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「メディア運用」を通じて学術研究を咀嚼し、わかりやすく伝える【『地域想合研究室.note』インタビュー】前編

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オウンドメディアやソーシャルメディアなど、企業が自ら「メディア」を持つことはごく一般的になりました。その目的のベースには、記事や動画の掲載、SNS投稿を通じてユーザーの興味を引き、認知獲得や評判形成を促すことがあります。

しかし、企業がメディアを持つ意義はそれだけでしょうか。そうしたコンテンツを生み出すまでのプロセスには、リサーチ、アイデア出し、企画立案から、取材や執筆依頼、編集まで、いくつものステップがあります。

インフォバーンでは20年以上にわたり、オウンドメディア構築・運用を軸とした企業のマーケティング支援、コーポレートコミュニケーション支援を行ってきました。そのなかで、コンテンツ自体による成果のみならず、メディア運用の「プロセスから得られる価値」にも注目し、その最大化を図っております。

今回、具体的に運用プロセスからどのような価値が見出せるのかを探るべく、『地域想合研究室.note』を運営するNTTアーバンソリューションズ総合研究所の今中啓太さん、齊藤達郎さんと、その運用支援を行っている小野寺諒朔さん、春口滉平さんにお話をうかがいました(前編/後編はこちら)。


※本記事の基となったインタビューは、2023年7月から8月にかけて行われました。

研究を広めるために始まった『地域想合研究室.note

――まず『地域想合研究室.note』を立ち上げた経緯をお聞かせいただけますか。

今中啓太(以下、今中):コロナ禍に入る前の2015年からの5年間、NTT都市開発、東京大学、建築雑誌である『新建築』の三者で、共同研究をしていたんです。

もともとは、建築家で東京大学特別教授でもある隈研吾さんが、ロンドンのAAスクールにいらした小渕祐介さんを東大に招へいされて、共同でAdvanced Design Studies (T_ADS)というスタジオを開かれて研究をされていました。ただ、どうしてもアカデミックの研究だけでは、不動産の現況がわからないということで、『新建築』を発行している新建築社の吉田信之社長を介して、NTT都市開発に共同研究のお誘いをいただきました。

不動産価値というと、駅からの距離(近さ)、築年数の浅さ、フロア面積の広さ、設備の最新さ、といったスペックだけで価値の8~9割が決まっていく。本当にそれだけなら、価値を生み出せる場所もどんどん限られていきます。でも、それだけじゃないだろう、それ以外の価値を探求しよう、という想いから、ゼロベースで研究がスタートしました。

中心になったのは、T_ADSに在籍されていた木内俊克先生(現・京都工芸繊維大学特任教授)で、NTT都市開発からも毎年5人ほど若い手社員を出して一緒に研究していました。それを毎年、本編と資料編という形で研究成果を冊子にまとめていたんですが、特に外向けの発信はしていませんでした。せっかく研究したのだから、もう少し役立てたい。とはいえ、書籍にして出版流通させようと思ったら、再編集しないといけませんし、部数もそれなりに刷る必要があり、NTT都市開発というディベロッパーが出版する意義と費用対効果という面が明確にできなかった。

そうしたなかで、2021年7月に組織体制が変わり、NTTアーバンソリューションズ総合研究所(以下、NTTUS総研)ができました。NTTUS総研は、街づくりの研究組織として設立されましたので、そのタイミングでnoteを活用して外向けに発信してみようという機運が上がったんです。われわれだけでは運用できないので、当時『新建築』にいて共同研究から協力してもらっていた小野寺さんに相談したところ、春口さんや福田晃司さん(※ともに運用支援しているメンバー)にもお声かけいただいて、現在の運用体制になりました。

――その共同研究というのは、どういったテーマだったのでしょうか?

小野寺諒朔(以下、小野寺):「間地(まち)」という新しい尺度から、新たな街の価値を浮かび上がらせるというものです。この「間地」というのは、共同研究のなかで見出した尺度でして、駅と駅の間にある、どの駅からも均等に距離があるようなエリアのことです。そうしたエリアは、東京にも200ヶ所ぐらいありまして、実はまだ開発の手が入ってない場所が多いんです。そこには何か注目すべき面白さがあるんじゃないのかという仮説のもと、特に研究の後半では「間地」に着目し進めていました。

NTTアーバンソリューションズ総合研究所『従来の不動産評価では測れない新しい街づくり̶「都市空間生態学」ガイド』p.9より

今中:最初に取りかかったのは、御徒町駅、秋葉原駅、蔵前駅、浅草橋駅という、4つの駅の真ん中にある三筋、小島、鳥越エリアで、われわれは「三小鳥(みこどり)」エリアと名付け研究を始めました。この4つの駅周辺って、それぞれに固有のイメージがありますよね。

実はそのど真ん中に、「おかず横丁」と言われている鳥越商店街や、佐竹商店街という商店街があるんです。三小鳥エリア周辺には、家族経営の工場がかなりあり、朝にご飯だけ炊いておいて、昼休みにおかず横丁でおかずを買って、自宅で昼ご飯を食べてからまた仕事に戻るような生活をされている方がいます。その商店街は長い歴史があって、今もちゃんと機能しているんですけど、だんだんと家内工業みたいなものが廃れていくなかで、存続が難しい面も出てきている。異なる個性のあるエリアの立地および生活の中心にあった商店街が時代の変化によって画一的なものになっていく。そうした位置づけ、人が集まっていた街の魅力について、もう1回見直すことができないかということを考えました。

そこで4つの駅に赤いシェアサイクルを置いて、無料で使ってもらいながら、どこに行ったかをあとでアンケートさせてもらったり、GPSをつけて、回遊ルートや滞留時間のデータを集めたりしました。シェアサイクルが停まったところには何らかの魅力があったんじゃないか。そこを深掘りしていけば、新たな街の指標として見えてくるものがあるんじゃないか。そんな発想から、4つの駅の「間地」から本格的に研究をスタートしました。その後、東池袋から大塚にかけてのエリアでも同様の調査をしました。

――なるほど。その研究成果として毎年、冊子にまとめていたという話がありましたが、それに対する反応はいかがでしたか。

今中:木内先生が中心になって研究自体は進んだのですが、そのアカデミックな内容をうまく咀嚼して第三者に伝えることについては、なかなか力が及ばなかった面があったというのが正直な感想でした。

小野寺:そうですね。私は研究後半の2年ほど、『新建築』の側から参加していたのですが、最後にまとめるときも、書かれた原稿を咀嚼しきれないまま報告書にまとめていたという面はありました。もう少し第三者に伝えられるような形にする必要があると感じたことも、このnoteを始めた理由の一つですね。

――確かに産官学連携とよく言いますが、アカデミアとの連携には、「伝える」という面でもハードルが生まれますよね。そこに共通言語をつくるという作業は、やはり必要になりそうです。

小野寺:そうだと思います。「地域想合研究室.note」には、研究成果のサマリーだけでなく、連載として木内先生によるエッセイも掲載しています。研究のことを振り返りながら、コロナ禍を受けた次の時代に、どういうふうに「街づくり」を考えたらいいかという現在の視点で書いていただきました。最後に出した記事は、研究の立ち上がりから今にいたるまでをインタビュー形式で振り返っていただいています。

「想合」をコンセプトにした「街づくり」メディアに

――実際のnote運用の面では、まずはどこから着手されたのでしょうか?

今中:「NTTUS総研が、こんなことをやっています」とコーポレートサイトに出す事業紹介的なものというより、読み物としてのハードルを低くしたいというのがまずありました。役所の方だけとか、街づくりのプロの人たちだけに向けるのではなく、幅広い人たちにも読んでもらえるようなものにしたい、それがnoteであれば可能ではないかと。

連載記事としては、大きく3本立てで考えました。まずは「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」という連載で、これは先ほど小野寺さんがおっしゃった木内先生によるエッセイです。5年間で制作した10冊の冊子をどういうふうに整理して、伝えていくかを相談した際に、研究から4、5年経過していたうえに、ちょうどコロナ禍もあったので、そのまま出すのではなく、今の視点から伝える形で再編してみましょうと話していましたね。

それと並行して、「〈○○〉と〈まち〉」というインタビュー連載と、「地域のイノベーター見聞録」という連載も進めました。私のほうで以前から街づくりに関連した営みをしている知り合いがたくさんいたので、そうした人たちの想いをインタビューを通じて記事にしてみたいと始めたのがきっかけです。最初に一般社団法人「公共とデザイン」さんにお声かけして、面白く話もうかがえたこともあって、何か地域に対して想いを持っている個人や組織に話を聞いていくという方向もで進めることにしました。

こうした経緯で3本立ての連載として、ミニマルかつスピーディーにnoteで発信しているのが、現在の流れです。

『地域想合研究室.note』より3つの連載紹介

――共同研究プロジェクトから始まったわけですが、アカデミックで得られた知見の発信場所をWebへと移したことで、表現なども変えられたかと思います。そのあたりはいかがでしょうか。

今中:研究としてやっていたときと、やっぱり感覚がちょっと違っていますね。「都市空間生態学」というのが研究のときのテーマでした。都市空間も生態系のようにどんどん変わっていく。それを調査・研究していく、という意味なのですが、ただパッと「都市空間生態学」と聞いても、一般の方にはなんのことかわからないですよね。それも含めてnoteでは、もう少しわかりやすく、いろんな人に興味をもってもらうためにはどういうことをしていくかを考えているので、研究とは視点が違います。

ただ、研究のなかでも、例えば「おかず横丁」で月1でチャーシューをつくって売っている方とか、ずっと発酵のお味噌を売っている方とかにインタビューをして、それも掲載されているんです。そうした、地域で頑張っている人にインタビューしながら、その想いを伝えることをどんどんしていきたいと思っています。

「地域想合研究室」と、「総合(トータル)」ではなく「想合(想い合う)」と名付けているのは、いろんな想いを合わせていけば街づくりにつながっていくんじゃないかという意味を込めています。これはもともと、NTTUS総研の公式HPで「地域想合研究所」というキャッチコピーを使っていたので、その想いを基にしながら、noteはその一室というイメージで「地域想合研究室」としました。

――会社が持っている哲学、研究を経てのみなさんのご経験が、この地域総合研究室noteの土台をつくっているんですね。

春口滉平(以下、春口):実際に最初にnoteの企画を考えていたころの話をすると、やはり5年間の蓄積がこれから新しくメディアを展開するうえでも重要だし、それをまずはどう発信していくかを考えることが根底にありました。その研究からさらに4、5年経っているなかで、現代的なネタにどこまで落とせるかを考える、ということですね。

それに加えて、NTTUS総研の社員の方々に、今どういうことに興味を持って事業に関わられているかをヒアリングしました。すると、トピックの幅がめちゃくちゃ広い……。「NTTUS総研では、こういう仕事をしています」とわかりやすく伝えようと思えば思うほど、ドツボにはまっていく気がしまして。

そもそも「街づくり」というものを考えると、「これだけ多様なことが、街づくりには含まれるんだ」と伝えることのほうが、重要なのではないかと話し合いました。だから、研究してきたことの紹介をしながらも、研究からはみ出て扱えなかったことのフォローとして、現代においてより重要になってきているテーマを拾っていくためのインタビュー企画も同時に走っていく感じになりました。

「街づくり」というイシューを考えるには、複層的な視点が必要だということを、改めてインタビューなどを通して記事化していくことで、NTTUS総研の社内での学びにもつながるんじゃないかということも、どこからか意識していましたね。

メディア運用を通じて共通認識が深まる

――街づくりが、多様なもので成り立っているということを再確認するなかで、メディアを通じたコミュニケーションが、アウトプットだけではなくてインプットの面でも可能性があるということに気づかれたというところはあるんでしょうか。

春口:それはあると思いますね。その方向性を決めたのは、先ほども出た「公共とデザイン」さんに初めにインタビューしたことが大きかったという気がします。まだそのインタビューをしたときは、先ほどの「複数の視点が重要」ということは、話には出ても、その重要性を全員で共通認識していたかというと曖昧な面があった記憶があります。そんなとき、「公共とデザイン」の3人の話を聞くことで、今中さん、齊藤さんにも、インプットによる価値みたいなものを感じていただけたんじゃないかなと思っています。

『地域想合研究室.note』記事「〈わたし〉をいかに生きれるか——公共とデザインに聞く、〈公共〉と〈まち〉」より

齊藤達郎(以下、齊藤):実は私は、そもそも5年間の共同研究には全然関わっていなかったんです。NTTUS総研に入ってnoteに関わるようになってから、5年分の冊子を読んだんですが、正直よくわかりませんでした。みなさんが5年間かけてやってきたものを、簡単には理解できない。これを当時関わった人以外にどう広げてくかを考えると、悩ましいところがあったのは間違いないです。本当にアカデミックな内容なので、それなりの基礎知識がないと、書いてあることは理解できても、実際のところどうなのかという真価はなかなか判断できないんですよ。

もう一つ思ったのは、この研究は都市部に焦点を当てた内容なんですね。それはそれで非常に意味があることですが、実際にNTTUS総研が関わる街づくりは、人口規模の大きいところばかりではなく、10万人以下の街かもしれないし、都市圏であっても人の少ない郊外の場合もある。そうした地域にもこの研究を生かしていけるのかわからないところがありました。

そんななかで、この「公共とデザイン」さんに話を聞いたときに、素早く動いて活動されている方々と、体力がある大きな企業がうまく絡まないと、継続性のある街づくりはできないのではないかと感じました。そこをうまくつなげるポジションをNTTUS総研が担えたらと。研究の成果を何らかのかたちでうまく実践につなげていく。つまり共同研究の結果だけを享受して、それを現在に活かす方法を伝えられればいいのではないかと考え方を変えました。

note全体の話でいけば、本当の街中心、人中心を探りたいというのもありました。NTTUS総研の目指すところとして「人中心」と言っていますし、他の会社でも「街は人が主役」と言ってはいるんですけど、本当にそうなのか。実際は経済合理性が優先して人中心になっていないのではと考えることが多くて。

それと、あるプロジェクトの中にいると、どうしても自分が関わっている範囲の意見しかわからなくなる。例えば、「街の人から話を聞く」と言っても、商店街の代表だとか、街を代表する方を相手にしがちなんですよ。本当にそれだけでいいのかと常々思っていたので、街で小規模ながらも活動されている個人の視点をどんどん取り入れていくことが大事だろうと。個人から話を聞けば聞くほど、何か見えてくるんじゃないかなと思っていました。

――取材を通じて、マインドが揃っていくことはありますよね。今のお話聞いてると、最初の「公共とデザイン」さんへのインタビューは、そういう機会になったのかなと思うんですけど、どうでしょうか?

小野寺:それはありますね。

齊藤:私としては、若い人がちゃんと考えていることが知れたのがいちばん大きかったですね。これはインタビューした人、全員に言えることなんですけど、やっぱり自分なりに「こういう形がいい」というビジョンをみなさんが持っていて、しかも我を通していってしまうと、ただのわがままになることもよくわかっている人たちばかりなんです。個人の想いも大切にしながら、公の場に開いていこうとする取り組みをされているのは、みなさんに共通しているんじゃないかと思います。

それと、「街を良くしよう」という想いは、副次的に生まれていることが多いんだなというのも、みなさんのお話を聞いて思ったところですね。「街づくり」と大上段に構えて頑張っているのではなく「こうなったらいいと思うんだけど、どう?」という感覚で、どんどん進めていっている。それは具体的な言葉として揃ってはいかないんですけど、想いとして共通していると感じますね。インタビューした人は、住んでいる場所も、年齢も、性別も、まったく違う人たちなのに、そうした共通点があると気づけて、面白いですね。

――そうした発見や気づきが生まれるのは、取材に立ち会ったかどうかでも全然違いますよね。

今中:話に出たような方々にインタビューできたのも、もともとは小野寺さんに「編集を手伝ってもらいたい」とお声かけしたことがきっかけです。そこから春口さん、福田さんもご紹介いただいて、非常に心強いなと感じながらスタートを切れました。

僕は最初から、企画広告のプロフェッショナル企業に委託をして、コーディネートしてもらって運用していくことはしたくなかった。そちらのほうがラクですし、リスクを伴いづらいと想いますが、自分事としてやるにはもっと同じ目線でいろんな相談をしながら進められる人がいいなと思っていました。

実際に一緒にやってきてみて、バリエーションがどんどんどんどん更新されているんですね。初めに決めたことを年間通してやり続けるというよりも、どんどん進化していっている。それこそ生態学じゃないですけれど、noteそのものも進化していけるのは、最初にこういうチームを組めたからですし、良かったなと思っています。

小野寺:編集サイドから見ると、やはりお二人が常にどのインタビューにも参加されますし、同じ目線で話をする分、今中さんも齊藤さんも自分事にせざるをえなかったっていうのはあると思います。もしこのメディアがうまくいっているなら、それをお二人がフルコミットされているからなのは、間違いないですね。

――この「地域総合研究室note」を始められて、現時点でやってみて良かったこと、これからやってみたいこととして、何があるでしょうか。

今中:やっぱり街づくりは、いろんな人がどういう想いを持ってつくっていくかが大事だと再認識しました。そういう意味では、メディア運用を通じて非常に興味深い新たなお話を聞けることで、やっぱり視野も人のネットワークも広がっていっているので、それがいちばんの成果ですね。

一度お会いしてお話をうかがうことで、何かあったときにまたご連絡して、続編的につながることもあると思います。NTTUS総研自体は小さな会社なので、少ない人数でもいろんな人につながることは大きな効果ですし、これからも、ますますもっと幅広く、「それって街にどう関係あるの?」みたいなジャンルの方であっても、面白い方を探していきたいなというふうに今、思っています。

▲左:齊藤達郎さん/右:今中啓太さん

――やめる理由は一つもないということですね。

今中:今のところはないですね。周りから見てると、何か趣味でやってんじゃないかと思われることもあるかもしれませんが、何かしらプラスのフィードバックをもたらせると思ってますし、つながりも生まれると思っているので、やめる理由はないです。

後編記事につづく

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。