、スコアリングロジックによるステップメールをご紹介します。「ミラシル」では、パーソナライズコミュニケーションを通じてリードの区分がリアルタイムで変化するよう設計しています。初めから保険に関心が高い方は少ないので、まずは関係構築としてライトな記事を読んでいただいたり、キャンペーンに応募していただくことでミラシルを楽しんでいただき、お客さまへのリードが高まったと判定されたタイミングで、保険に関する記事をメールで配信し、保険のご提案をする、という流れです。

円滑なオウンドメディア運営を推進する体制づくり

西原:ここからは少し具体的なお話に入ります。ミラシルがどのような体制で運営されているのかについてご紹介いただけますか。

木村:全体管理は私を含めた2名で担当していて、私の担当領域はコンテンツ制作に関すること、集客施策やSNSでの発信が中心です。メンバーは全員専任ではなく兼任の形ですが、各領域に1名から3名ほど担当者がいます。

西原:全体としては、かなりの人数の方が関わってらっしゃいますね。

木村:そうですね。やはりコンテンツ制作には時間がかかりますし、チェックも大変ですので、コンテンツチェックは他のメンバーもアサインしながら分担して行っています。

西原:パートナーであるインフォバーン側の体制としては、プロジェクトマネージャーの西原が全体管理をし、その上に統括のメンバーが1名います。コンテンツ制作については、戦略・運用方針を決定するメンバーが2名、制作の実作業を担当するメンバーが11名いて、他にも校閲会社の方など外部のパートナー様もいます。コンテンツ制作だけでなく、データ分析、レポーティング、ユーザーインタビューといった業務も、われわれが担当しております。

▲当日資料より、インフォバーン側の運営体制図(2023年11月時点)

このようにかなり多くの人数が関わっているプロジェクトですので、円滑に運営するだけでも簡単ではないと思いますし、社内外の多くのステークホルダーにプロジェクトの目的や意義を理解して頂くのは簡単ではないと思います。木村さんは社内の他のメンバーにどのように説明されていますか。特に費用対効果などの説明を社内から求められたときに、心がけてることがあれば教えてください。

木村:保険というのは無形商材で、お客さまも長期的に検討するものだと認識しています。「ミラシル」では、保険云々ではなく、まず「ミラシル」自体を知っていただくこと、楽しんでいただいたりお役に立つ情報をお届けしたりすることが重要だと考えています。

「ミラシル」では保険に関するコンテンツも提供しているので、会員登録のきっかけ、「ミラシル」への来訪頻度、各コンテンツの閲覧数などの分析に加え、「ミラシル」を訪れた人が実際にどのくらい当社の保険に加入いただいているかも分析しています。

そうした取り組みを2年弱ほど続けているなかで、徐々に第一生命におけるオウンドメディアのポジションが確立しつつあって、オフィシャルHPを含めた当社サイト全体における「ミラシル」の比重がかなりを高くなってきています。

西原:こうした説明は、役員含めた上長のみなさま、あるいは担当メンバーのみなさまそれぞれにご説明されているのでしょうか。

木村:はい。定期的に経営層に報告しています。達成できたことだけでなく、できなかったことや課題、今後取り組んでいきたいことも報告をするようにしています。課題を悪いこととせずに、それに対する打ち手をみんなで前向きに考えて検討し、実行に移して振り返る、というプロセスがすごく大事だと考えています。

担当者間でも、よくミーティングをしています。数字的な実績の話をするだけでなく、「こういうことをやってみたい」と気軽に話せる場として、みんなが自由に意見できる空気をつくることも私の役目だと思っています。CXデザイン戦略はベースとして大事にしながらも、その軸の中で自由闊達に出る意見というのが、良いものをつくりあげる素地になると思っていますので。

▲当日の木村さん

西原:木村さんがオープンに議論できる空気づくりを心がけているのは、パートナーであるわれわれも感じております。その期待に応えていかなければと常々思っています。

運営フロー構築への試行錯誤から、ネクストアクションへ

西原:話題を変えて、プランニング面、コンテンツ制作面で心がけていることはありますか。

木村:プランニング面でいうと、コンテンツが目的に照らして妥当かどうか、という点は細かくチェックしています。人を集めるためのコンテンツなのか、保険を訴求するためのコンテンツなのか。あるいは医療保険、個人年金保険、学資保険などいろいろな商材があるなかで、それぞれの商品とターゲットがズレていないか。そこはよく確認しますし、特定のコンテンツに偏らないように気を配っています。

当初は広告効果やSEO施策の成果を大事にしていましたし、今でもそれは大切にしていますが、技術的な観点だけでなく、「体験価値の提供」に照らして、ユーザーにとって役に立つコンテンツか、ためになるか、楽しんでもらえるか、見て良かったと思ってもらえるか、という観点をより重視しています。

西原:インフォバーンとしても制作する際に考慮すべき要素は多いですが、第一生命様側のフローとしても審査・チェック体制をすごく厳密にされていますよね。

木村:第一生命としてオフィシャルに提供するコンテンツなので、当然品質は最も重視するべき点の1つです。コンプライアンス部門によるチェックに加え、校閲を入れて表記の揺れがないか、エビデンスは確かかなど、点検すべきポイントのチェックは重視しています。それと、コンテンツをアップする際のCMS入力もわれわれが担当して行っておりますので、やりやすいフォーマットになるよう、インフォバーンさんにご相談して整えていただいています。おかげさまで、この辺りもスムーズにできるようになってきています。

西原:「ミラシル」は、Web上で閲覧されるコンテンツというだけではなく、保険商品をご紹介する担当者が案内する資料としても使っていただくことを想定しています。そのため、保険商品にするのと同等の審査を、コンテンツに対しても実施いただいております。われわれとしても体制を組み替えて、フローを調整し、ドキュメントを整理し、ツールを導入し、社内の体制を……と試行錯誤してきました。その結果、かなり多くの人数が関わるようになりましたが、今は安定して納品できる体制になってきたかなと思います。

そうしてオウンドメディアを2年弱ほど運用されてきましたが、得られた成果としてはどのような点が挙げられますか。

木村:SEO施策や集客手法を確立しつつ、コンテンツの本数も増えてきて、当社サイト全般でも一定の地位を占めるようになってきましたし、多くの方に会員登録していただいています。

資料請求や保険の成約などのネクストアクションにつながる土台ができて、会員の方にインタビューをしたり、定量的なアンケートをしたりすることも、徐々にですができているので、今はより高いレベルでの改善を図っていける段階にあると思っています。

▲当日の木村さん(右)/西原(左)

西原:運用体制が整備されていく過程でヒット記事も少しずつ出てきて、ラジオ番組で取り上げられた記事もありました。単純に記事を読んでもらうこと以外の効果も、少しずつ出てきているかなと思います。

われわれはよく、第一生命さんから「メディアパートナー」という呼称でご紹介いただくのですが、メディアパートナーということは、コンテンツ制作だけではなくて、メディアとしての成長も考えるべき役割を担っているんだととらえております。

今は新たなコンテンツのパターンだったり、ユーザーニーズを把握するためのインタビューだったりと、初めての施策にもいくつかトライさせていただいています。そうした提案ができるようになったことも、メディアパートナーとしては一つの成果だと感じますし、今後はそうした施策をきちんと体験価値の向上につなげていくようにしていきたいですね。 

それでは最後に、今後、取り組んでいきたいことについてお聞かせください。

木村:大きくは4つありまして、まず1つはチャレンジングなコンテンツをつくっていくことです。SEOコンテンツや集客用のコンテンツについては、ある程度やり方もわかってきましたが、何かぶっ飛んだコンテンツもあったら面白いんじゃないかなと。手法論ではなく、「いかにユーザーのためになるか」という視点で考えたときに、そうしたことにもトライできる段階になってきたと思っています。

2つ目は、ビジネス貢献度の可視化です。どの記事から資料請求がどのぐらい来ているのか、そこからどのぐらい実際の成約につながっているのか。その一連の分析としてはより力を入れていきたいです。

3つ目が、コンテンツ制作の早期化です。現状はかなり長い時間かけてコンテンツをつくっている実態があります。大きく短縮できるものではないにせよ、時流に合ったコンテンツを出していくためにも、スピーディーなコンテンツ制作、あるいは先を見越した制作にも取り組んでいきたいです。

最後の4点目が分析です。2点目とも重なりますが、読了率、滞在時間、スクロール率、コンバージョン数など、さまざまな指標があるなかで、もっとマクロな視点とミクロな視点を組み合わせた分析と、インタビューなどを通じた定性的な分析ができれば、改善に向けた示唆がより出てくるのかなと思います。そこから、チャレンジコンテンツや早期化の取り組みにもつなげていきたいです。

西原:ありがとうございます。第一生命様からは「もっと尖ったものを出してください」とフィードバックをいただくこともありまして、こうしたフィードバックをいただくということは、オウンドメディアの運営に携わるメディアパートナーにとって、とてもありがたいお話です。これからはわれわれもどうその一歩を踏み出して、体験価値を向上させていくかにコミットしていきたいです。

木村:正直なところ、安定していないとチャレンジもなかなか難しいと思いますが、コンテンツがたくさん積み上がってきているからこそ、飛び地にチャレンジしてみたいという欲が出てきたのだと思います。

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。