「SF小説」の制作/ワークショップを通じて、バックキャスティング発想による「2045年ビジョン」の探索を支援
パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社
Outline
SF小説の制作&ワークショップによるアイデア発想
パナソニック グループのオートモーティブ事業として、2024年4月に事業会社化したパナソニック オートモーティブシステムズ株式会社(以下、PAS)は、車載機器の開発・生産・販売を中心に、安心・安全な運転支援システムや快適な車室空間を提供してきました。
現代は、車や人々のライフスタイルの変化にともない、モビリティ領域が大変革を起こしている時代。同社では、新たなモビリティ体験の創造や持続可能なモビリティ社会の実現をめざし、「移動の未来」を見据えたビジョンを構想されていました。
その一環として、同社の「車室空間ソリューション室(当時/現在は「キャビンUX事業開発準備室」として改編)」が2045年を起点としたバックキャスティング(望ましい未来像から現在にさかのぼり、取り組むべきことを考える手法)によるアイデア発想を模索されるなかで、インフォバーンに協力のご依頼をいただきました。これを受けインフォバーンは、オリジナルの「SF小説」の構想・制作、およびそれを活用した社内ワークショップを企画・ディレクションしました。
クライアント
パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社
担当領域
SFシナリオ制作
ワークショップ
期間
2022年11月~2023年6月|
SF小説制作~第1回ワークショップ
2024年1月~2024年3月|
SF小説ブラッシュアップ~第2回ワークショップ
Production
SF小説の制作にあたって「シンボル」を創案・選定
本プロジェクトのベースとなったのは、「SFプロトタイピング」の手法です。SFプロトタイピングとは、SF的な想像力を企業の事業創出や製品開発へと結びつける試み。SFシナリオの作成を通じて未来洞察したうえで、その未来像を様々な角度から捉えて検討し、バックキャスティングによるアイデア発想を行うものです。
本プロジェクトでは、広く「未来の移動」に関わる事象をテーマに、リアリティある「2045年の世界」を描いたSF小説を制作。それを題材にワークショップを行い、PASの事業や事業周辺領域に関するビジョンを社員同士で議論していく、というプロセスを取りました。
SF小説の作成に入る前に、まずは取り上げるべきトピックや論点を整理し、作品の世界観や舞台設定を考える必要があります。
そこで、まず2045年までに起こりうる事象をリサーチ結果から抽出。そのうえで、起こりうる未来における特徴的なモチーフ(=「シンボル」)を導出・選定するべく、「シンボルシート」を用意し、PASのメンバーに自由に「シンボル」を創案いただきながら、それに関連する「生活様式」と「社会環境」の変化を書き出していきました。
こうして出来上がった13枚のシンボルシートをさらにマッピングして整理。2045年に起こる事象としての妥当性やインパクトを踏まえ、今回のプロジェクトで取り扱うシンボルを検討しました。
最終的に、PASとして取り上げるべき社会環境/生活様式の変化を念頭に、「どこでも憑依」「ほそはや植物」「超人スパッツ」というユニークな3つのモチーフを選定しました。
プロのSF作家の手を借り、「問い」を提起する作品に
本プロジェクトにおけるSF小説の制作は、純粋に作品として完成させることが目的ではなく、未来社会に向けた「問い」を投げかけ、活発な議論を誘発するツールとして機能させることが目的です。
作品内世界でビジネスや社会インフラ、政治・文化、自然環境などはどうなっているのか、主人公が抱える「ペイン(課題/悩み)」はどのようなものか。PASの将来の事業に影響を与えうる「問い」を念頭に考察することで、各作品の世界観やシナリオ設定をつくりあげていきました。
先の「どこでも憑依」「ほそはや植物」「超人スパッツ」の3つのモチーフは、それぞれ「人間関係」「自然環境」「個人能力・感覚」に関する「問い」を提起する作品として、シナリオを練り上げていきました。
実際のSF小説の執筆については、プロのSF作家に依頼。提案したシナリオ設定/世界観に基づきながらも、自由に発想し書いていただくことで、リアルな生活の情景が浮かぶ作品に仕上がりました。
Workshop
経営層と若手層が、ともに「未来」を語り合う
ワークショップでは1つのSF小説を取り上げ、参加者に事前に読んでいただき、作品内の未来世界における望ましい点/望ましくない点をシートに記載しておいていただきました。
迎えた当日には、より作品世界に没入し、「自分事化」して考察していただくために、まずパナソニックが導入・活用を進める生成AI「PX-AI」を活用して「2045年の自分の姿」を想像。その自分が作品で描かれる未来社会で暮らしたときに、望ましく感じられることを選んだうえで、参加メンバー同士で対話していただきました。
このワークショップには、経営層だけでなく、さまざまな部門から現場の若手社員に参加いただきました。レイヤーが異なれば、日常的な交流は取りづらく、会社や業務への視座にもズレが生じがちですが、同じSF小説を題材に未知の「未来」について語り合うことで、立場を越えたコミュニケーションが生まれます。
実際にワークショップの間に闊達な議論が交わされ、終了後には「経営層の想いや考えに触れられた」「未来を担う若手の意見を知ることができた」といった声が聞かれるなど、「交流の場」としての機能も果たすことができました。
「宣言シート」として各自がビジョンを言語化
ワークショップの最後には、参加者一人ひとりに「宣言シート」に記載いただき、発表いただきました。これは、2045年の自分が望むこと、その望みを実現するために必要な「移動」に関する変化、その実現に向けて今の自分が取り組むべきアクション、の3つを言語化したものです。
各自が目指す方向を明確化し、言葉として宣言することで、それぞれの想いを共有するとともに、マインドセットにポジティブな変化をもたらすことを期待しました。
本ワークショップは、作品と参加メンバーを変えて2回実施。プロジェクト終了後には、出た意見や宣言をまとめて分析し、小説に対する反応、望む未来に関する共通傾向、今後の取り組みの3つのポイントから考察を加えました。
Outcome
「SFシナリオ」を媒介として未来を探索する機会に
ワークショップ後に実施したアンケート結果でも高い評価をいただき、「未来について真剣に考え、対話することで、新しい視点を獲得・言語化できた」「世代間交流が、自身の考えをアップデートする有意義な機会になった」といったポジティブな声を多数お寄せいただきました。
今後もPAS社内でワークショップ等を実施できるように、制作したSF小説だけでなく、検討プロセスの資料もすべて納品。加えて、「事業アイデアを発想しやすくするために小説を構造化しておきたい」という要望を受け、各SF小説にPASの事業と紐づける解説ページを追加しました。
「SF小説」を題材にビジョンを議論することはもちろん、「SFシナリオ」をつくる過程も、未来を探索する機会となります。インフォバーンでは、今回のSFプロトタイピングのアプローチも含め、より良いビジョンを構想/デザインするパートナーとして、支援をしてまいります。
Voice
本プロジェクトについて、PASのご担当者である田中様、西尾様、河野様にお話をうかがっております。ぜひ下記のインタビュー記事もご覧ください。
Member
プロジェクトリーダー/デザインリサーチャー|阿部 俊介
デザインリサーチャー|川原 光生
エディター|白樫 伸弥
プロジェクト監修|辻村 和正