【書評】8年経っても色褪せない「新たな古典」となったWeb入門書─文庫版『ロングテール』
こんにちは。プロダクション部門コンテンツ開発ユニット所属の高田です。今回は、去る5月23日に発売された文庫『ロングテール』をご紹介します。
本書は、2006年に刊行され、ビジネスにおける新しい視点を示した書籍『ロングテール』の文庫版。ロングテール理論の提唱者にして、雑誌『WIRED』の編集長も務めたクリス・アンダーソンの著書です。
この文庫版では、インフォバーン代表取締役・小林弘人が「本書は生き馬の目を抜く時代のなかで錆びゆくことなく、新たな古典として生き延びてきた」と、現在の視点による解説を加筆しています。
ロングテールが牽引してきた現代のWeb
本書の特長は、全編にわたって多くの事例を取り上げていること。「LEGO」「Google」「eBay」など、いまなお世界を牽引するこれらのサービスが、なぜWebで成功をおさめられたのかという問いに、ロングテールの観点から答えています。
なかでも私たちにとって身近に感じられるのは「Amazon」の事例。この世界最大の通販サイトは、いまやロングテールの代名詞といっても過言ではありません。その成功要因は、おすすめ新商品情報、チェックした商品の関連商品、閲覧履歴からのおすすめ…など、とにかくいろいろな形で、商品のレコメンドを行っているところにあると、本書は説きます。
- すべての商品が手に入るようにする
- 欲しい商品を見つける手伝いをする
という、ロングテール市場で成功するための法則。それらを理解することができ、読後あらためてAmazonを訪れると、きっと新たな発見があるはずです。
8年経っても色褪せない「Web入門書」
私たちの身の回りには、Amazon以外にもロングテール戦略にもとづいたサービスが数多く存在しています。たとえば、無料で使える「Skype」や、1曲から買える「iTunes Music Store」など、その多くは、いまやスタンダードになったものばかり。本書を読めば、2014年の現在でもこの戦略が有効であることを、あらためて実感できます。
文庫化にあたって、小林が加筆した解説では、Webの入門書に最適な1冊であると表現。
わたし自身は、この『ロングテール』をはじめて読んだとき、ウェブについての入門書として非常に適した一冊であると感じた。それはネット小売店の品揃えの話だけではなく、あらゆる分野を縦横し、ウェブ特有のクチコミ・マーケティングからユーザー同士によるピア・プロダクションまで、当時のウェブ状況を概観した一冊となっている。
また小林は、2006年の刊行以降に登場した、新しい形のロングテールとして、政治、軍事、科学、ジャーナリズムなどの事例を紹介。そのひとつとして、「Kickstarter」に代表されるクラウドファンディングもピックアップしていました。
クラウドファンディングとは、ある商品・サービスを成立させるために、Webで共同出資を募ることができる仕組み。同じ目的を持った人々が個々に出資をすることで、いままでになかった商品・サービスが完成するというものです。これこそ、まさにニッチ市場を有効活用したロングテールの進化形と言えるでしょう。
2014年のロングテールビジネス
さらに小林は、さまざまなロングテールビジネスの発展を支えてきた、Webの進化についても言及しています。
たとえば、おすすめ機能。本書が刊行された2006年時点では、その大本は機械的な「レコメンドエンジン」が主流でした。ところが、いまやオーガニックなソーシャルグラフがその機能を果たしているサービスも少なくありません。
もっとも、わかりやすいのが「Facebook」。レコメンドエンジンの代わりに、あなたにおすすめのモノを選んでくれるのは「身近な誰か」なのです。かつて新しい価値観で衝撃を与えたロングテールであっても、時代の流れとともに変化していくのでしょう。
そうしたロングテール市場においては、消費者でさえも、その役割を変化させはじめています。デジタル・ファブリケーション(※)が個人で所有できるようになり、消費者の誰もが転じて「生産者」になりうるからです。
個人の趣味趣向がよりニッチになっていく超並列化文化の現在。「おすすめ商品」ではなく、「おすすめ生産者」が提案され、人と人とをマッチングさせるようなサービスが生まれるかもしれません。
※デジタル・ファブリケーション
3Dプリンタやレイザーカッターなどのコンピューターに接続された工作機械をつかって、デジタルデータから製造する技術の総称。デジタルデータさえあれば、世界中で何度でも製造が可能になることから、モノづくりへの活用が期待されている。