社員が自社に関心を持つ組織にしていくには?【冨田憲二×井登友一「Designing for Orgculture」イベント・レポート】後編
昨今の企業経営において、「組織戦略」が欠かせないものとなるなかで、「企業カルチャー」の存在が注目を集めています。一方で、目には見えない「カルチャー」を扱うことに対し、具体的な取り組み方に悩む声も多く聞かれます。
そこでインフォバーンが2024年10月23日に開催したトークイベント『自律的に社員が働く「組織文化」をデザインするには?』では、株式会社ラントリップ・取締役の冨田憲二さんとともに、インフォバーン副社長・井登友一が、「組織文化のデザイン」をテーマに対談しました。
カルチャーの明文化や「カルチャーフィット」の功罪などについて議論された前編記事に続き、後編となる本記事では、組織の壁の乗り越え方、健全な社内コミュニケーションの保ち方について語り合った内容をまとめています。(前編記事はこちら/Q&A編記事はこちら)。
「組織の壁」はどう乗り越えるべきか?
井登友一(以下、井登):どうしても組織というのは、体制や事業規模によって、さまざまな壁ができてしまいます。冨田さんは、当時まだ社員数名だったころにSmartNewsに入られて、200人超まで組織が大きくなるなかで組織づくりに関わっていらっしゃいました。その経験も踏まえて、組織内の壁を乗り越える方法やコツについてお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。
冨田憲二(以下、冨田):よく「30の壁」「50の壁」「100の壁」と人数に応じて壁があると言いますが、私の経験則としてもそうだと思います。30人規模になると、古参の熱量の高い人と新しい人で若干の温度差が出てくる。50人になったら、マネジメントレイヤーが現場社員全員を見切れなくなって、ミドルレイヤーが必要になる。100人を超えると、細かく部門が分かれてくるので、部門間のズレが生じやすくなる。
私も成功ばかりしてきたわけではありませんが、基本的には組織の理論的な構造と、実態の両方を見ることが重要だと思います。よく「いつ人事評価制度を入れたらいいですか?」と相談されるんですが、理論的な一般解はあっても、実態として必要なタイミングは、その組織の中のいろいろな因子を見ないとわからないんですよね。特にスタートアップでは、50人、100人規模になっても人事評価制度がない企業も珍しくありません。なくてもうまくいってるのは、自然と人と交われる人を採用していて、他人にマネジメントされる必要がない自律した集団になっているとか、あるいはトップに強い意向があって人事評価は設けていないけど、代替するような仕組みがあるとか。
理論的な正解はあっても、個社特有のカルチャー、社員のスキルセットやマインドセットなどの実態次第で、適切な解は変わってきます。全体像を持ちながら自社に合ったタイミングで、自社に必要なものを見極めて取り入れていくことが重要だということは、失敗もしてきた当時の自分にも伝えたいくらいです。
井登:組織づくりにおいて、制度や仕組みをうまくデザインしていくのも非常に重要なポイントですよね。「制度」という言葉は、堅苦しく形骸化しやすい、クリエイティブを阻害する悪い側面ばかりフィーチャーされるので、特に自律的な組織を目指す企業では、ネガティブなイメージを持たれがちだと感じます。
もちろん実際に良くない制度の存在も多いとは思いますが、企業カルチャーとして良いと思われる行為に対して、それを評価し正当性を与える制度が存在することで、社員が躊躇いなく行動できるようになります。そうした良いルーティンをつくるためにも、制度化、仕組み化は非常に重要だと思うんですよね。特に人数が増え、規模が大きくなるなかでは、誰もが迷わずに行動できる規範を置くことが求められるのではないでしょうか。
冨田:ハードとしての制度と、ソフトとしての運用の両輪をどうするかですよね。「制度」に対して悪い印象があるのは、どうしてもハードのほうが強くなる傾向があるからかもしれません。
特に初めて起業した社長のスタートアップの場合は、組織が50人、100人と成長するなかで、一国一城の主として、制度にもオリジナルの新しいものを設けたくなりがちです。その気持ちは僕にもよくわかるんですが、本当にオリジナリティが必要かというと、それで失敗している例のほうが圧倒的に多い。それはハードだけを考えて、ソフト=運用力がともなっていないからでもあります。
たとえば、アプリケーション開発では、「これだ!」という確信を持ってデプロイしても、そのままうまくいくケースのほうが稀で、運用するうちに実態と合わない部分が出てきますよね。制度設計も同じで、いったん正式に組織にインストールしたとしても、それはベータ版なんだという認識を持つ必要があります。最初から100%うまく運用はできないから、アップデートしていきましょう、問題があればフィードバックをください、というスタンスで組織づくりをしている会社のほうが、うまくいっている印象を受けます。
目の前の事業だけでなく、意識のリソースを組織にも割く
井登:製品やサービスを開発されている事業会社は、本業には真剣に向き合って、日々問題を見つけたらアップデートし、ニーズを収集しては新しい提案を考えてと、時間も労力も割いています。ところが、ふと自分自身の足元に目を向けると、手が回っていない。自分たちの状況を良くしていく、メンテナンスをしていくのは、なかなか難しい現実もありますよね。
冨田:スタートアップを見ると、2回目、3回目の起業をしている経営者は、1回目で痛い目を見た反省を踏まえていますね。自分の関心事項がプロダクト開発や事業戦略ばかりに向いてしまい、評価制度を含めて組織をうまく回せなかったという後悔を持って、次はうまくやっていこうとします。
重要なのは具体的に何をするかということ以上に、どれだけ意識を向けるかです。目の前の事業にフォーカスしすぎてしまうところで、グッと自制を効かせ、メタな視点を持ってリソース配分を組織内にも割いていく。これは下から変えることは難しいので、上位レイヤーにその意識がないとなかなか変えにくい問題だと思います。
井登:共感します。私が専門とするサービスデザインという世界も、製品・サービスをローンチしたとき、出荷段階のものが完璧なのではなく、より良くなるように改良を繰り返していきます。プロダクト開発でもサービス開発でも、それがもはや当たり前になっている。私の問題意識としては、組織もそれを継続してやっていく必要があると思っています。
逆に、先ほどボトムアップでは難しいという話が出ましたが、現場の社員から注目を集めないとうまくいきませんよね。自らが内部にいるからこそ、会社組織は透明な存在になってしまい、意識が向かなくなる。それに抗して、会社への関心が持たれる状態にしていく必要があると思います。
冨田:まさにおっしゃる通りで、常に関心事にさせられるかは本当に重要です。たとえば、ミッション・ビジョン・バリューの浸透のために、凄腕のコピーライターに素晴らしいコピーをつくってもらい、それをポスターにしてオフィスの入り口にドーンと掲示するようなことほど、むなしいものはないなと思います。それではただの景色として、誰も触れないものになりますよね。
結局、意識されないのであれば何をしても無駄になる。「これはおかしい!」と異議申し立ての声が上がった際に、面倒くさいと見て見ぬふりはいくらでもできると思いますが、「そもそもうちのバリューはこれなのか?」という議論があちこちで話題になり、「こういう解釈ができるのでは?」と常にアップデートされ続けている状態が、実は健全だと思います。
組織デザインは常に「現在進行形」で臨む
井登:そもそも企業カルチャーというのは、果たしてデザインできるものなのか、という問いもあると思います。デザインというのは、対象が組織体制にせよ、評価制度にせよ、完成されたものとして「美しいものができた、これで終わり」となるものではないので、デザインし続ける姿勢が必要です。
私は「Designing」という進行形の言葉を意図的によく使います。これは組織研究で知られるカール・ワイクが、組織論を語るなかで出した「Organizing(組織化)」という発想から取っています。「Organization(組織)」という箱が組織なのではなく、人々が関わり合っていくなかで生まれるのが組織なんだ、というとらえ方です。この考え方が僕は好きで、常に現在進行形で動きが起きている状態をつくることは、完成のない企業文化をデザインし、根付かせていくうえで、大事なポイントだと思っています。
やっぱり関係性が重要じゃないですか。組織内には、経営陣、ミドル、現場社員と階層もあれば、世代や職種、バックグラウンドも違う人々が集まっている。その中で互いに関係性を持ち合いながら、常に動的な動きをみんなでつくっていく。これを活性化する、触発するコツは何かあるでしょうか?
冨田:具体的な方法論はたくさんありますが、まずはその手前で、そもそもなぜ施策を取る必要があるのか、よく検討するべきだと思います。
宗教の話を例に出すと、そもそも信仰というのは長く続かないという話があります。回心直後のような信仰の熱が高い状態が続くと、心身ともに異常をきたすので、必ず沈静化していく、と。だから、信者の信仰心が高い状態を保つには人的努力が必要で、定期的にリバイバルを起こす必要がある。宗教でも、政治でも、カルチャーはリバイバルしますよね。
会社でもカルチャーを維持する、コミュニケーションを維持するうえで、リバイバルが必要であるというわけです。人間とはそういうものであるという認識に立ったうえで、社内イベントを催すとか、コミュニケーションを促す制度を取り入れるとか、具体的な手段は豊富になるので、自社に適したものを選ぶべきではないでしょうか。
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