ホーム ブログ ソニーセミコンダクタソリューシ...

ソニーセミコンダクタソリューションズが実践する、オウンドメディアを活用したBtoB企業のコーポレートブランディング施策【イベント・レポート】

記事「ソニーセミコンダクタソリューションズが実践する、オウンドメディアを活用したBtoB企業のコーポレートブランディング施策【イベント・レポート】」のメインアイキャッチ画像

ソニーグループの半導体事業会社であるソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)は、近年ブランディング活動に注力しています。それらの活動の一環として、SSSがスポンサードする「半導体の未来を語るメディア『LightsWill』」が2024年1月にローンチされました。

インフォバーンは、この『LightsWill』のプロジェクトに企画段階から参加し、戦略設計からコンテンツ制作まで幅広い領域を担っています。本記事では、SSSより経営戦略部門の大内一貴さんをお招きし、インフォバーンが2024年6月4日に開催したトークイベント「ソニーセミコンダクタソリューションズが実践する、オウンドメディアを活用したBtoB企業のコーポレートブランディング施策」の模様をお届けします。

大内さんからは、SSSがコーポレートブランディングを強化されている背景や、数ある手法の中からオウンドメディアを選択された理由、成果指標をどのように設計しているかなど、立ち上げにいたるまでのプロセスと今後の展望をうかがいました。対談のお相手は、当社における『LightsWill』プロジェクトマネージャー・板倉隆一が務め、モデレーターは同じく当社のアカウントプランナー・大浦雅俊が担当しました。

なぜブランディング施策として「メディア活用 」を選んだのか?

左から大浦雅俊、大内一貴さん、板倉隆一

SSSがソニーの半導体事業部から分社化したのは2015年のこと。世界トップシェア(金額ベース)を誇る「イメージセンサー」を主力商品として、ディスプレイデバイス、半導体レーザーなど、さまざまな半導体デバイス事業を手がけています。

「イメージセンサー」と聞いてもピンと来ない方もいるかもしれません。レンズから取り込んだ光を電気信号に変換する半導体で、スマートフォンのカメラやデジタルカメラ、自動車の自動運転(AD)/先進運転支援システム(ADAS)、産業用機器など、実は私たちの身近にあるさまざまな製品内部に組み込まれています。

そんなSSSは、2020年よりブランディング活動を強化していきます。2022年には、コーポレートスローガン「Sense the Wonder」を策定し、コーポレートサイトのリニューアルやSNSアカウントの開設を実施。続く2023年には求職者へのアプローチを強化するために、ブランドムービーを制作して、SSSとしては初のテレビCM(九州地方の熊本県・長崎県・福岡県)や全国に向けたデジタル広告配信を打つなど、さらなる認知拡大を狙ったブランドキャンペーンを展開しました。

そうした活動の一環として生まれたのが、半導体の未来を語るメディア『LightsWill』です。

イベント当日のスライド資料より

新たな施策としてメディア活用を選んだ背景には、一過性で終わらない中長期にわたるコミュニケーションを図るとともに、ターゲットの興味・関心に沿ったコンテンツの発信を通じて、SSSのビジネスや技術の認知拡大・好意度向上を実現したい、という狙いがありました。

SSSでは『LightsWill』を「オウンドメディア」ではなく、「第三者メディア」と位置づけられているそうです。デジタルメディア企業・メディアジーン(インフォバーン関連会社)を運営母体とし、SSSはそこにスポンサードする形で参画することで、メディアを通じた「第三者による発信」となるように気を配られています。

SSSはBtoB企業で、イメージング&センシング技術もニッチな領域であるため、コーポレートサイトに訪れるのは、どうしても既存のステークホルダーの方が多い傾向にありました。そこで、潜在層の方からも自発的にSSSの情報にたどり着いてもらい、認知を獲得していく手法として「コンテンツマーケティング」が有効だと考え、それを実践する場としてオウンドメディア活用を選びました。

『LightsWill』では、まだ半導体業界に馴染みが薄い方にも、SSSの技術が社会にどう貢献しているのかをわかりやすく伝えたい。そこで、自社や自社に関わりのある顧客・パートナーだけでなく、様々な領域で権威を持っている専門家とコラボレーションをすることで、新たな層へアプローチし、SSSのことを知っていただくきっかけをつくることが重要だと考えました。

――大内一貴さん

これには板倉も、「実際に運営するなかで、『LightsWill』は世の中の関心事やトレンドなど幅広いテーマを扱えるため、発信の自由度が高いです。SSSのファクトに囚われず、半導体技術が実現しうるワクワクするような未来を夢想することで、未来の技術者にとってヒントになるような情報を届けられています」と担当者としての実感を述べました。

目の前の社員から、ターゲットのインサイトをつかむ

さて、この『LightsWill』はどのようなプロセスを歩んで生まれたのでしょうか。

コーポレートブランディング施策の目的として、特にSSSが重要視するのが「若手技術者・学生への認知拡大」です。これまでSSSでは、電気・電子・工学系を専門とする学生が採用の中心となっていたそうですが、最近では情報系を専門として学び、ソフトウェア開発やAI開発に意欲のある学生など、求める人材像も多様化しているそうです。「入社すれば活躍できる人材のバリエーションが増えるなかで、半導体に興味を持っていない学生にも認知を広げる必要が出てきているんです」と大内さんは言います。

これを受けてインフォバーンが、まず着手したのは現状分析です。アプローチしたいターゲットが、どういう人物で、どのようなことに関心を持ち、どんな記事を読みたいのか。ここの見当が外れていては、効果的なメディア運営はできません。そこで社員へのデプス・インタビューを実施しました。

2ヶ月ほど時間をかけて、新卒/中途入社2年目以内の社員にインタビューしていきました。ターゲットに近い方々がまさに目の前にいるわけで、聞かない手はない。彼らがどういった情報経路をたどってSSSを知ったのか。普段どのように情報収集をしているのか。「信頼性」を感じる情報のポイントはどこか。掘り下げて質問することで、生のインサイトを聞き出すことができ、ターゲットのペルソナが明確になりました。

――板倉隆一

イベント当日のスライド資料より

また、このインタビューを通して、「コストパフォーマンス/タイムパフォーマンス重視」するとされる若者の情報収集習慣の実態を知ったことで、「ChatGPTによる記事の要約を載せたり1記事の文字数を2000字程度に抑え、サクサクと読み進めやすい3記事の構成にしたりと、その後のコンテンツ制作全般にも活かせるリサーチになりました」と、板倉はその効果のほどを語りました。

ブランドストーリーから生まれたコンセプト

次にメディアのコンセプトを考えるにあたっては、SSSの重点領域である5つのブランドストーリーが土台となりました。これはSSSがどの領域で、どのように貢献し、どんな未来を目指しているのかを描き出したものです。

イベント当日のスライド資料より
ブランドムービー「見えるか、世界。」宣言編

インフォバーンは『LightsWill』のコンセプト策定において、この5つのブランドストーリーを起点としつつ、ターゲットの関心も踏まえ、両者が重なる領域でコンテンツ訴求をしていく方法を考えました。

ご依頼を受けた当初、先ほどのカッコいい動画を見せていただきながら、ブランドストーリーに込められた想いをうかがいました。それに連なる新たなメディアをつくるということで、やりがいと責任を強く感じましたね。どうメディア運営の形に落とし込むのかを考えるなかで、ソニーグループのパーパスとも掛け合わせ、最終的に「クリエイティビティ×テクノロジーで未来世界の道標を描き出す」というコンセプトを提案しました。

――板倉隆一

前述した社員インタビューからは、伝える情報に「手触り感」があるかどうかが重要だという示唆も得ていました。つまり求められるのは、「肌感覚として理解・共感ができるコンテンツ」です。SSSが誇る技術力の高さは、そのまま技術解説をしても理解をされにくい。物体としてイメージセンサーを見せても、ごく小さな四角いチップ、という認識しか持たれない。そんな伝えるハードルが高い「テクノロジー」も、関わる人やそれ自体が持つ「クリエイティビティ」という要素を掛け合わせることによって、「手触り感」を演出できると考えました。

SSSは、テクノロジーを通じて、人々のクリエイティビティを支えていくことを目指しています。「SSSのミッションにもマッチし、コーポレートサイトでは表現しきれない『半導体による未来の可能性』を伝えられる。コンセプト提案を受けてすぐに、素晴らしいなと同意しました」と大内さんは当時を振り返ります。

そこで表現したい未来とは、「夢想できる未来であり、来たるべき10年後」だと板倉。「100年先はこうなる」という語りでは、読者は実感がわかず、机上の空論としか感じません。それに対し、10年後は具体的に想像を膨らませられる近未来です。すでにあるSSSの技術が社会で実用化される実現可能性も踏まえ、「10年先」という設定にしたそうです。

実際に、メディアアーティストのライゾマティクス・眞鍋大度さんとの対談記事や、漫画『映像研には手を出すな!』の作者・大童澄瞳さんとの対談記事など、「クリエイティビティ×テクノロジー」を表現した、さまざまな記事がすでに公開されています。

「眞鍋さんの記事がそうであるように、『LightsWill』のコンテンツ制作では、SSSの技術者が普段は関わらない専門家とつながる機会にもなっています」と大内さんが語ると、「メディアを持つことの副産物には、そうした新たなコミュニティを生む機能も期待できますね」と板倉はメディアが持つ価値について言及しました。

ブランディング施策における正しい成果指標は何か?

こうして公開され、運営がスタートした『LightsWill』。一般的にブランディングを目的としたサイトは、その効果を適切に測ることが難しいとされますが、『LightsWill』ではどんな成果指標が設けられているのでしょうか。

SSSが重視するのは、「適切なターゲットに、意図したパーセプションチェンジ(認識変容)を起こす」ことです。BtoB企業は事業内容が複雑なことが多く、また発信した情報がバズっても売上につながるとは限りません。

PV数を追い求めても、事業や採用につながらなければ意味がありません。伝えたいターゲットに正しく認識してもらうことが重要です。ブランド醸成には、根気がいるし時間もかかる。インフォバーンさんとは中長期的に計画を立て、適切なデータを取って正しく評価していこうと話しています。

――大内一貴さん

具体的には、読者のジャーニーマップに沿った指標を立て、計測しているとのこと。たとえば、UU数上昇は「認知」獲得の指標、読了率向上は「興味・関心」度の指標、メルマガ登録者数増加は「好意度」の高まりの指標、といったように各フェーズでKPIを設けているそうです。

いたずらに指標を多く設けては、追うのがたいへんになるだけですが、PV数やUU数だけ測っても、「なぜ伸びているか/伸び悩んでいるか」の原因を深掘りできません。適切な数と項目の指標を設定することで、初めて適切な分析ができるようになる。

それと、『LightsWill』ではLoocker Studioを使って、メンバーが誰でも定常的に成果を見られるようにしています。定期的に振り返り会議も開催し、Webディレクターだけがチェックする体制ではなく、コンテンツ制作者も含めたチーム全員でPDCAを回すことを意識しています。

――板倉隆一

この会にはSSS側のメンバーも参加。大内さん曰く、こうしたインフォバーンからのレポーティングは、上層部への報告や社内浸透においても役に立っているとのことです。

まずは認知度や好意度の向上を目指しながらも、SSSにとって最終的に重要となるのは「いかに採用に貢献しているか」という指標です。Web上だけではわからないこの指標については、人事と連携しながら、入社した人に対し「『LightsWill』を知っていたか」「入社の決め手になったか」などアンケートを取ることで、独自に計測していくことを予定されています。

前述した社員インタビューへの協力も含め、「効果的な採用ブランディングにつなげるために、人事部門に各プロジェクトの進行状況や結果を共有するなど、密接に連携しています」と大内さん。 

ローンチしてから約5カ月。最後に今後の展望についてうかがいました。

すでにさまざまな切り口のコンテンツを制作・公開して、それぞれの効果や貢献度の違いが見え始めています。インフォバーンさんには、PDCAを回しながらデータ・ドリブンな運営を続け、コンテンツごとの勝ちパターンを確立することも期待したいです。

あと、読者がワクワクする情報を届けるためにも、編集部が楽しむことも重要だと思っています。YouTuberや小説家の方など、今まで関わりのなかったインフルエンサーの方々との企画も進行中ですが、新しいチャレンジをして、新たに出会った人たちとともに、『LightsWill』のコミュニティを広げていきたいですね。

――大内一貴

このお話を受けて板倉は、「イベント展開も考えたいですね。読者と出会う場をつくることは、その方々が何を求め、何を考えているのかを、リアルに聞く機会にもなります」としたうえで、ゆくゆくは『LightsWill』を「これを見れば最新の業界動向もわかる、未来もつかめる、といった半導体業界を代表するメディアにしていきたいです」と意欲を伝え、本イベントは幕を閉じました。

インフォバーンによるSSS支援の取り組みについては、事例記事としても公開しています。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
『LightsWill』事例紹介記事はこちら

ENVISION編集部

変化の兆しをとらえ可視化することをテーマに、インフォバーンの過去から現在までの道のり、そして展望についてメンバーの動向を交えてお伝えしていくブログ「ENVISION」。みなさまにソーシャル・イノベーションへの足がかりとなる新たな視点をお届けしてまいります。