Spotifyがもたらす音楽体験『音のネイティブアド』とはなにか?
はじめまして。プロダクション部門コンテンツ開発ユニットの金野です。エディターとしてクライアント企業のオウンドメディアの編集に携わるかたわら、個人事業でミュージシャンのブッキングエージェント(=出演交渉代理人)としても活動しています。
今回は、海外で拡大を続けているストリーミングサービス※“Spotify”のネイティブアドについてご紹介します。
ネイティブアドの定義をおさらい
ネイティブアドの定義は『ユーザーがいつも使っているメディアもしくはサービスの中で、自然になじむデザインや、機能で表示されるペイドメディアの一種』と言われています。また、ネイティブアドは広告枠の中身がユーザー体験を損ねないようなコンテンツである必要があります。
つまり、「記事だと思ってクリックしてみたら、いきなりアプリのインストールページに飛ばされた」、というような広告はネイティブアドとは言えません。枠と中身がどちらもネイティブである必要があります。
Spotifyのネイティブアド「Branded Playlist」はカスタム型
前置きが長くなってしまいましたが、今回ご紹介するSpotifyのネイティブアドは、IABが定義するネイティブアドの主要な6つのタイプのうちの「カスタム型」に分類されています。
カスタム型はネイティブアドのひとつとして広告主に認識される必要があるが、他の5つのタイプには含められない
では、具体的にどういった機能と特徴をもっているのかを見ていきます。
Spotifyではユーザーがオリジナルのプレイリストを作成することができるのですが、Branded Playlistでは通常のプレイリストに加えて下記のようなカスタマイズをおこなうことができます。
- プレイリストのなかに広告主のカバーアートやテキストを入れることができる
- 広告主のキャンペーンページへのリンクや、Spotifyコンテンツへのリンクをテキストに入れることができる
- リスナーにプレイリスト内の楽曲をカスタマイズしてもらうことも可能(カスタマイズを許可するかどうかは広告主側が設定できる)
このように、広告主が作成したカスタムプレイリストをユーザーに楽しんでもらうことでエンゲージメントの獲得が可能です。
また、作成したプレイリストがソーシャルメディアでシェアされるようなキャンペーンを仕掛けることで、より大きな認知を獲得できる可能性もあります。
では、Spotifyのネイティブアドの具体的な活用事例を見ていきましょう。
事例1:BMW 『Great American Road Trips』
BMW の新商品である「320i」の認知の拡大と訴求を目的に展開されたこのキャンペーンでは、以下のような特徴をもったブランドアプリを(Spotify上で)ユーザーに提供しました。
【アプリの特徴】
- ユーザーが、米国の5つの主要な道路のなかから1つを選ぶ
- 選ばれたルートに関係する歌やアーティストによってプレイリストが生成される
- プレイリスト生成中はBMWのビデオが流れる
- 完成したプレイリストはソーシャルメディアを経由してシェアができる
このように、5つの道路のドライブシーンに埋め込まれやすいような音楽体験を提供しています。このキャンペーンを展開した結果、ユーザーによって1万4000個ものプレイリストが生成されたようです。
事例2:Reebok 『FitList』
Reebokは、フィットネスにおいて音楽は極めて重要な要素であり、練習を楽しく続ける手助けをしてくれるものだと捉えています。
Reebok『FitList』は、トレーニングの内容(ランニング、ウォーキング、 ダンス、ヨガ等)×運動の負荷×時間(5〜60分)×ユーザーの音楽の好みに合わせてプレイリストをつくってくれるアプリです。
トレーニングの内容によってプレイリストはつくり変えられるので、都度新しいプレイリストが生成されます。友達とのシェアも可能で、有名なスポーツ選手(NFL選手のEli Manningなど)がシェアしたプレイリストを聴くという楽しみ方もあります。
BMWのネイティブアドがドライブの文脈のなかに取り込まれたのと同じように、このキャンペーンも『フィットネスを楽しめる音楽』として違和感なくユーザーに受け入れられました。
これらのように、Spotifyでネイティブアドを展開するにあたっては、ターゲットユーザーが音楽をどのように聴いているかを想定し、その文脈のなかにどうコンテンツを位置づけるかを考えることが成功の鍵と言えるのかもしれません。
Spotifyは日本ではまだサービスを開始しておらず、現在のレコード会社各社との交渉状況を踏まえると、まだ時間がかかると思われます。日本でもストリーミングサービスは「レコチョク Best」や「KKBOX」があり、今後も、エイベックスとサイバーエージェントによる音楽配信サービス「AWA」や、LINE MUSIC株式会社による定額ストリーミングサービス「LINE MUSIC」がリリースされる予定となっています。
こうした状況を踏まえると、国内で音楽配信サービスに ネイティブアドの枠が生まれるのはまだ時間がかかるかもしれませんが、音楽を利用したネイティブアドにはブランドとユーザーを結びつける強い力が秘められていると思います。国内外の音楽サービスの動向について、引き続き注目していこうと思います。
参考リンク・注釈
※ストリーミングサービス:音声データをデバイスに一度ダウンロードしてから再生するのではなく、受信しながら再生することができる配信サービス。月額制で提供されることが多い。
BMW: Great American Road Trips playlist generator
Reebok FitList Spotify app: Create the ultimate running playlist in five clicks