イノベーションの道も一歩から〜イノベーション・ブートキャンプ体験報告〜
こんにちはINFOBAHN DESIGN LAB. (IDL)イノベーションカタリスト野坂です。
2017年6月1日、東京六本木のオープンイノベーションスペースHAB-YU platformにて、イノベーション・ブートキャンプ「EUブランドはどのようにしてイノベーションに取り組んだのか?」を開催しました。今回は、その模様と、セッションを通して学んだことをレポートします。
「イノベーション」を起こす長い旅には準備が必要
「イノベーション」というキーワードは、流行り廃りはありつつも、あらゆるところで耳にします。特に最近は、
- イノベーションを求められているけどよく分からない。
- イノベーションといえばシリコンバレー? 日本でもできるの?
- 大企業では到底できない。ベンチャーがやるものでしょ。
- イノベーションと名の付く部署ができたけど、果たして何をしているんだろう……。
- ぶっちゃけ、イノベーションって“マユツバ感”倍増のバズワードw
と言ったように組織が抱える課題やジレンマ、失敗体験、諦め、嘲笑といった個人的感情とともに語られることが少なくないように思います。
そこで、イノベーション・ブートキャンプでは、近年台頭する欧州スタートアップの動向や、大企業における課題解決へのアプローチやブランディングについて学び、最初の第一歩を踏み出すための実践的なセッションを行います。
イノベーションを生み出すには、真に取り組むべきコトを探索し、解決するための長い旅(しかも、途中で成果を出しながら!)に出なければなりません。このブートキャンプで、先入観に囚われない“やわらか頭”にして、長い旅の第一歩を踏み出すのです。
濃縮版「イノベーション・ブートキャンプ」スタート!
セッションを仕切るのは、ベルリンを中心に欧州全域で活躍するNadine Bruder(ナディーン・ブラダー)。彼女は自らをデザイン&ブランド・ストラテジストと位置付けています。いい換えれば、企業と企業、または企業と社会の間において、双方がもつ点と点をつなぎ、システムへと変換するハイブリッドな存在です。グローバルで展開する大手携帯電話会社をはじめ、数多くのブランドとプロジェクトをともにしています。彼女の詳しい実績は、こちらのサイトをご確認ください。
今回のイベントでは、ナディーンが欧州で提供しているセッションを半日に濃縮してトライアル体験を実施しました。「Rethinking How Brands are Built Creative-Strategic Leadership & Innovation.」と題された彼女のイノベーション・ブートキャンプは、「レクチャー」「インタビュー」「ワークショップ」の三部構成になっています。ここからは各部ごとに、セッション内容を振り返ります。
さぁイノベーション・ブートキャンプのはじまりです。
レクチャー:「Future Brand」は社会課題に根ざし、企業活動として持続可能なエコシステムを持つ。
レクチャーで一貫して語られたのは、「Future Brand」というイノベーションを起こすためのキーコンセプトについてです。Future Brandとはどういうもので、いかにしてつくり上げるのか。もしくはそんなブランドにいかにして変貌させるのかをレクチャーしてもらいました。
まず「Future Brand」の事例として紹介されたのが「WECHAT」というサービス。
※こちらは当日見たムービーではありませんが、例として分かりやすいので紹介
動画内で登場する生活者は一日中ずっとWECHATを使っています。ショッピングやチャット、写真共有、アプリでタクシーも呼ぶし、その支払いもする。レストランを予約して、レビューもアップする。そんな非常にStickyなアプリ(サービス)ですが、ナディーンが強調していた重要なポイントは「エコシステムを持っていること」です。
Future Brandとは、共創のエコシステムを持ち「Civil Purpose」、すなわち社会全体の大きな目的を満たすもの。それを実現するためには、「テクノロジー」を駆使して、「データ」を適切に活用し、「社会課題に根ざした開発」を行うことが重要であるとナディーンは言います。ユーザー中心であることはもちろんなのですが、決して企業がユーザーに“おもねる”のではなく、社会性の観点を持ち、企業活動として持続性を備えていることが重要というわけです。
インタビュー:レベニューに囚われていてはスタートアップとの共創は生まれない
レクチャーでは我々が思考するための基本姿勢をインプットしてもらいました。次は、有識者にインタビューし、企業がイノベーションを生み出すための成功要因を探ります。
登場したのは、コーポレートアクセラレーションを支援するKVARTのTorsten Fischer(トーステン・フィッシャー)です。彼は、アクセラレーションプログラムの成功要因としてもっとも大切なのは、「レベニューだけで見るのではなく、スタートアップとのインタラクションそのものにこそ学びがあるという点を理解すること」と言います。
そして、それを実現するために必要なマインドとして、次の3つを挙げていました。
- Honesty
謙虚な姿勢で前のめりに取り組むこと - Integrity
スタートアップのニーズを理解して、お互いのゴールを明確にすること - Preparation
自社のニーズを理解するとともに、偏りがないように準備を怠らないこと
「著名なCEOやアントレプレナーの講演を聴いて満足していても何も変わらない。スタートアップには自由と風通しの良さを保証して、コミュニケーション、なにより傾聴を心がけることが大切」と熱く語っていました。
日本でも数々のアクセラレーションを支援しているトーステンは、日本にはイノベーションを起こすのに最適な条件がすでにあると言います。
- スタッフのロイヤルティ(愛社精神)が非常に高い
これは中長期的に課題解決に取り組むためには重要なファクターである。 - ボトムアップ型の組織である
トップダウンで物事を進められないことに対して批判されるが、言われてやるのではなく同時多発的かつ自発的に物事が進み、つながっていくことで、チャンスをより多面的に捉えることができる。 - コンセンサスオリエンテッド
合意形成にやたらと時間がかかるというのもよく揶揄される。しかし、うまくチームビルディングをして巻き込むことで、メンバーそれぞれが自分ごと化して課題に取り組むことができる。
日本はダメだ。欧米がイイんだ。改善はできるけどイノベーションはできない……。なんて自虐的になりがちですが、トーステンが満面の笑みで「いや、めっちゃできるって!(筆者脳内翻訳)」と言ってくれたことで元気が出てきました。
ワークショップ:議論を活性化するため、ワークショップで参加者の意識を合わせる
最後にワークショップを行いました。このワークショップの目的は、プロセスを通じて、まったく知らない人とチームを組み、ページ(意識)を合わせ、議論の質を高めること。この日は濃縮版のため1時間だけの短いワークショップでしたが、それでも参加者同士の一体感が増し、その後の質疑では活発な議論がされました。
組織を動かすには、危機感を実感させることが重要である
セッション最後の質疑応答で、議論のメインとなったのは、“デザイン思考をどうやって組織に取り入れるか?”というものでした。
ナディーンとトーステンからは、
- スモールスタートで取り組み、小さな成功体験を積み重ねること
- 成果だけでなく、アプローチ自体を共有すること(巻き込むこと)
- 丁寧なドキュメンテーションによってプロジェクトの透明性を担保すること
- オープンスペースを活用して賑わいを演出すること
などさまざまなアイディアや意見が出ました。
そのなかでナディーンは、“It’s really driven by fear(危機感を実感させること)”が重要であると念を押すように何度も話していました。
組織を動かすにはステークホルダーのお尻に火をつける必要があります。確かに“ゆでガエル”になる前に、危機感を煽るということも必要でしょう。それでもやっぱり鈍重な組織に対して、分かったフリしてニヒルに批評するよりも、這ってでもジリジリと、泥んこになって、いろんなところに擦り傷つくりながらでも前に進んでやる……という気合いはあるんだと思います、(ここまで読まれた方なら)誰しも。
とはいっても、やっぱり心細いし、取り組んでいることが合っているのか間違っているのか不安にもなる。そんなときに仲間を得ることは大切ですが、そのためにも何よりポジティブであるということは、もっとも重要かつシンプルな基本姿勢なのだと思います。
でも、この「ポジティブ」ってのも、ときに厄介だなと思うのです。“ギラ☆ギラ”と目的追求する前掛かりなオラオラムードに支配されると、息苦しくて押しつぶされそうになる人も少なくないのではないでしょうか。しかし、ナディーンやトーステンの柔らかな雰囲気からつくられるセッションの空気は、人ぞれぞれのスタイルを活かせる可能性を感じました。欧州のイノベーションシーンには、日本の文化やスタイルにフィットして、うまく取り込めそうなヒントがありそうです。
そんな欧州のなかでも中心地のひとつとなっているベルリンで「Tech Open Air(TOA)」というテクノロジーカンファレンスが7月12日〜14日で開催されました。さながらEU版SXSWという認識でおりましたが、果たして!?
次回は、その模様をお伝えしたいと思います。