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自ら「メディア」として取材することの価値とは?【『地域想合研究室.note』インタビュー後編】

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「メディア」は、単にコンテンツを掲載するだけの器ではありません。インフォバーンでは、20年以上にわたり培った企業のオウンドメディア運用の経験から、リサーチやインタビューを通して生まれる「思いがけないインプット」や「人とのつながり」といったものに、企業がメディアを持つ意義や価値を見出しています。

実際にオウンドメディアを運営されている方々は、果たしてどのような想いや考えを持っているのか。前編記事に続き、『地域想合研究室.note』を運営するNTTアーバンソリューションズ総合研究所(以下、NTTUS総研)の今中啓太さん、齊藤達郎さんと、その運用支援を行っている小野寺諒朔さん、春口滉平さんにうかがったお話をお届けします(後編/前編記事はこちら)。


※本記事の基となったインタビューは、2023年7月から8月にかけて行われました。

街づくりのプロ‟以外”に目を向けた連載シリーズ

――前回、『地域想合研究室.note』設立の経緯や運用方法についてうかがいましたが、さらに掘り下げてお尋ねしていきます。「あの人に聞く、〈○○〉と〈まち〉」という連載シリーズでは、記事で取り上げる方の顔ぶれが実に多様ですよね。例えば、スケートボーダーだったり、政治学者だったり、「街づくり」からはなかなかたどり着かないような方々だと感じますが、人選はどういうふうにされているのでしょうか。

春口滉平(以下、春口):人選は、編集会議でキーワードを出し合いつつ、その適任は誰かを考えるのと、NTTUS総研が実務で関わられている方の中から提案するという両面ですね。初回から第3回までは、われわれから提案しました。「話題づくり」「トレンド」「社会課題」という大きく三つの軸で考えながら候補を挙げています。

最初のころは「読者を絞っては?」という意見もありましたし、僕らとしても読者のペルソナを最初に決めたほうがやりやすいとは思ったんですけど、「街づくり」という幅広い視点が求められるものに対して、読者を固定化させるのは違和感もありました。だから、「〈○○〉と〈まち〉」の連載に関しては、記事ごとに何かトピックを絞って、その界隈のコミュニティにいる方たちに刺さればいいと考えています。まだ実現してはいないんですけど、最初に「ギャルとまち」というのも考えていましたね。

齊藤達郎(以下、齊藤):最初から、ギャル雑誌の編集長や、第2回に出ていただいたスケーターの小林万里さんを候補として出してくれていましたよね。「誰に向けるんだ?」というのは社内的にも求められることではありましたけど、街にはいろんな価値観の人がいるんだから「誰々向け」ということでもないんじゃないかなと。だから、小野寺さん、春口さん、福田さんには「できるだけバリエーションを出してほしい」とお願いしていました。とはいえ、いきなり「ギャル雑誌の編集長はどうですか?」という提案が出てくるとは思っていなかったので(笑)、その時点で「これは何か面白くなりそうだな」と感じていました。

『地域想合研究室.note』記事「スケートボードが紡いできた自由、都市の記録とコミュニティ——Diaspora skateboards・小林万里さんに聞く、〈スケートボード〉と〈まち〉」より

――実際に、連載のラインナップを見ると、本当にバラエティーがありますよね。

今中啓太(以下、今中)街づくりのプロや専門家に聞いていないからこそ、思いもよらぬ形で参考になることも多いんです。例えばスケボーの話だと、駅前にスケートボードパークをつくるプロジェクトの真面目な会議の場でも「小林万里さんに話を聞いたら、こんなことをおっしゃっていました」と説明すると、みんなが興味を持ちました。

通常の会議では話題にすらならないようなことも、noteの連載で話を聞いているからこそ話題にすることができ、話を膨らませることができたりします。そうした形で何かしら気づきは与えられると思うんですよ。スケートボードパークも、「流行りだから」でつくるんじゃなくて、スケーターの想いや文化的背景を理解することで、つくることに対する理由づけが自分たちの中に生まれるんじゃないかと。そういった意味でも、雑多なメディアにして良かったと思いますね。

春口:街に暮らす当事者の声をどうやって聞くかは、いちばん考えていることです。例えば政治学者の岡野八代さんには、第3回の「〈ケア〉と〈まち〉」というテーマでお話をうかがったんですが、岡野さんが実際に京都で暮らされているなかで、京都の街づくりに対してどう思っているかを具体的に掘り下げていくインタビューになりました。

そうした視点は、第1回で「公共とデザイン」さんにインタビューをした際に、住民自身がどうやって街づくりの当事者だと思えるか、どう住民の声を拾い上げていくか、というお話をうかがえたことで、より編集部内でもインタビューの方針がハッキリした気がします。

『地域想合研究室.note』記事「だれのための「まち」なのか——政治学者・岡野八代さんに聞く、〈ケア〉と〈まち〉」より

――単にキーワードの解説ではなく、個人に深く聞いてみたことによって、初めてわかることもありましたか?

今中大いにありますね。先ほどの岡野さんとお話をしたとき、街の人には作り手やデベロッパー側の考えは伝わっていないし、誤解されていることもあるんだとあらためて感じました。岡野さんは京都に対する強い想いを持っておられる方です。京都市行政のほうがどんどん外資系ホテルに土地を売りさばいていて、そこに住民が全く関与できてない、それが非常に不満だということをおっしゃっていました。

あえて弁解するなら、京都市としては土地を売っているわけではなく、なんとか税収を増やすために土地の活用を考えているつもりなんです。ただ、どうしても税収を増やそうとしたり事業者を集めようとしたら、高級ホテルのようなハイエンドなものを目指すことになるので、どうしても地元住民が参加できるような施設にはならないんですよね。だから、住民のために全然なっていないと思われることは、非常に理解できます。

われわれとしては耳の痛くなる部分もあるインタビュー記事でしたが、実際の声としては受け止めなければいけない。そういった意味で印象に強く残りました。

――おそらく岡野先生が批判的な視点で語られるであろうことは、取材前からも想定できるわけじゃないですか。企業のメディアが、基本的に企業を好きになってもらう、理解をしてもらうという思惑で使われることが多いなかで、岡野先生にインタビューする事に対して、抵抗なかったんですか。

今中まったく抵抗感がなかったわけではないです。ただ、そういう方の意見こそ聞いてみたいという気持ちがありましたし、そもそも「ケア」をベースに、岡野八代さんという政治学者が街をどう見ているかについて、ぜひ知りたいと思っていました。そういう意味では、提案された方に対して「この人は駄目です」と言うことは一切ないですね。

――企業による一方通行の発信だと、自社に都合の良いことしか言わないこと多いですが、こうして立場の違う人の話を聞くことによって、内省したり自己批判したりできる機能も、メディアにはあるのかなと思いました。

今中それは感じますね。先ほどお話に出た、スケーターの小林万里さんに話を聞けたことによって、個人的に抱いていた疑問も解けました。例えば、夜に家の近所でガーガーと4、5人で滑っている人たちを見かけて、迷惑だなと思ったことがあったんです。そういうマナーに関して、スケートボーダー当事者である小林さんから、どういうふうに思っているのかを聞けたのは非常に良かった。

スケートボードパークの建設についても、スケーターのみなさんは喜んでいるんだろうと勝手に思っていたんですが、実はそうした決められたスペースの中で滑ることは、本来のスケートボードの精神とは違うんだそうです。アスリートとして練習するにはよくても、本当は街中をもっともっと自由に滑りたいんだと。そうしたお話も、非常に印象的でした。

――ヒアリングというよりは対話になってるようなインタビューなんでしょうね。

齊藤そういった面はあると思います。結局、街にはたくさんの人が住んでいて、個々人にとって、その街の良さはあると思うんですけど、全員が全員、満足する街は絶対にないと思うんですよね。でも、だからといって良い街にすることを諦めたり、思考停止してしまったりするのはもったいない。

結局、どうにか進めていくためには、たくさん話をして落としどころを探るしかないと思うんですよ。そういった意味で、メディア運用を通じていろいろな視点の方の話を聞けることは、自分の中の引き出しを増やすことにもつながりますし、実際にこういう人がいると第三者に紹介できるようにもなります。

「取材」という場がもたらす新たな発見とつながり

――「地域のイノベーター見聞録」の連載のほうは、具体的な街づくりに近い領域の話を書かれている印象を受けておりましたが、いかがでしょうか。

今中:「地域のイノベーター見聞録」に関しては、広い意味で「街づくり」に関わる個人の方に話を聞いていますね。「街づくり」と言っても大げさなものではなく、小さなお店とか、本当に個人レベルで地域で、面白そうなことをやっている方を対象にしています。

第5回で出てくるお話は、表向きは第一生命さんですが、企業というよりも「堀雅木」さんという個人にインタビューした感覚なんです。

堀さんは、第一生命の社員ですが、SETAGAYA Qs-GARDENという街づくりのプロジェクトを推進されているんです。以前から仕事で付き合いがあって、木樽でビールを作るワークショップをやるとうかがったので、なぜ生命保険会社が街づくりをするのか、どういうプロセスでやってきたのか、クラフトビールづくりの位置づけはどうなっているのか、みたいな普段は聞けないことを、個人的に聞きにいった感じです。

他にも、無人駅になって久しい、寂れていっている福井県加賀市の駅間に、いきなり出店した大阪のパン屋さんのお話とか、岐阜県美濃加茂市に移住して、その地域の中でカレー屋さんを始めた方のお話とか、一個人がどういう想いで街について、街づくりについて考えているかを切り口に、いろいろ話を聞いています。

『地域想合研究室.note』記事「コミュニティの豊かさこそがwell-being向上につながる。「第一生命の歴史が込められた多世代が集うまちづくり」|地域のイノベーター見聞録 vol.5

齊藤基本的にNTTUS総研がお付き合いするところは企業や自治体が多い。そうなると打ち合わせする方々が、個人で思ってることよりも、会社としてどうなんだっていうことがメインにはなってしまうんですよね。そういう仕事としての打ち合わせじゃなくて、その関わっている人がどういった思いで、取り組みを進めているのか。会社としての事業であったり、自治体としてやらなきゃいけないこと以外に、個人としてどういう思いを持ってるのか。そこに焦点を当てて聞いていることが多いです。

小野寺諒朔(以下、小野寺):「地域のイノベーター見聞録」は、「個々人の活動が街づくりに具体的につながっているかもしれない」というコンセプトなので、編集視点では、個人の顔が見える紹介をしたいと考えました。それで書き手の顔が見えるようにと、今中さんと齊藤さんが取材して書かれているものが多いんです。

特にNTTUS総研には、個人で何か街に対してアクションを起こそうとされている方がお知り合いに多いので、実際に社員が見聞きしたことを伝えるというのを強く押し出していきたくて、タイトルも「見聞録」としました。

――社会的な視点から対象を決めてお話を聞く「〈○○〉と〈まち〉」に対して、この「地域のイノベーター見聞録」は、みなさんの日常的なお付き合いのなかで出会った人たちに、お仕事ではない文脈でお話を聞く場として機能されているイメージですね。

小野寺:まさにその形を目指しています。ただし、編集者の側から見ていると、知り合いであっても、仕事の付き合いでは聞き得ないような想いを知る可能性もありますし、そこから仕事につながっていけそうな面はあるように思いますね。

今中そうですね。お話を聞くことで、直接的に仕事につながるかどうかは本当にケースバイケースですし、初めからそこを目指してはいませんけど、「街づくり」という大きなくくりのなかでは、いろいろなことが起こりえるので。そこでのつながりから、「ちょっとこういうことがあるんだけど、一緒に考えてもらえませんか」ということは、今後生まれてくるかもしれません。

――企業のオウンドメディアの活用として、一般的には会社やサービスの認知を獲得する狙いがあると思いますが、「地域想合研究室.note」では、それよりも運用するプロセス自体に重きを置かれている印象を受けるのですが、いかがでしょうか。

齊藤コンテンツ制作を通して会社の知名度を上げようという発想はあまりないです。会社自体が出来たのが2021年7月ですし、それだけを目的にこのメディアをつくったわけではないですしね。もちろん人に読んでもらうために記事を公開しているんですけど、実際には半分以上、何かしら自分たちの業務にプラスの影響が出ればいいと思っているところがあります。だから、企業がSNSなどで情報発信するのとは、少し意味合いが違うかもしれません。

春口:今のお話は編集の相談を受けた初期からうかがっていました。だから、僕たちも今のところPV数を求められることもほとんどなくて、「この記事はこれくらい読まれています」といった共有をする程度です。特に「〈◯◯〉と〈まち〉」の企画では、インタビューを通しての学びがあれば、NTTUS総研の街づくりのプロジェクトに間接的に関われるんじゃないかと考えながら、企画しています。

「メディア」として振る舞えるからこそ得られる効用

――お話をうかがうなかで、「不動産会社」と「街づくり会社」の違いを少し感じます。たとえば、NTT都市開発さんのようないわゆる不動産デベロッパーであれば、大きい建物を建てて、いかに高く売るか、空室率を下げるか、テナント入れるか、というビジネスだと思います。それに対して「街づくり」は、もちろん建物も大事なんですけど、ソフトパワーも含めてかなり広い視点が求められる事業なので、それがnoteの運営にも影響しているのかなと。

今中まさにおっしゃる通りで、例えば、マンション作って入居率を上げたいということであれば、別にこうしたメディアは必要ないですね。もともとエリアや家賃相場を決めて建てますので、自然とターゲットが絞られていますよね。あとはその地域は医療が充実しているとか、学校がたくさんあって教育水準が高いとか、何か特徴的なところを対象となる人向けに訴求すればいい。要するに、広く読まれるメディアを運用するより、ピンポイントに宣伝するほうが効率が良いんです。

それが、街づくりとなると、何をどう訴えればいいのかという正解がないんですよね。明確にこの人に興味をもってもらえればいいということではないし、では自治体に対して評判が良ければいいかというと、大体そういうものは住民の方に受け入れてもらえないんです。自治体が出している計画やマスタープランの課題感を見ても、それを見た住民の方にとっては話が広すぎて自分事にならないので、まったく興味をもってもらえないんですよ。「これこれこうだから、道路を整備します」と言っても、住民としては「それよりもうちの前の道路の草刈りをしてくれ」と思うのが本音です。そのギャップを考慮しながら、街づくりは進めていかないといけません。それは、どっちの意見が良い悪いとか、大事か大事じゃないかという話じゃないんです。

だから『地域想合研究室.note』でやっているように、いろんな人の話を聞いて引き出しをどんどん増やしていくとか、街への想いを持って活動されている方の事例を自分たちの中に体験として増やしていくほうが、いろんな場面で参考になるし、落としどころを探る手助けになると思って活動しています。

――事業につながるという面では遠回りに見えても、専門家も非専門家も含めて、多様な個人の話を聞くことが、結局は本当に参考になる知見が得られる実感があるということですね。

齊藤もちろん実際に話を聞いているのは、われわれ編集メンバーなのですが、それを「こんな話があった」と社内で共有することで、考え方の選択肢を増やしたり、新たな視点を獲得したりできる。そういうところで、参考になった話はたくさんありますね。

左:齊藤達郎さん/右:今中啓太さん

――考え方の選択肢を増やすだけなら、本を読んだり、セミナーに参加したりすることでも、得られる気はしますが、何か「メディアをやられているからこそ」と感じられることはありますか。

齊藤もちろん、本を読んだり講演を聞いたりすることも大事です。ただ、特に講演は時間の制約がありますし、掲げられたテーマに対する回答はある程度は出てきても、どうしても端折られた話になるので、自分にとっての具体的な参考事例とするまでは聞き込めないという感覚があります。本も書き手側、つくり手側の編集が入っているぶん、意図的に誘導されているところが出てきますし、双方向性はないので、どうしても本当のところはどうなのか聞きたいという気持ちは浮かんできますよね。

そういった意味で、取材記事を表に出すということ以上に、制作するプロセスのなかで、実際に取り組んでいる人の話をに直接聞けるということはメディアをやっているからこそ得られる効果だと思います。表に出す部分よりも、取材先で聞いたオフレコ話とか、青臭いので書かないでくれといった話に、その人の真の想いが出ていたりするので、それを知ることができるのは価値があるし、それはやっぱり本を読んでも、セミナーに参加しても、SNSを眺めていても、得られない情報ですね。

もう一つ、媒体を企業で持つことの意味として、昔は広報活動として会社の営業に資するもの、という認識があったと思うんですけど、私個人としては、それよりも「話を聞きやすくなる」という効果が大きいと思っています。

「地域想合研究室.noteというメディアで紹介するので、話を聞かせてください」と言えば、案外すんなり話をしていただけますが、何もなしに「NTTUS総研です。こういう取り組みのリサーチとして、話を聞かせてください」と依頼すると、どうしても取材対象の方が、会社として話を聞きに来るんだから、具体的な事業やプロジェクトがあって何かやってくれるんじゃないかという、変な構えや期待感を持たれてしまう可能性が高くなるんですよね。

そういうことなしにフラットに話を聞けるというのは、媒体を持つひとつ意味だし、運用していく良さだと思っています。

小野寺:付け加えると、例えば「〈○○〉と〈まち〉」でいえば、そのテーマについての専門家にお話をうかがうわけですが、その方もどこかの街に住んでいるので、自然とその方なりに考えている街についてうかがうことになるんです。きちっと用意した質問ではなくても毎回、「住んでいる街についてどう思っていますか」とか、「これから街がどうなっていってほしいと思っていますか」みたいな話を雑談に近い形で聞けるので、それはメディアで取材しに行くことで得られる効用だと思いますね。

――インタビューをすることで、その方と接点ができますよね。その接点自体の価値みたいなことは、感じられたことはありますか。

今中そういう人間関係が、最終的には仕事をやるうえでも役立つ、というのはありえると思います。ただ、noteに関して言えば、最初からそこを目指して人を選んでいるわけではないですね。もちろん人脈づくりも大事だとは思いつつ、事業に直結させる意識は今のところないです。

小野寺:まだ実現はしていませんけど、お話を聞いた方に、2年後、3年後と時間が経ってから、もう一度お話を聞きに行ってみたいね、という話はしています。そのようなことから、もう少しつながりの面でも広がっていきそうな気はします。

齊藤まだ始めて2年目なので、そういった時間のなかで積みあがるものは、これからなのかなと思います。1年ぐらいでは大きくは変わりにくい街づくりにおいても、時間経過とともに変化はありますので。

社内も巻き込んだメディアにするには?

――社内からの反響はいかがでしょうか。

今中いちばん反響があったのは、先ほどもお話ししたスケボーの話ですね。最近は、スケートボードパークを作るというプロジェクトが増えているんですが、そんなときにリアルな声を知りたいんです。スケーターたちの想いをきちんと理解したうえで、やってかないと、ただハコとしてスケートボードパークをつくっても、そんなに活用されないんじゃないかという気持ちはあるんですよ。

実際、都内にあるスケートボードパークにもそんなに使われていない所がそうです。なぜかというと人目がすごくあるので、上手い人しかできない状況になってしまっている。そういうことも含めてスケーターの気持ちを考えないと駄目なんじゃないか、と言うと「なるほど」と反応をもらえます。

他にも、第5回の「〈職人〉と〈まち〉」でお話をうかがった、「Bed and Craft」の山川智嗣さんのお話も、参考にさせていただきました。分散型ホテルを検討している時に山川さんはこういう想いや考えを持ってやっているらしいよと。

『地域想合研究室.note』記事「「木彫刻のまち・井波」に魅せられた建築家が住まいながら地域循環経済をつくるまで——Bed and Craft 山川智嗣氏に聞く、〈職人〉と〈まち〉

――なるほど。リサーチといっても、Nがいくつという統計的なリサーチだけじゃなく、一つの深い取材というのも、参考になる有効なリサーチになりますよね。

齊藤:統計的なリサーチだけじゃないということで僕が思い出すのは、noteではないのですが、大阪市にある工具会社の社長からうかがった話です。その会社は、とても優れたベンチをつくっていて、製品の感想が書かれたアンケート葉書がたくさん届くそうですが、大切にするのは共通している多数派の意見ではなく、一つ、二つしかない要望らしいんです。そういった要望の中にこそ「ハッ」と気づかされる、今後の参考になるような意見が含まれていることが多いからだと。だから、アンケートは数が重要なんじゃない。少ない意見にこそ目を向けて検討していくべきという話です。それが、ずっと頭の中に残っています。

同じように、数としてたくさん聞くことも大事なんですけど、そういう何かピンポイントの個人的な話っていうのも、実は大きく影響してくる場面があるんじゃないかと思っているんですよね。

――深く話を聞くことによって言葉の重みが出たり、定量だけで物事を見る癖にくさびを打つような意見になったりするからこそ、社員の方も参考にされるんでしょうね。

齊藤 NTTUS総研の立ち位置としても、それが大事な気はしています。総合研究所という名前がついているように、いわゆる株式会社何々という事業目線、ビジネス目線とは違った視点で意見を出すことが求められているので、耳当たりの良くないことを言っても聞いてもらえるという部分はあると思います。

――そうしてメディア運用をするなかで、個人で感じられている価値を、より広く会社として生かせそうなこととして、考えられることはありますか。

小野寺:昨年から、もう少し今中さん、齊藤さん以外のNTTUS総研の方が、どういうことをやっているかもアピールしていこうという話はしています。もう少しNTTUS総研の現場の方による発信で、「こういうことに取り組んでみたい」とか、「実際に誰々の担当でこういうイベントをやりました」とか、そういったことも発表できるように準備を進めていますね。そういう新しい形の発信の場もつくることで、内側からも参加者を増やしていくことにつながればと考えています。

今中会社としての価値を直接的に上げていくというより、会社の人にもっとメディアとしてnoteを使ってもらえれば、社員それぞれの考え方に広がりが出る可能性がありますよね。業務として本格的に進める前に、気軽に話を聞きに行くこともできるかもしれない。それができれば、必然的に個人の力量も上がって、会社全体も底上げされるという価値が出てくるんじゃないでしょうか。

春口:気軽に相談できる、社外の専門家との付き合いが増えていくことは想像できそうですね。ケアの岡野八代さんのインタビューのときにも、住民の人の声がちゃんと届いていないという話の流れのなかで、住民参加型のプロジェクトがあったら、ぜひそういう場に来てほしいというお話をしていました。そういうことから、社員にも記事を読んで参考にしてもらうだけじゃなく、実際にその担当者とつないで改めて話をうかがいに行くとか、そうしたつながりが増えていくことはありえる気がします。

――メディアを運用することで、専門的な知識を学んだり、周辺理解が深まることはよくありますよね。それも含めて、今中さんや齊藤さんが感じられている価値を感じる人が、社内でも増えると良さそうですね。例えば、取材同行のような形で巻き込むというのも、その第一歩目としてはすごく良い機会になりそうです。

小野寺:巻き込んでいきたいですね。最初の企画段階で、NTTUS総研の方々がどういうトピックについて気になっているのかヒアリングした際に、やっぱりみなさん個性が強くて、一人ひとり興味を持つ視点も違いましたし、何の専門家なのかもそれぞれだなと感じていました。もし時間的に余裕があれば、取材に同行していただいたりすることで、もっと楽しくなりそうだなと感じます。

今中:そうなんですよね。同行も良いんですが、できれば自分で興味のあることに関して、メディアを利用してほしいですね。

春口:確かに業務に関係ないところでも、実はこういうところに興味があって話を聞いてみたいんだというときに、このメディアをうまく社内でも使ってもらえたら嬉しいです。今は「〈○○〉と〈まち〉」のインタビュー先を僕らが提案していますけど、何か公開編集会議みたいな場を社員の方と一緒に開いて、興味を聞き出しつつ、採用となったら一緒に取材に行くということをやりたくなりました。

――現実的な問題として、今中さんと齊藤さん、社内的にはお二人で運用されていますが、リソースやマンパワーの不足で苦しいこともあったりしますか。

齊藤:なくはないですけど……でも、やる以上は楽しくやっていますよ。逆に、人手が足りないからという理由で他の人に頼みたくはないですね。それだと頼まれたほうが、「大して興味もないのによくわかんないことやらされている」となってしまいそうで、それなら本末転倒ですよね。そこは意欲的に一緒にやれる関わり方を考えたいですね。

――何よりお二人が楽しんで関わられていることは、すごく大事なポイントだと思います。

春口:僕らは建築を学んでくるなかで、日本の街づくりに対していろいろ感じることがあったのですが、このメディアに関わらせていただくなかで、僕ら自身も街づくりに楽しさを見出せるようになりました。それも、本当に今中さん、齊藤さんのお二人が楽しんでいただいているのがいちばん大きいと感じます。次はそういう方を、社内からもっと増やしていきたいですね。

【おわり/前編記事はこちら

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。