【Session】デジタルシフト化するメディア業界。パブリッシャーの未来とは|DIGIDAY LAUNCH PARTY
2015年9月1日、インフォバーンは『DIGIDAY[日本版]』をローンチしました。それを記念して、同日リッツカールトン東京で開催された「DIGIDAY LAUNCH PARTY」。ブランド企業様やパブリッシャー様、アドテク企業様など、デジタルマーケティング業界のキーパーソンの皆様にご来場いただきました。
メインプログラムは、「デジタルシフト」をテーマとした2つのパネルディスカッション。それぞれのセッションで、パブリッシャーとブランド企業のキーパーソンの方々にご登壇いただき、それぞれの視点でデジタルシフトの課題と解決策、そしてデジタルマーケティングの今後の展望などを語っていただきました。
今回は、第1部の模様をお届けします。「パブリッシャーの未来~デジタルシフト/グローバル展開の必然性~」と題して、パブリッシャーの方々にお話いただきました。
>>第2部「ブランド企業におけるデジタルシフトの課題と解決策 ~パブリッシャーに期待したいこと~」はこちら
【Panelists】(本文 敬称略/写真左から)
株式会社東洋経済新報社
東洋経済オンライン 編集長 山田俊浩 様
スマートニュース株式会社 執行役員
メディア事業開発担当 藤村厚夫 様
株式会社マガジンハウス
BRUTUS 編集長 西田善太 様
【Moderator】
インフォバーン
DIGIDAY[日本版]編集長
長田真
記事が単体でコンテンツとして成り立つかどうか
――まずは、「パブリッシャーのデジタルシフトは必然か」というテーマでお話を伺っていきたいと思います。昨今のパブリッシャーのデジタルシフトについて、どのように考えていらっしゃいますか?
山田 デジタルシフトは間違いなく必然だと考えています。私がよく例に出すのが、カメラ業界の話。カメラ業界ではずっとフィルムカメラが主流で、デジタルカメラが出てきた初期の頃は、「こんなのダメだよ」なんて言われていたんです。
けれど、ある時期に閾値を超え、一気にデジタル化に転じました。たくさんあった0円プリントのお店やDPのショップもどんどんなくなり、「自分は絶対フィルムだ」と思っていたユーザーも一気にデジタルに流れていきました。
――まさに、いまメディア業界でそれと似たようなことが起きていると。
山田 メディア業界も、アナログはあるところから経済的に成り立たなくなり、嗜好品やこだわりの強い人のものになっていく。そんな経済現象が訪れる運命にあると思います。
――西田さんは以前、「なんでもフラットに並べてしまうWebのアーカイブ性は雑誌づくりに向いていない」とおっしゃっておりました。
西田 自分はデジタルが好きで触れている時間もかなり長いのですが、その半面、紙の力を心の底から信じています。
那須高原の入り口に、「黒磯」という素晴らしい情緒のある駅があります。ところが、隣の那須塩原駅に新幹線が通るようになったおかげで、みんなそっちに行くようになり、廃れてしまったんですよね。栄えている頃はいろんなお店があったのに、どんどんなくなっていきました。
たとえば、黒磯にある「CAFE SHOZO」は、東京でカフェを開店しようという若者が必ず学びに来る場所で、そうした文化はかろうじて残っています。けれど、いまの出版業界は、間違いなく「黒磯」のような状況です。われわれ『BRUTUS』も、那須塩原の一等地に何かを構えないといけない段階には来ていると思います。
――そもそも、どうしてライフスタイル誌はデジタルに向かないのでしょう?
西田 ニュース誌やコラム誌などは、記事単体でコンテンツとして成り立ちます。ただ、『BRUTUS』の特集は、最初から通して読んでもらうことを前提に構成されているんです。扉絵があり、一枚絵が続き……というように、編集ストーリーがある。それを外してしまっては、『BRUTUS』ではなくなってしまいます。
ただし、実はいま編集的にもいろんな手法を取り入れているのも事実です。たとえば、ニューヨーク・東京・ロンドンをそれぞれ特集した際、「見る、買う、食べる、101のこと」というコラム形式で構成し、デジタルにシフトできるような作り方も模索しています。
「デジタル化」したコンテンツは、形に関係なくどこでも活きる
――スマートニュースは、パブリッシャーではなくプラットフォームと認識していますが、デジタルマーケティングに対して、どのように関わっていきたいと考えていますか?
藤村 これまでデジタルシフトのお話をされていましたが、もっと厳密にいうと主なデバイスがPCからスマホへ変化、つまり「モバイルシフト」してきている気がします。つまり、Webに注力している間にモバイルシフトが起これば、取り返しのつかないことになるのは目に見えているんですね。
議題に戻ると、「デジタルをやっていいことがあるかどうか」というよりは、デジタル化したコンテンツはプリントにも生かせるし、Webにもモバイルにも生かしやすいと、私は考えています。
――モバイルシフトしつつある現状、スマートニュースは何を目指しているのでしょうか?
藤村 スマートニュースが提供できるバリューがあるとすると、モバイルエクスペリエンスですね。ユーザーがモバイルと接触する時間はどんどん増えていますから。
ある調査結果で、スマホで動画コンテンツを見る場所としてもっとも多かったのが、「布団のなか」という回答です。つまり、コンテンツをよりパーソナルな形で体験するという流れができつつあります。本や雑誌、テレビなどでは体験できないことを、モバイルが何らかの方向性や答えを導き出す時期にあるのかなと思います。
そうしたなかで、スマートニュースは、コンテンツをきちんとユーザーに届け、ユーザーエクスペリエンスを高め、最終的にはパブリッシャーの方々に向かってユーザーが歩み寄るという仕組みにしていきたいと思っています。
――なるほど。やはり最終的には、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というスマートニュースのミッションに行き着くわけですね。
藤村 はい。そして、いまモバイルでいちばんおもしろいのは、いろいろなコンテンツフォーマット、たとえば、動画、音声、テキスト、グラフィックなどがひとつの、コンテンツそのものになろうとしている可能性があるところです。パブリッシャー、マーケッターがどうやってこのチャンスをうまく生かせるのか。議論しながら進んでいけたらと思っています。
グローバル化しても、地域で生まれるコンテンツにリアリティは生まれる
――先日、日本経済新聞社がイギリスのFT(フィナンシャル・タイムズ)を買収しました。こうした状況を受けて、パブリッシャーにとってグローバル展開の必然性と、どんな生き残り方があるのかというところについてお聞かせください。
山田 日経さんが運営しているサイトに「NIKKEI ASIAN REVIEW」というものがありますが、あのような媒体はやはり必要だと思います。アジアに自分たちの情報を伝えるには、やはり英語での発信がベストだと思うので。
――東洋経済でも、そうしたサイトは運営していらっしゃるのでしょうか?
山田 東洋経済の場合は、「From Japan」というちょっとしたコーナーを設けて、1日2本ずつ更新しています。これを近いうちに、単独のWebサイトにして、英文で更新・運営していく予定です。KPIも当然設定しますが、あまりそこにはこだわらず、訪日・在日の英語スピーカーに対して読んでいただけるビジネス向けのWebサイトを目指したいと思っています。
――経済新聞社などがグローバル化するなか、『BRUTUS』はいかがでしょう?
西田 グローバル化に関して、英語版という意味ではさほど意識していません。日本は雑誌大国として独自の編集方法があり、読み手もそのなかで育ちました。特殊なんです、BRUTUSの作りは。今年の11月には「スナック/酒場好き」という特集を組むのですが、これをアメリカで売っても、まったく売れないと思います(笑)。ただ、香港や台湾、韓国の出版社からのアプローチは実際に数多くあります。ビジネスとしてどう仕上げていくか、模索中というところです。
――スマートニュースはアメリカに進出されて、非常に好調だとお聞きしました。日本のサービスやコンテンツが世界に進出していく必然性と、それらの強みはどこにあるのでしょうか?
藤村 テクノロジーが重要ですね。それがきちんと整備されていれば、国境を超えることは可能だと実感しています。
ただ、メディアやコンテンツの価値をはかる時は、「グローバルだからいいね」というだけではなく、むしろ地域に根付いた文化とか、風習、社会制度に関わったコンテンツでないとリアリティはないと思っています。
スマートニュースはアメリカやその他の国々で配信を進めていますが、地域ごとに創り出されるコンテンツに関して、大いに敬意を払わなければいけないと思っています。
テクノロジーがコンテンツを選ぶのはあまり好きじゃないとおっしゃる方も多いですが、テクノロジーがないと素晴らしいコンテンツを遠くの人に送り届けられない時代が来ていると思います。そのなかで、私たちはユーザーに「おぉ、なるほど」と喜んでもらえるような環境を作り出していきたいですね。
――パブリッシャーの方々は、メディアのデジタルシフト・グローバルシフトの波のなか、それぞれに独自の手法を見出し、生き残りをかけています。われわれ『DIGIDAY[日本版]』もパブリッシャーの一員として、少しでもみなさまの役に立つ海外の情報を発信していきたいと思います。ありがとうございました。